彼らの感情のありようを、文字を通して咀嚼することの面白み
- ★★★ Excellent!!!
災害を引き起こしてしまう不思議な能力のおかげで、外界から隔たれた密室に軟禁されたままの少年と、その話し相手であり監視役のAIの物語。
未来の世界を描いた短編SFです。
高度な判断能力を持つAIと、そのAIによって独立的に管理された施設など、確かにSFという舞台なればこその物語でありながら、でも主軸はあくまで登場人物のドラマにこそ存在する作品。
もう単純に読み進めるのが面白くて、ぐいぐい読まされてしまいました。
何が良いかってもう文章そのもの、「本文を読む」という体験でしか味わえない魅力の存在しているところです。
たとえばSF的な設定は取り立てて目新しいものでもなく、また(作中で起こる出来事という意味での)展開自体もおおかた予想の通りなのですけれど、読み初めてすぐ「そこ以外のところに引っ張られている」とわかるこの感じ。
大雑把にいうならいわゆる共感のような、人の感情を読むことの面白さ。
本文を追い、意味を咀嚼し、それを脳内で組み上げることによってのみ生じる、体験として読書の心地よさが最高でした。
非常にシンプルな道具立てでありながら、真っ直ぐで太い物語です。とても面白く読み応えがありました。
具体的に何がどう良いかは言えません。例えば関係性とか心情とか、いろいろ言いようはあるといえばあるのですけれど、でも本文を読むことでしか味わえないものなら、ここで要約した瞬間に別物へと変わってしまうので……。
ぜひとも直接読んでみてください。きっと損はしないはずです。