MISSION 61. 空母打撃群


「色々と質問したいことがある」

『あら、久々に会ったのに何だか不機嫌な顔ね?』

「おまえが黒幕だな!」


 おれはバイザーに映る人工頭脳SBDのリリィを睨み付けた。

 フロリダ夢の国休暇から別便でユリアナ基地に戻った直後、新ミッションが発令されて慌ただしく出撃したスヴェート航空実験部隊改め航空遠征打撃群は、総勢12機のスコードロンを結成していた。


 だが、グランジア合州国所属のリッチハートとオルガは、本国で編成された部隊でおれたちの援護をし、コハルとカオは対地メインなので後から遅れてやってくるらしい。


『は? あんたバカ? 黒幕はスタニスワラ博士よ』

「いやいやチョッパーはAIって……、って、え? なに?? スタニスワラだと???」

『そうよ。物理学、脳科学、医学、機械工学とあらゆる分野を網羅した天才ね』

「ちょ、ま。情報量が多すぎる」


 そもそもスタニスワラってリディア大佐のミドルネームなはずだ。

 しかも最初に研究所の名前としても登場していたし、まさかのマッドサイエンティストラスボス設定きたこれ。


『でも、もう亡くなっているわ』

「なんですとっ?」


 ますますの混乱が脳内を駆け巡る。


『飛び抜けて優秀な科学者で、あたしを作った【親】でもあるわ。冗談抜きに今の科学より七世代先を進んでいるって言われてたくらいよ』


 どこか懐かしそうな顔で思い出に耽る人工頭脳SBDのリリィは、相変わらず豊かな感情をバイザーに映し出す。


「つまりゲームクリエイター、でいいんだよな?」

『それも肩書きに入るわね』

「ゲーム設定上の人工頭脳SBDを作成したってことだよな?」

『そうとも言えるわね』


 あくまでゲーム設定というところに一安心だった。

 危うくおれは、現実と混同する一歩手前まできていたからね。

 多分、スタニスワラという名前で、現実にいるリディア大佐と変にリンクしてしまったのだろうよ。


 とはいえだ――――


「七世代先まで進んでるは流石に言い過ぎじゃね?」

『次のミッション内容を見てないの? 氷山空母が出てくるわよ』

「氷山空母!!??」


 待ってましたの【FAO】シリーズの超SF設定兵器がようやく顔を見せた。

 空対地超電磁砲レールガン、超大型空中空母や大型潜水空母、他にも巨大兵器のオンパレードだったが、今回は古くも新しい氷山空母ときた。


「めちゃくちゃ胸熱展開だけど、撃沈は難しそうだな」

『ちょっと現実的じゃないわね。これを見てちょうだい』


 嘆息した人工頭脳SBDのリリィは、ポップアップスクリーンに今回のミッション内容が表示させる。

 極めてシンプルに、氷山空母撃破が勝利条件、とあるが。


「簡単にできたら苦労しねえわ」


 おれも人工頭脳SBDと同じく深い溜め息を吐き出した。


 現代における対艦ミサイルの種類は、徹甲榴弾やら成形炸薬やらぶっちゃけ色んなのがあってよく分からないけども、要するに焼夷効果のあるものを使用して火災を起こさせるのがメインだった気がする。


 大体の軍用艦なんて火災が起きて弾薬庫に引火で大爆発のち撃沈や、大火災からの電気系統ダウン&ダメコン失敗による沈没、運悪く船を動かす司令塔に直撃して首脳部全滅やらで終わりばかりだ。


『あんたの言う通り、ほぼ全体が【氷山】で覆われてるから延焼効果なんて期待できないわ。成型炸薬の威力だけじゃ氷の表面を削るだけね。対艦ミサイルを撃つだけでももったいないだけよ』

「全身ガッチガチの固めた超弩級戦艦よりも厄介だからなー」

『あら。超弩級戦艦も厄介よ? そりゃ人が配置されてたら何十発も対艦ミサイル撃ち込んでに持ち込むことはできるかもしれないけど、撃沈は厳しいんじゃないかしら』

「なにその超弩級戦艦が無人だったらやばくね案件。近現代の軍用艦ならどこかしらウィークポイントあるでしょ。何の為の精密誘導兵器だっつの」

『それを含めての何十発なの。一〇~九九発の対艦ミサイルって非現実的でしょ?』

「どこのオケアン演習だよ」


 あらゆるミサイル兵器による飽和攻撃を目的としたオケアン演習。

 これは実際、旧ソ連がアメリカ海軍の空母群を撃破しようとした演習の名前だ。

 イージスシステムが対応仕切れないほどのミサイルを同時に発射して処理落ちさせるという数の暴力作戦、F5アタックだ。

 演習自体は成功したらしいが、確かになみの弾幕ミサイルがやってきたら、その迎撃は困難だろう。


『規模は近いわね。はい、これが友軍戦力。次は氷山空母の概要図』


 おれはざっと自軍兵力と敵図を見渡した。


「え、これグランジアとオーディアムの共同作戦なの?」

『氷山空母の名称を【ハバクック】と改め、その出現と進行脅威度はどちらの国に行っても甚大な被害が想定される為らしいわね。両国から原子力空母を基幹とした五個空母打撃群が編成されて、現在、大西洋北部のど真ん中に集結中よ』

「グランジアが三隻、オーディアムが二隻か。マジで大規模だなこれ」


 作戦に参加する艦艇が優に百を超えている時点で、今までのミッションが霞むくらいの一大決戦な舞台が整えられていた。


 もしかしたらここで一気にランキングスコアを更新できるかもしれない。


『もちろんあたし達を含む空軍もいるから、海空合わせれば相当な飽和攻撃の実現が可能ね』

「まさか本気で沈める気じゃないだろうな?」

『対艦ミサイルごときで氷山空母ハバクックを沈められるなんて、でも思わないでしょうね』

「……ねえ、おまえさ、実は戦闘機の擬人化設定とか持ってる?」

『は? 妄想は頭の中だけにしなさい』


 急なオタ知識に乗ってやったのに、いつもこういう激辛対応をしてくる。

 これ以上、を振ったり乗っかったりしても痛い目みるだけのなので、おれは目の前のミッションに集中することにした。


 今回の敵である氷山空母ハバクック、画像で確認するとメガフロートみたいな形ので、全長は一六〇〇メートルと空母にしては馬鹿でかい。


 いや、現行の軍用艦スケールを遥かに超えているだろう。


 その卓上氷山の周りには通常型氷山が密集し、大小無数に広がっていて、まるで氷山空母ハバクックを守る輪形陣のようにも見える。


「おれたちの任務って航空優勢の獲得ってあるけど、対艦ミッションじゃないんだ」

『事前偵察で氷山空母ハバクックにも近接防御システムが備わっているから、対艦ミサイル群はそれらの破壊を主とするのよ。あんたは当然、敵機の排除が任務』

「いやそれは分かるけど、何の為の排除だよ?」

『軍事衛星が不調なのは理解してるでしょ? だから終末誘導をリディア大佐をプラットフォームと、無人機のレーザー誘導で賄うの』

「じゃなくて、最終的な撃破はどうするんだよ?」


 対空兵器を殲滅するのは防空網制圧の初歩だが、その後のプランが分からない。

 陸上であれば、地上部隊の近接航空支援が可能になるので大助かりだが。


 ――――あ!


氷山空母ハバクックに上陸するってことかこれ!?」

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