Ⅶ:役割
段々足の感覚が無くなっていく。圧倒的な迫力と目力によって動けないディアスの足はすでに限界を迎えていた。緑髪の隙間から見える黄色の瞳はディアスを貫くのではないかというぐらい力がこもっていた。正座で怒られ反論することすら許されなかったディアスは二度とアレンを怒らせないようにと心に深く誓ったのであった。
「もう、やめてよね。ほんとに怖かったんだから!」
翌日の朝、もうすっかり元に戻ったアレンは話を蒸し返すように、ディアスをポカポカと殴る。昨晩の目力はどこ行ったのかとツッコミたい気持ちを抑え、アレンを制止する。ここで昨日の真実を言伝えたら、昨日のと同じ悲劇をうまくことにあるのはさすがのディアスでもわかる。
「わかったから、汗を流させてくれ」
いつも通り走り込みを終えたディアスは学院が始まる前にさっと汗を流す。あまり寮から離れないよう、同じコースを回ることで道に迷うことは無くなった。学院のほかの施設を視たい気持ちはもちろんあるが、時間までに帰ってこられる自身は毛頭ない。
「思ったんだけど、なんでディアス君は走り込みなんてしてるの? 日課だって言ってたけど」
汗を流し終え、制服を着ている最中にアレンから疑問の声が飛んでくる。
「昨日の決闘で見ただろ? 近接してバチバチやり合うのが今の俺のスタイルなんだ。それには相手に近づくための瞬発力とスタミナがいる。ただそれだけだよ」
「そうだね。ディアス君の戦い方は完全に前衛アタッカーの動きだったよね」
「なんだ、そのアタッカーっていうのは」
準備を整えたディアスとアレンは部屋を出て教室を目指す。まだ時間には余裕がある。 この一か月の授業を受けることができていないディアスのために、アレンは歩きながらロールについての説明を始める。
「アタッカーっていうのはこの世界で一般的な戦闘の役割、ロールの中の一つで主に敵への攻撃を担う人のことをそう呼ぶんだ。ほかにも味方を攻撃から守るタンク。傷付いた人を癒すヒーラー。味方の援護や敵の妨害を担当するサポーター。掘り下げていけばさらに区分されていくんだけど、大まかに言うロールはこの四つ。今後に控えている|星辰祭(アストラル)でこれを組んで出場するんだよ」
基本的に獣との戦闘も基本ソロで行ってきたディアスはロールについて知らないし、聞いたこともない。一人での戦闘は囲まれないように動く。星術師の基本である魔力をためて遠くから攻撃する手段も、相手に気づかれていない状態の奇襲には使えても普段使いできるものではなかった。必然的に星力を身体強化に回し、剣を持って物理で殴るという、今のスタイルに落ち着いた。
エルマは星術の起動を速めれば~? とか言いやがるが、エルマほど早く星封陣を構築する自信はない。もちろん鍛錬は続け、ようやく今の段階まで持ってこれたのだがエルマには遠く及ばない。
「一年生の半年の間は基礎学力と星術の知識、基本的な戦闘技術を学ぶために、座学が少し多めに設定されてるけど、その過程が終了したら、基本的に午後はフリーになって、自分に合った好きな授業を選考できるようになるよ」
ほんとにこの学院に着いて何も知らないんだねー。なんて思われていそうだがまったくもってその通りなので、ほんとに申し訳なく思う。そういえばアレンの口から気になる単語が一つ出ていた。
「そういえば|星辰祭(アストラル)ってなんだ?」
「えっ、それも知らない?」
足を止め、びっくりしたようにこちらを見るアレン。どうやら星闘技祭を知らないのはよっぽどの事らしい。
この世界には都市国家が存在しており、王都ターミガン・聖国スターリング・帝都アイビス・共国グレートティトこの四つが該当し、四大国家とされている。
そしてこの四つの国が主となり開催するのが星闘技祭。各国の学生が星術をそして闘いの技術を競い高め合う大会という名の祭りである。そしてターミガン星術学院では二か月後からその祭りに出場するチームを決める予選が始まるらしい。
「自主参加制でね、チームは四人以上、六人以下で組むのがルールだよ。だからね決闘とかで……」
話の途中、学院の入り口を潜ってすぐ、校舎の方から人が走ってくる。その数は一人や二人ではなく、あっという間に囲まれディスを中心に言葉が飛び交う。それらはすべて一言にまとめるとチームへの勧誘だった。昨日の決闘で元素外星術が使えることが露見してしまい、ひと役有名人になってしまい、その結果がこれである。
元素外星術は希少価値が高く、スートによって判断することができず、かつ適正を持つ者が少ない。この学院でも数人いるかいない程度だろう。だからみなこぞって勧誘するのだが、今のところディアスにその気はない。
「めんどくせぇ~」
そんなディアスの言葉も彼らには届かず、予冷が鳴るまでディアスは揉みくちゃにされていた。人混みに流され、飛ばされたアレンは先に教室についており、ようやくたどり着いたディアスに「災難だったね」と言葉をかけるのであった。
空白の運命 @monosiva_bw
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。空白の運命の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます