欠けた仲間
手紙を読み終えた。
俺が猫かんのところに行くべきだったんだろうが、このアジトにとって恐らく総長の次に重要な人物であるナルが欠けたショックは想像以上にすごかった。総長が伝えに行くとは言っていたものの、彼女の顔面は蒼白だった。
それにしても信頼しあっているように見えた彼らがまさか情報提供しあっていないなんて。
猫かん、落ち込んでいるだろうな。
そろそろ話も終わっただろうか。
部屋のドアノブに手をかける。
がちゃり、と開ける
前まで真っ赤なカモミールが描かれていた絵があった場所が空洞になっていた。大量のパソコンはそのままで服なども残されているものがあるようだ。もともとものが多いわけではなかったがなんだかぽっかりと空いてしまったようだ。
ナルの部屋だ。
らいなとの思いでの絵は持って行ったんだな。
赤の国のほうがよかったということなのだろうか。
「佐倉くん」
「・・・久遠」
ナルの部屋に入ってくる。
そういえば猫かんや総長はナルとのつながりが強いとは聞いていたものの久遠との関係は何も知らないな。話している姿も見たことがない。
手紙の内容からして仲が悪いとは思えないが。
「総長は?」
久遠はよほどのことがない限り護衛担当の久遠と一緒に行動することが基本になっている。それなのに彼女の近くにはいない。
「一人でいたいって」
「久遠は大丈夫なのか」
久遠だって今まで一緒にいた人がいなくなってしまってショックは少なからずあるだろう。
しかし、相変わらず落ち着いた様子でくるくると指に髪を巻き付けながらナルがよく座っていたソファーに腰かけている。
俺の言葉に、手を止めた。
「・・・大丈夫」
ぽつりと、返した。
「総長とか、猫かんとは違うから。別に信じてなかったし」
信じていなかった?
大丈夫と久遠が返したが、元気がないような気がする。周りが平常心を乱されている様子だからこの子がしっかりとしないといけないのかもしれない。
手紙を見た感じだとナルからも信頼されているように見えたが。
「ナルさん、一番最後にアジトきた。それに来た理由、不純」
「不純・・・?」
久遠が、ぽつぽつと過去を語り始めた。
「久遠さんって護衛係なのに私が結界簡単に破れるとか存在する意味ってあるんですか?才能がないのにそんなに努力したところで勝てないなんて哀れですね」
これが、印象に残っている一言だ。
久遠はこの言葉を忘れることはないだろう。
久遠は幹部の中で一番長い間アジトに住んでいる。そして猫かんが次に来た。今では考えられないことだが猫かんが最初に来た時は冷たい表情をしていて無口で口を開けば文句を言ってくるような生意気さがある少女だった。でも実力は正直誰よりもあったから何も言えない状態だった。それに総長も気にしていない。
言われた言葉よりも、それに対して何も言い返せなかったのが悔しかった。
今まで自分しか幹部がいなくて、それでも弱小国であれば自分だけで守ることが出来ていたのに。今まで負けたこともなく自分に自信があったのに対して、練習もろくにしていなかった猫かんに完敗させられたのだ。
地べたに這いつくばって負けを宣告させられたときほどつらかったことはなかった。だから今も猫かんに勝つために過酷な練習を続けている。今になると猫かんも練習しているため、なかなか差は縮まらないものの地道に力をつけている。
それが一変したのが、赤の国が視察に来ていないかを確認するために国と国の間に建てられている壁周辺を警備して帰ってきたとき。
「戻りました」
ほんのりと頬が赤い。
「・・・おかえり」
「あれ、猫かんちゃんどうしたの?」
目ざとくて遠慮のない総長が、久遠の後ろから出てきて聞く。久遠はそこまで察しのいいほうでもないがそれでもなんとなくいつもと違うということは気づいた。
すると、いつも凛々しい瞳がこちらを向かない。
首を傾げた。
「何にもないです」
そっけなく答えた猫かんはいつものようにさっさと自分の部屋に引きこもってしまったが、歩いていくその足取りは軽かった。
なんなんだろう、とは思った。
すると、総長が勢いよく久遠の肩を引き寄せて耳元で囁く。
「絶対オトコができたんだよ」
「え・・?」
「あんなことになってる猫かんちゃん見たことある!?好みの人が見つかったか付き合ったかどっちかだって」
ありえない、と思った。
だってあんな魔力だけにしか取り柄のないような子だ、と思ってしまったのはきっと才能への嫉妬なのだろう。
それにしても、今とは変わらず戦争のない国にしたいという思いは変わっていない中でそんなことに彼女が現を抜かすような真似はしない。そう確信していた。
「猫かん有名だから無理。それにそんな暇ない」
そうだ。
猫かんは幼いながらに持つ力の差があまりにも大きすぎて猫耳を見た瞬間に猫かんだと分かってしまう。幹部である彼女に手を出したらどうなるかというのは国民であればわかるだろう。
今は高校に通うために久遠の防御魔法で猫かんだとばれないようにしているものの、猫耳が見えるとさすがに危うい。
しかし、その時は猫かんに防御魔法はつけていなかった。彼女は自分の民族を隠したくないと言っていたし久遠の魔法に頼りたくなかったのだろう。
なのに。
「防御魔法をかけてほしい?」
「はい」
「しかも正体を隠すって、どうして?猫かんだと分かったほうが便利」
猫かんが警備しているという国民の安心感は半端なものではない。怖がられてはいるものの、やはり強いものに守られているということを実感できるのは大事だ。
それなのに、わざわざ猫かんということを隠すなんて。
それに久遠の力を借りるなんて。
「猫かんという身分を隠して、会いたい方がいるんです」
もじもじと足をすり合わせながら告げる彼女を見て
久遠は、胸が痛むのを感じた。
猫耳後輩のマッサージ係になったら国の幹部になったんだが!? いかそうめん @ikasoumen
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