第21話 4 市木清田



「そうかぁ。決まったかぁ」

彼はアパートに届いた内定通知を見ていた。

「私もサラリーマンの仲間入りだな」

同窓会の時に丸山に言われた言葉を思い出す。

「お前、ムーミンパパみたいやな」

「どう言う意味だ?」

「ムーミンパパって、シルクハット被って、パイプ吹かして、書斎で座ってるやん」

「そうだ」

「でも、自分のこと小説家や言うてるけど、一冊も書いた本ないねんで」

「うーん」

唸る事しかできなかった自分を思い出している。このままではいけない、と同窓会が終わった数日後、アルバイト生活に区切りをつけて就職活動を始めた。そして、シルクハットなど最初から被ってはいないが、煙草と小説に別れを告げる事に決めた。今まで何も書けなかった殆ど白に近い原稿用紙を整理し始めると、古びた一枚の紙片を見つけた。


 市木清田は、その紙切れを見ながら目に熱いものが溢れ出した。


「馬鹿だよな、みんな、全然成長できていないじゃないか」


そこには、こう書かれていた。10代後半の幼い発想である。


 連判状


  丸山 武

  梅本一義

  近藤勇二

  市木清田


   私達は、どんな状況に陥っても、運命からの質問状に対して逃げはしない

   人として、紳士らしく答えを見つけるであろう。


    これをもって私達は紳士連盟を結成する。

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