MISSION 62. あやふやな攻略目標
「わたしたちの任務は氷山上空の航空優勢を獲得することだが、それに伴い同時多方向から音速爆撃機と電子作戦機、潜水艦部隊と艦隊の対艦ミサイル、陸軍ミサイル部隊が同時刻に氷上目標へ攻撃を開始する。事前情報では多数の無人兵器が確認されており、いままで戦ってきた中では桁違いの敵戦力と予想される。各自、心してかかれ」
リディア大佐の勇ましい声におれの武者震いが止まらない。
こういうのを待っていた。
ようやく大規模PvEイベントが始まるので、わくわくと脳汁が溢れ出る。
「いやいや大佐よー、航空優勢の確保って俺達だけじゃ厳しいんじゃねえか?」
「何言ってんのよチョッパー。私達の他にも参加してるでしょ」
通信機に不満を呟くチョッパーをミルが窘める。
ミッション情報を見ると作戦空域は三つのセクターに分割されていて、スヴェート航空実験部隊は南西側を担当することになっていた。
北側にグランジア海空軍、東側をオーディアム軍とランカーの混成部隊らしい。
どれも部隊規模が大きく、比べるとおれたちは戦力的に劣勢だ。
ま、ぶっちゃけこっちは【FAO】ランキング上位をほぼ独占している部隊なので、これぐらいハンデがないとゲーム的に面白くないけどな。
「単純な空戦においては、わたしはまったく心配していない」
「ふ、大佐。何もそこまで褒めなくても、俺は頑張るぜ?」
「チョッパー、残念だけどあんたじゃないわよ、期待されてるの」
おれだよーーーー!!
わかってんじゃんリディア大佐!
すっこんでろチョッパー、と心の中で拍手喝采。
「作戦概要は周知だろうが、作戦空域は著しい電波障害及ぶ光波障害が確認されている。軌道宙域においても衛星通信障害が多発し、偵察衛星も機能不全に陥っているのが現状だ。警戒すべき情報のすべてがシャットダウンされ、わたしたちは文字通りの目隠しされた中で戦いに放り込まれる」
衛星偵察が満足にできていない状況は、確かに厳しい。
突如ポップアップする対空火器は、パイロットにとって死亡フラグのようなものだ。
「不安要素は相手の航空戦力以外にもあるってことか?」
気付かれないほど一瞬の間を置いたリディア大佐が、憂いを帯びた声で続ける。
「
簡単に仰っているリディア大佐さんですが、短時間で全方位による低中高からの数百発のミサイルを各対空兵器にぶち当てることを心配していないところがチートだ。
実際のミサイル誘導を、どこまで無人機や有人機と割り振っているか知らないが、結構な数を担当していそうな気がする。
「なあリリィ。ゲーム的観点から大佐が懸念してることって……」
『当然あるわよ』
今回の
「あ、まて。ネタバレ厳禁で」
『別にネタバレできるほど情報はないわ。偵察にしても哨戒機や無人機は容易に近付けないのよ。敵機が洋上警戒で飛び回っているから。やっぱり洋上において空母があるのとないのとは違うわね』
「へー。敵の機種は?」
『
「お、
『寄せ集めって感じだけど全部無人機ね。型式番号A-BD転換仕様の』
「出たよ謎の装置。それって結局、何なの?」
『あたしと一緒。局地戦闘用の人工頭脳のことね』
おれは特に何も口に含んでないけど、吹き出しそうになった。
「さらりと言うなよ! やっぱ敵はおまえか!?」
『嫌ね、あんな無機質と一緒にしないでちょうだい。とにかくリディア大佐の懸念通り、
本当なら局地専用の人工頭脳のことを根掘り葉掘り聞きたいところだが、いまは
「うーん、まあ、おれの知る限りの氷山空母って昔の兵器だから、最新作の【FAO】に登場させるにはアイディアがしょぼいと思う」
広大な洋上、太平洋や大西洋では、航空機を発着させるプラットフォームとしての航空母艦の存在は計り知れない。
氷山空母が計画された第二次世界大戦時、ナチスドイツのUボートはイギリス輸送船団に対して無双状態だった。
一番のウィークポイントはイギリスとアメリカの中間地点、グリーンランド南東域であり、爆撃機も足りない長距離哨戒機も満足に揃えられない、空母なんてもってのほか。
もうこれでもかと撃沈され、たった5ヶ月で285隻、147万トンも海の藻屑となった。
そんな折りに計画されたのが、船体に氷山を利用する
作り方は簡単、鉄で船の基礎を作成、おがくずを4~14%ほど混ぜた水を凝固させ、ブロック状に切り出して建造する。
ただ、氷が溶けないように骨組みと一緒にパイプを巡らせ冷却もする仕組みらしいが、そもそもその冷却をどうやるのか、なんとか熱交換してもその熱エネルギーをどう処理するのか、推進装置で熱も無限に発生する、溶けないよう艦内も冷やせば人間はおろか航空機や機械にもダメージがいく等々。
技術面での不信や建造コストも嵩んだことにより、
普通に空母つくったほうがよくね?
ってなって計画は頓挫、破棄された経緯を持つのが
『洋上基地だけの機能として見れば悪くないわよ。空母よりお金がかからなければいいわけだし、無人仕様なら居住性も考えなくて済むわ』
「推進能力もあるんだっけ?」
『十五ノットは出ているようね』
「そんなに?」
『
「退役してるだろ?」
『必要になったら復帰させるわよ。今の情勢には欠かせない偵察機ね』
最高速度マッハ3の超音速、高々度戦略偵察機が現役復帰するとは、航空機マニアにとっては垂涎ものだぜ。
ゲームでだけど。
「でもこんだけの巨体を動かせる推進装置や氷山を溶かさない冷却機構とかをさ、ご都合主義な設定ではごまかさいでほしいのよね、軍オタとしては」
『あら、言ってなかったかしら?
「……は? え? なに、宝具??」
この
『博士が七世代先を突っ走っているのは話したでしょ? 【今は儚き遠く理想郷】は博士の理論によるとワープ航法装置のことなの。ただ残念なことに理論はあっても技術が追い付かなくて、未完成で終わったわ』
「おまえは何を言っている?」
『小さな時空の穴しか開けられなくて距離も短いの。太陽系すら出られないわ』
「ねえ、おれの話聞いてる?」
『だから
非常に残念だという表情の
「…………は?」
マジでおまえ何を言っている?
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