モノクロの世界に
ナビ
第1話
ある日、私の世界がモノクロに染まった。
黒と白にしか見えなくなった。私はこのことを親にも医者にも誰にも言わなかった。心配をかけたくなかったし、その理由が何となくわかっていたからだ。
私の世界にまだ色があった頃、毎日思っていたことがある。
クラスで人気で可愛いあの子や頭が良くてみんなに頼られてるあの子はどんなに世界が鮮やかにみえるのだろうかと。
こんな事を毎日のように考えているから私の世界から色が無くなったのだと思う。きっと私なんかに色があっても無駄だと思われたのだろう。
私は世間で言う陰キャと言うやつだ。教室の端の方で本を読んでいるような典型的な奴。だから、友達なんてものは居ないし毎日ただ学校に行って帰って寝る。そんな生活で私の世界は常に暗かった。
だから、どうせ色があってもなくても私の世界は変わらない。
実際、普通に過ごしていて不便なところは無い。強いて言うなら、黒板の重要な点が分かりにくい。あと料理が不味そう。まあこのくらいだ。
モノクロになって数週間たった。
私はこの生活に慣れてきた。モノクロの世界も案外楽しいものだ。今では、夢までもがモノクロだ。
そんな時、席替えが行われた。私のような陰キャにとっては最悪な事だ。授業をするだけなのに何故わざわざ席を変える必要があるのだろうか。席替えはいつもくじ引きで決まる。
1番後ろで安心したのもつかの間、よりによってクラスで1番陽キャな男子が隣になってしまった。
最悪だ。
絶対話しかけてくる。
ただでさえモノクロに見えるのにストレスで黒だけになるかも。とそんな心配をしていると
「おー。初めて話すじゃん。よろしく〜。」
ほら来た。
「あ、うん」
あー絶対こいつ変な奴だと思われてる。
こういうときなんて返せばいいかわからん。
みんななんて返すんだろうか。こんなの習ってないぞ。まあ、1人反省会は置いといて。
あー。こいつの隣で1ヶ月過ごすと思うと先が思いやられる。
次の日、私は話しかけられないように陰キャの必殺技【話しかけるなオーラ】を繰り出した。
だが、こいつには効かないようだ。また話しかけられた。
「ねぇ、見てこれ」
彼はそう言って私に手品を見せた。
それは、鉛筆が消えるというものだった。くだらん。
私はすぐに鉛筆が耳の後ろにあるのが見えてしまったので
「耳にあるじゃん」
と答えたら彼は残念そうにしていた。仕方がないでは無いか。見えてしまったんだから。
また、次の日も次の日も話しかけてきた。
私も【話しかけるなオーラ】を毎日放っていたのだが。
「お前、いつも笑わないよな」
どうやら彼はどうにかして私を笑わせたいらしい。
普段、私はあまり笑うことがないのでいつも苦笑いで誤魔化していた。陰キャなりの配慮だ。真顔よりはいいだろ。今日は私の名前を使ったダジャレを言ってきた。
そんな感じで毎日面白い事や話を考えて話しかけてくるのでついには私も彼に心を開き一緒になって笑うようになっていた。
それからもたまに彼と話をするようになった。彼と話すとモノクロも少し明るくなるような……気がする。
ここ最近、彼と話していると何故か心臓の鼓動が速くなって顔が熱くなる。なんでだろうか。この話をネットで検索したところ、どうやらこれは恋らしい。
ん?恋?
どうやら私は彼と話しているうちに彼に恋をしたらしい。
ふと私の画面に白と黒の他にピンク色が現れた。私はいきなりのことだったので何故、私にピンク色が見えるようになったのか不思議に思った。
私は、色が戻ったのがちょっとだけ嬉しかった。
彼と話をしているうちに、彼の友達とも話をするようになり、私はあんなにつまらなかった日常が楽しく思えるようになった。
そして、彼に恋をして数週間がたった頃彼の友達に彼に恋人が出来たことを聞いた。
それを聞いた瞬間、私の世界に青が戻った。おそらく悲しみの青だろう。私はすぐにトイレに駆け込み1人で泣いてしまった。まあ、私が行動しなかったのが悪い。
それから、少し落ち着いた頃に色について考えた。私に色が戻る時は大体感情が大きくでる時だとわかった。
色が戻ってきたり、色についてわかった事はとても嬉しかったが、彼に恋人が出来たということが頭の片隅から離れなかった。
それからというもの、彼を避けるようになり話すことは無くなった。このままではダメだと思うものの、気まずいというかなんて言うか。
遂には、卒業を迎える今日になっても話すことは無かった。
私は最後なんだからと彼に分かっていながらも諦めるために勇気を振り絞り告白をしてスッキリさせようと思った。
そして、彼を見つけた。
「ちょっといい?」
「久しぶりに話すね。どうした?」
「あの、今まで避けたりしてごめん。実は君と話をしているうちに君の事を好きになったんだ。でも、君に恋人が出来たって聞いてなんか気持ちがぐわぁーってなってさけちゃって。最後に好きっていう気持ちを伝えて、スッキリさせたいと思って。自分勝手でごめん。」
「えっ、ちょっと待って。俺、恋人いたことないけどそれにずっと……」
「え?何?」
「だから、ずっとお前の事気になってて。だから話しかけたりして、笑わせたいと思ったりしたし。話してるうちに好きになったり……。」
「……うん?」
「つまり、俺もお前のことが好きだったっていうこと!」
「え?じゃあ?」
「両思いだったってことじゃねーの?俺ずっとお前の前で顔赤かったからとっくに気づかれてるかと思ってた。」
そうか。私は色が無くなったから気づくことが出来なかったんだ。私は色の重大さに気づくことが出来た。
「仕切り直して言うけど、俺と付き合ってください。」
「え?いいの?」
「いいから言ってんの!じゃあ、はい!握手!」
そう言って彼と握手をした時、彼の顔を見ると赤く染まっていることが分かった。
私の世界に赤が戻った。
彼と一緒なら私の世界もまた、鮮やかすることが出来るだろう。
彼という絵の具で私の世界を染めていきたい。
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