第4話 アンダーワールド


【コフィン】を起動した麗奈は、初回接続のために契約書に電子印とサインをしゲーム内設定をする。




《誓約書への同意を確認》


《これより精神保護システムを開始》


《精神保護システムは仮想空間内と現実の

感覚の解離及びそれに関する生活の障害についての機能を持っています》




どうやら仮想空間内と現実では感覚の解離が激しく、そのために仮想空間内と現実の操作感を、システムサポートを用いて遮断するらしい。




麗奈からしてみればずば抜けた運動能力に恵まれているため、特に必要のない機能であるためか聞き流している。






だがこれは普通の人間には必須の機能であり多くの人が知っている知識だ。




この機能を体感したことの無い麗奈にとってはあってもなくても変わらない、そんな感想だ。




《視覚テストを開始》


《身体を動かさずに視覚のみを動かしてください》


ガイダンスが流れると、急に視界が開き明るくなる。麗奈はは急に開けた視界に驚愕しながらも周囲を見渡す。白い床や天井が見え他にはなにもない。




《可視範囲が規定範囲以内に収まったことを確認》


《可視光域の設定に異常無し》


《続いて聴覚テストを開始》


《感覚を聴覚に集中してください》




高い音、低い音、雨音、土の音、石の音、銃声や悲鳴など、様々な音が聞こえる。


しばらくすると、それらの音は止んだ。




《可聴領域に異常無し》


《続いて、触覚テストを開始》


《簡易仮想身体の適応を開始》


《簡略化触覚のフィードバックを開始》




すると、マネキンのような生気の無い身体が出現する。


それは麗奈に床や、大気の圧力、熱や振動の感覚を伝えてくれる。




《簡易仮想身体の適応を確認》


《簡略化触覚のフィードバックを開始》


《触覚感度は規定により50%、痛覚は35%に設定》


《触覚感度が規定値内に収まったことを確認》


《ELLOR》


《有機天然神経総量の規定値の突破を確認》


《仮想身体全手動制動オプションが利用可能》


《ヘルプより誓約書及び解説表示》


―――――――――――――――――――――――――――――――


ヘルプ:全手動制動オプション


………………………………………………………………………………………………


このオプションは、天然有機神経が規定値を突破し、誓約書に同意した方のみ利用可能なオプションです


適応すると現実と同等のレベルで身体の制動を自在にコントロールすることができます。


―――――――――――――――――――――――――――――――




どうやらある程度現実で運動神経のいい人がシステムサポートを無効化し、現実と同じ感覚で身体を動かす為のオプションらしい。




私にとってはうってつけの機能だと、麗奈は直ぐ様この機能を起動するためにヘルプに記された通りに設定をする。




すると、オプションメニュー欄にショートカットが現れる。




《オプションはオプションメニューから選択可能》


《続いて嗅覚テストを開始》


《嗅覚オプションには標準設が用意されています》


《標準設定1を設定》




大気の匂いに加え、普段感じることが出来ない自分の体臭も感じることができる。




生まれたてのこのマネキンのような身体は、卵のような匂いがした。何故たまご?と麗奈は疑問顔になる。




《続いて味覚のフィードバックを開始》




大気の雑味が訴え掛けてくるように絡み付く。


 興味を引かれて自分の指を加えてみると、ゴーヤとマヨネーズの味がした。




意味がわからない。何故開発者は匂いや味をこんなにしてしまったたんだろうか?麗奈は開発者の考えが分からず、更に疑問を深くする。




《味覚の再限度及びフィードバックは


 規定により50%未満に抑えられています》


《全感覚のフィードバックを完了》


《Welcome to the UNDERWORLD》


《これより業務をシステムサポートに移行》


《Lording》


【お待たせしました】


【これよりこれより精神保護システムより


 業務を引き継ぐシステムサポートと申します】


【これまでの行程で何か質問などございますが?】




 麗奈は今までの説明を反芻し何か聞くべき事を考え始める。




どうだろう?何かあったっけ?大体の仕様などは塁ちゃんなら調べてるだろうし、今ここで聞きたいこともない。




そうだ、その塁ちゃんと会わないと。


知人と待ち合わせしている、どうしたら会える?


そう聞こうとして麗奈は、はたと気づく。




この姿で声は出せるのか、ということだ。


困っていると、システムサポートが音声を発する。




【当機は思念により対話を可能としますが、


生命体とのコミュニケーションツールとして発声が実装されています。

しかし、簡易仮想身体では慣れるまで細かな動作が困難です。引き続き思念による意志疎通を推奨します】




なるほど、考えてみればこの機械は脆弱な意識を仮想空間に送る機械だ。意識を読み取る事など、それに比べれば容易く行えるのだろう。


お金持ちのガジェットにはイヤリング型の思念会話装置もあるそうだしね?と麗奈は塁に聞いた事を思い出す。




そして、この間に麗奈にはもう一つ疑問が浮かぶ。


 


その疑問はこの疑問自体が疑問だという事。




分かりやすく纏めると興味が強くなり、疑問に思うことが多くなるような気がする。ということだ。何故だろう?と麗奈は疑問を露に首を傾げる。




麗奈はあまり関心が強い性格ではなく、仮に評価するなら五段階ならば三程度だと自分を評価する。




そんな自分が何故か些細な事を気にするのだ。


麗奈には普段の自分ならばこの疑問にすら到達しなかったと自身の普段との差違について思考する。




【好奇心の肥大と探求欲の増大が認められるかという質問ですが確かにその傾向を確認】


【第一及び第二演算装置が初期稼働のために情報を収集、蓄積する過程で、共有すべき

情報を使用者の意識を構成する脳に送付】


【送付された情報を処理する過程で、意識に思考が疑問として表出したと考えます】


【必要と判断された記憶は蓄積されていき、

 記憶は不必要なものから脳が忘却します】


【また演算装置はあくまでも使用者が感じた感覚として定義される情報のみを処理し、

ゲームシステムとは一切の情報の共有及び

相互干渉を行わずに、独立して演算します】






なるほど、聞き逃したり見逃したりしたら勝手に処理して教えてくれるよって事なのかな?


昔のVRの代替感覚による察知みたいなものかな?


と麗奈は考察する。




何せ自分は知っていても感じていない事を教えてくれるだけなんだから。それはすなわち思考に干渉している訳ではない。ただの第六感なのだと。




【質問は以上ですか?】




そうだね?もう聞きたいことはないかな?


そして麗奈は質問を終えると、すでに中で待っているだろう親友に会うために次の設定に進む。


【了解しました】


【これより、仮想身体の製作に移行します】


【仮想身体はリアルスキャン、マニュアル、オート、ハイブリッドモードで製作します】


【リアルスキャンでは現実を元にした現実と同等同等のレベルで使用できるリアルに準拠したモデルを製作します】


【オートモードはバイタルデータを元に仮想空間内に最も適したモデルを製作します】


【マニュアルでは手動で製作されたモデルを

私が骨格や筋肉を定義しモデルを製作します】


【また、この工程も手動で行うことが出来ます】


【ハイブリッドはリアル、マニュアル、オートの組み合わせでモデルを製作します】




ハイブリッドの具体例は?




【はい、ハイブリッドには種類があります】


【リアルオート、リアルマニュアル、

オートマニュアル、マニュアルオートです】


【リアルオートはリアルモデルを元に自動で仮想空間内に最も適したモデルを製作します】


【リアルマニュアルはリアルモデルを元に、手動で手直しを加えモデルを製作します】


【また、リアルスキャンでは外見の色情報以外の髪型や骨格等の編集を行うことは出来ません】


【オートマニュアルでは自動製作モデルを、さらに手直しを加えてモデルを製作します】


【マニュアルオートでは手動でモデルを製作し自動で最も仮想空間に適した形に修正します】




色々方法が用意されているんだね?


どれを選べば良いかわからない位だ。




なら先に作りたいアバターを決めてみよう。どんなモデルが良いだろう?心情や悪童心など、麗奈は様々な事を加味してモデルを製作する。


もともとの容姿が中性的な外観に近い彼女は

やっぱり、可愛い方がいいよね?


現実ではいつも色っぽいとか、かっこいいとかしか言われたことないし、今より小さかった頃も大体おとなしい子供って評価だったから少しだけだけどそういうの言われてみたいな。


そう考えると、背は小さい方がいいよね?


リアルでは176cmあるし、こっちでは150cm位にしてみようか、そうなると髪型は長めが可愛いかな。




小さい子が大きなものを持ってるのは可愛いし。ただ、胸は現実のままでね。


その方がなんか楽しそうだし、塁ちゃんなら

絶対おっきくするから、からかったら愉しいしね?




髪色は日本人らしく黒にしようかな?

少し色の混ざった黒も良いけど、墨のような

つやつやした黒にしようかな?




肌色は天然の褐色っぽく、虹彩はオレンジと黄色の昆色にしようかな?と、大まかな容姿を決める。


そして次に麗奈は製作方法を決める。


この容姿を作るとなると、リアルマニュアルで作ればいいかな?と考えた麗奈は、


リアルマニュアルで作製で。と念じる。




【了解しました】


【リアルマニュアルで製作を開始します】


【リアルスキャンの準備が出来ました】


【リアルスキャンを実行しますか?】




はい。




【リアルスキャンを開始します】


【完了まで約二分】




想像よりも結構早く終わりそうだね?


二分ぐらいなら待てないって人も少ないだろうし。




【リアルスキャンを完了しました】


【マニュアル編集を開始します】




スキャンが終わると編集画面が麗奈の周囲に展開される。


どうやら、身体の各部位ごとに整合性がとれるよう大まかに決定し、細かな調整、質感の選択をして、最後に特徴をつけるようだ。


事前の要望通りにするには、これらのメニューから編集する方法と完全に手動で造形することもできるようだ。


麗奈は最後に細かな仕上げに掛かる。




アバターの造形にてを加えようとしたところで、麗奈はこう思った。しかし、私にはデザインセンスが全くない、と。




ので、顔を子供っぽくしたり、体型などはメニューから編集する。これだけだとありがちなので、肌の色や髪色などは手動で塗り、特徴的な肌の斑模様をつける。


髪の長さを編集し、腰まである長さに。


仕上げに、ボイスを自分の声で合成する。




するとどうだろう、褐色の肌に白の斑の不思議な肌を持つロングヘアの発育の良い少女が現れる。




【以上でモデル作製を終了しますか?】


【一度仮想身体の作製をすると、精神の安定の観点から幾つもの身体を動かす事は危険と

されている為一ヶ月間再作製は禁止されます】


【本当によろしいですか?】




最後の確認に麗奈は素直な気持ちで答えた。


特に不満な点もないし、気に入っている。


どうしても合わなければ、また作り直すし、


これで良いよ、と。




【了解しました】


『おめでとうございます』

『オンラインが解放』

『仮想空間内で他のプレイヤーと交流が可能です』




仮想身体の作製を終えると、音声が流れる。


ロビー接続とフレンド機能が追加されたとある。




麗奈がメニューの通知の項目を開くと、フレンド申請のメッセージが塁から送られてきていた。


麗奈は塁からの申請を承認する。




フレンドの項目から塁…ヒメハナバチを選択すると、フレンドチャットやメッセージがあった。




メッセージだと集中している塁は見逃すと麗奈は考えたのでフレンドチャットをコールすると、少しのコール音の後に、塁ちゃんが出る。




〈もしもし、麗奈?〉




返事をしようとすると、まだ声を確認していないと気づく。


麗奈は咄嗟に現実のように発声すると、現実の麗奈ととほぼ同じような声が出た。




〈もしもし、塁?〉


〈モデル作製終わったみたいだね?〉


〈そうだけど、分かるの?〉


〈うん、簡易モデルでは発声難しいからね〉


〈そっか、それでね〉


〈うん、どうしたの?〉


〈キャラネームの設定がなかったんだけど〉


〈あー、それは向こうでつけるんだよ〉


〈どういう風に?〉


〈向こうでは生存者は避難所で名前を登録するの〉


〈ヒメハナバチって明らかに人名じゃないけど?〉


〈識別のためだから、何でも良いのよ〉


〈なるほどね〉


〈それで麗奈はすぐこっちに来る?〉


〈いや、少しやることがあるよ〉


〈じゃあそれが終わったら、オープン記念イベント 


 ワールドって言うところに来て、待ってる〉


〈オッケー、終わったらすぐ行くね〉


〈それじゃあ切るよ?〉


〈じゃあね〉




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Maskedfear ONLINE 「徒労嫌いのビクアドが世紀末に殴り込み!」~無駄なことほど愉しいもの!但し全てを無駄にはしない!さぁ、無駄を無駄なく無駄にせず、節約と戦略の限りを尽くしましょう~  @801081018

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