夏の風景が目の前に広がる。まるでその場にいるみたいに。

  • ★★★ Excellent!!!

 文章なのに風景が見え、蝉の声が聞こえ、焼け付くような日差しの中、瀬戸内の海がきらめく。涼やかな木陰から、その風景を見る……。広島に行った事はないのに、読後にはその景色を今しがた見てきたような感覚に陥りました。

 物語は夏休みの帰省時にありがちな日常的な出来事なのですが、祖父母の家で歓迎はされるけど居心地が何処か悪い感じだとかの、子供の頃に一度は経験した気を使うしあまりその場に居たくないようなもぞもぞとした感情が蘇ったり。
 
 大きな事件があるようなお話ではないのですが、自分の過去が揺り起こされる感覚もあって、懐かしさと田舎のいい所と悪い所を思い出し、戻りたいとまでは思わないけど、帰る場所だろうなと思ってしまう気持ちが沸いてきたりと、郷愁を誘われる部分もあって。

 長らく忘れていた故郷に対する気持ちが戻ってきて、ただの夏休みの一エピソードを覗き見たというような感想だけでは終わらない作品でした。

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