第20話 3 近藤勇二
「あ、勇二君はいますか?」
丸山は同窓会が終わってから数日後、近藤に電話してみたが留守のようだった。同窓会の時に聞いておいた工場の方にも電話をしてみたが、そこも留守のようであった。スマホの電話番号を聞いておけば良かったと思いつつ、近藤の実家に電話を掛けてみると、近藤の母親が電話に出てきた。
「いえ、うちの子、今、外出してるんよ」
「そうですかぁ、勇二君の家にも、工場にも電話してみたんですけど、両方とも繋がれへんので、おかぁさんの方に電話させてもろたんですけど」
「そう。そうですか。実はね、うちの工場、やめてもうたんよ」
「え。」
勇二は、一人で住んでいたマンションの部屋を引き払い、今は実家に戻っているようだ。そして、もう、工場は無い。
「こんな時代でしょ、やめなあかんようになってもうてね。うちの子、何んも言うてへんかった?」
「はい、全く。で、そんなことになってお父さんは大丈夫なんですか?」
「あら、それも黙ってやってんねぇ。主人亡くなってんよ、交通事故やってんけどね、フラーと道路に出て、車に跳ねられたんよ。まるで自殺みたいやんか・・・」
「それは、知らなかった事とはいえ・・・。」
「ええんよ、同窓会も主人が亡くなって間もないし、あの子、どうしょうか、って言うててんけど、私が、こっちは大丈夫やから、気晴らしに行ってこい、て言うたんよ」
「そんな事とは知らず、申し訳ありませんでした」
「何言うてはるん!感謝してるんよ。あの子、同窓会から帰ってきたら、何んか吹っ切れたみたいなところがあって、お父んの分も生きなな、安心しいや、俺がお母んの面倒もみたるからな、言うてねぇ。今日も仕事探しに行ってるんよ。そうなって頑張りだしたんも、みんなのおかげやと思てるんよ」
「とんでもありません。申し訳ありませんけど、勇二君が帰ってきたら、私の所に連絡くれるように言うといてくれませんか」
「はい、分かりました。帰ってきたら言うときます」
「それでは、失礼します」
勇二は今、職業安定所にいる。職を選ばなければ再就職は何とかなりそうではある。大好きだった油の混じった金属の匂い。幼い頃から聴き慣れた鋭い機械音。どれも懐かしい。思い出せば、今すぐにでも涙が出そうだ。
「ちゃうねん、あかんねん、0からのスタートやねん、頑張らなあかんねん」
そう言うと近藤勇二は職業安定所から外へ出た。玄関の前でたっぷり息を吸い込むと、
「今度の同窓会、楽しみやなぁ」
晴れ渡った青空の下、彼はポケットに入れていた一枚の紙片をシワにならないように握りしめて言った。
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