第22話 あとがき

 リン


「そろそろね、この山を越えると、海に出るはず、約束の場所ね」

夕暮れの山奥でカラスの鳴き声が聞こえた。

「そう言えば、この星の誰かが言っていたわね、ヒメコンドルは何処に腐乱死体があのか判るのではなく、何処かで此れから腐乱死体が出るのかが判るのさって」

彼女はリュックから水筒を取り出そうとした。するとスケッチブックから千切った一枚の画用紙が出てきた。そこには彼女の似顔絵が描かれている。旅先で出会った少女が描いてくれたものだ。

「お姉ちゃん綺麗ね、お顔、描いてあげるね」

彼女は其の絵を見ながら思う。

「この星の人達は、少しだけ勘違いをしているところがあるみたいね」

そして、暗くなり始めた空を見つめて星を探すような仕草をしたが、まだ星が見える時間でもない。

「夢は叶えるためだけにあるのじゃない、叶えようとする努力に美しさがあるってことをね」

彼女は出しそびれた水筒に手を掛けて続ける。

「この絵のように、不完全だけど、とても綺麗な絵。この星の有名な画家さんが、どうしても満足がいかないって、亡くなるまで手直しを続けていた絵があるけど、今じゃ誰も知らない人がいないくらいに有名な絵になっている。素敵な夢は叶えられなくても、語り継がれていくものなのにね。この星の人達が、少しでも其れを知ってくれたら、未来は変わるかもしれない」

そう言うと彼女は、上着を脱ぎ、中のシャツのボタンを外して、胸の扉を開けた。そこからペンギンそっくりの異世界生物が出てきて、

「って、やってられるかい! 誰やねん、こんなエージェントスーツ作ったん。おかげで変な男がうじゃうじゃくっ付いてくるし。初めて地球いう星に来たけど、こんなエージェントスーツはあかんわ。星に帰ったら言うたらなあかんな。今度からエージェントスーツは、カビ臭い店で働いてる、同んなじくらいカビ臭い爺様くらいにしとかんかい! てな」


 杉浦美咲


杉浦美咲は、洋菓子店の店長の都合で移転した店を辞め、再就職が決まっていた。市木清田が就職して、半年後のことである。

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紳士の条件 織風 羊 @orikaze

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