第8話

 いつの間にか、イケメン納豆は姿を消していた。

 今までとあまり変わらない生活。

 朝活して、仕事して、帰宅して、就寝する生活。

 少しだけ変わったことがある。

 暗い方が落ち着くが、蛍光灯を点けることが増えた。

 焼き納豆も食べるが、他のものも食べるようになった。

 元同級生のあの人は、しつこさが減った。

 納豆に救われたのかな、私は。

 少しだけ、寂しい気もする。人恋しさなのか、漠然とした虚無感か。

 頑張って15分間のエクササイズをしていた、納豆の楽しそうな様子が頭から離れない。

 あのときの公募は、大賞も副賞も佳作も無し。特別賞1作だけだった。

 SNSでは皆で励まし合って、次の公募やコンテストに意識が向いている。

 やり取りをしながら、私の頭の中に物語が生まれた。

 不思議なイケメン納豆とのやり取りに脚色をして、中編か短編にしてしまおう。

 蛍光灯を点けずに、久しぶりにパソコンを起動する。

 文章は何となく浮かぶが、決定的なフレーズは浮かばない。

 これだけはメモ程度に書いておこう。仮だけど。



 ――暗闇の中でイケメンな納豆が一筋の粘りを見せてくれた



 パソコンの画面から顔を上げると、ちょこんと部屋の隅で正座をする少女と目が合った。

「畑野あずささん!」

 薄暗くてもわかる、金髪ツインテール。髪飾りは、黄緑色の丸っこいアクセサリー。

「納豆のお兄ちゃんから聞きました。あずささんが、オリーブオイルを大切にする人だって!」



 【完】

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暗闇の中でイケメンな納豆が一筋の粘りを見せてくれた(仮) 紺藤 香純 @21109123

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