第0話 とある少女の不思議な朝
あるいつも通りの朝。
私は、いつものようにカーテンを開けて背伸びをする。
「うーん、今日もいい天気!」
私は佐久弥みく(さくや みく)。中学2年生。
勉強と体育は苦手だけど、音楽と家庭科が大好きな女の子だ。
両親は共働きで、この時間にはもう家にいない。
だから朝はいつも自分で準備をして、1人で出かけていく。
この日も私は背伸びをしたあと、リビングへ向かおうとドアの方へと振り返る。
――振り返る。
「朝から何をぼーっとしているのだ」
私が振り返った先には、1人の見知らぬ女の子が呆れた表情で立っていた。
その子は私よりもだいぶ幼く見える。
小学生低学年くらいじゃないだろうか?
「だ、誰!?」
私は思わず後ずさり、そう聞いた。
「私の名は、ソルエだ」
そのソルエと名乗る少女は、腰に手を当てて自信満々でそう答える。
「ええと……」
これは、いわゆる幽霊なのだろうか?
でもそれにしては鮮明に見えすぎている気もする。
「お、おうちを間違えたのかな?」
いくら幼いとはいえそんなはず……と思いながらも、何となくそう聞いてみる。
「おまえは私をなんだと思っているのだ! 私は魔女界の姫だぞ!」
ソルエはむっとした様子で私を睨む。
――いや、そんなこと言われても。
にしても、魔女だなんて本気で言ってるのかな? 可愛いなあ。
「で、そのお姫様のソルエちゃんが、私に一体なんの用?」
「うむ。おまえを私の下僕にしてやろうと思ってな! 光栄に思え!」
ソルエはまたしても自信満々に、堂々とそう言い放った。
「ええと、ソルエちゃん? 人に下僕だなんて言っちゃだめだよ?」
「……? なぜだ? 私は下僕を見つけて主にならないといけないのだ。そういう修行の一環なのだぞ?」
本気でわけが分からない、という表情で私を見る。
いったいどこの誰だ、こんなわけの分からないことを吹き込んだのは。
「うーん。とにかくね、私はあなたの下僕にはなれないの。ごめんね。私もう学校行かなきゃ。あなたもそろそろおうちに帰ったほうがいいよ」
私はそう言いながら制服に着替え、下に降りようとドアの方へ向かう。
「……そうなのか。せっかく私の下僕に選ばれたというのに、残念な奴だ。分かった。他を当たろう」
ソルエはしょんぼりしつつも、意外にも素直に諦めたようだった。
そして。
ソルエの周りを黒いバラの花びらが待ったと思ったら――
――――消えた。
あんなにたくさん舞っていたバラの花びらも、その欠片さえも、あとには一枚も残っていなかった。
「……え? な、なんだったの、今の」
私は目の前で起こったことが受け入れられず、放心状態になって固まる。
「も、もしかして、本当に……?」
本当に、魔女界の姫だったのだろうか?
しかしそんなファンタジーなこと、があるはずない。
私はソルエがいたはずの床をただただ見つめる。
そしてはっとなり、時計を見る。
「いけない、もうこんな時間!」
私は慌てて学校へ行く準備をし、ドアを開けて階段を降り玄関へと向かう。
そして靴を履いて外へ出た。
そこに広がっているのは、いたって普通の風景。
でも、見慣れた現実がいつもより少しだけきらきらして見えた。
「ありがとう、ソルエ」
私は、学校へ向かって駆け出した。
生意気な幼女と契約しちゃったけど、これって夢だよね!? ぼっち猫@書籍発売中! @bochi_neko
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