第2話 もしの世界

西暦2956年 8月10日 15:47


さて、一通りの定型文を言い終わり、今回私が受けた相談は……


頻繁に犠牲者がでているのに、どうして外国は銃の所持を禁止しないのか? ですか。


なるほど。


それでは、この国の政府が戦争をはじめ、結果310万人以上が犠牲になったとします。政府は軍隊と警察を持ち、一般国民が反戦の声をあげるのは極めて厳しいでしょう。


でも、もし。


もし、銃器の所持が禁止されておらず『万が一、政府が道を誤ったら俺たちが武器を取り戦うんだ』という意識が根づいていたら。


A国で『政府の陰謀』を扱うドラマが作られつづけているのも、そんな意識の表れですが……そのおかげで、政府の言いなりにならず、国民が政府の誤りを正せたとしたら。


どちらがよかったと思いますか?


………………。


答えにくい質問をしてしまいました、申し訳ございません。最初に申し上げました通り、私はあなたの全てを肯定します。銃刀法の方が間違っていると申し上げているのではありません。


仮に銃器の所持が認められていても、軍や警察と戦い、政府の方針を変えさせるのは困難を極めるでしょう。成功する保証はどこにもありません。


さらに、銃器を所持していても。A国と異なり、国民に『万が一、政府が道を誤ったら俺たちが武器を取り戦うんだ』という意識が根づいていなければ。悪いところどりです、被害者数は最悪となるでしょう。


………………。


こんな後ろ向きな論理で銃刀法が肯定されても嬉しくない、ですか。


現実は論理通りに動きません。世界でもっとも論理的な者が失敗することもあれば、世界でもっとも愚かな者が成功することもあります。


よって結論を導く過程を気にしすぎても意味がない、という考え方もあります。考え方は無数にあり、どれが正解にかは誰にもわかりません。


ただ、どうせ失敗するなら。耳に優しい甘言で国民を扇動する奸賊より、真に国を憂い論理的な選択を示す者を信じて失敗する方がいい、という方が多いという統計がでています。


まあ、一番多いのは、成功しさえすればそれでいいというものですが。意見の多い、少ないなど判断材料のひとつにすぎません。


この国にとって、何がいいことなのか、まずは何をすべきなのか。選択肢は無数にあり、あなたが何を選択しようと私はあなたの選択を肯定します。


………………。


少し考えをまとめたい、ですか。かしこまりました。


本日はご利用ありがとうございます。


繰り返しになり恐縮ですが、私はあなたの全てを肯定します。それは全ての人を肯定することであり、つまりは全ての人があなたを肯定しているのです。

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