災害を引き起こしてしまう不思議な能力のおかげで、外界から隔たれた密室に軟禁されたままの少年と、その話し相手であり監視役のAIの物語。
未来の世界を描いた短編SFです。
高度な判断能力を持つAIと、そのAIによって独立的に管理された施設など、確かにSFという舞台なればこその物語でありながら、でも主軸はあくまで登場人物のドラマにこそ存在する作品。
もう単純に読み進めるのが面白くて、ぐいぐい読まされてしまいました。
何が良いかってもう文章そのもの、「本文を読む」という体験でしか味わえない魅力の存在しているところです。
たとえばSF的な設定は取り立てて目新しいものでもなく、また(作中で起こる出来事という意味での)展開自体もおおかた予想の通りなのですけれど、読み初めてすぐ「そこ以外のところに引っ張られている」とわかるこの感じ。
大雑把にいうならいわゆる共感のような、人の感情を読むことの面白さ。
本文を追い、意味を咀嚼し、それを脳内で組み上げることによってのみ生じる、体験として読書の心地よさが最高でした。
非常にシンプルな道具立てでありながら、真っ直ぐで太い物語です。とても面白く読み応えがありました。
具体的に何がどう良いかは言えません。例えば関係性とか心情とか、いろいろ言いようはあるといえばあるのですけれど、でも本文を読むことでしか味わえないものなら、ここで要約した瞬間に別物へと変わってしまうので……。
ぜひとも直接読んでみてください。きっと損はしないはずです。
とある事情で人間から隔離された少年レッドと、彼を管理するために部屋に備え付けられたAIのルベールという少年×AIの密室コミュニケーション物語です。
密室なので派手な出来事は起こらないのですが、毎日のルベールとレッドのやりとりが丁寧に描かれていて、日常を描いているけれどだれずに読めるのが本当にすごいなと思いました。
その日常描写が後半にしっかりと伏線になっていくという構成もすごい美しい作品です。
終始派手に物をぶっこわさなくても、ポイントポイントでキメれば最高にエモい……そういうことを思い知らせてくれる作品でした。
キャッチコピーにある「おれ」って一人称なのに二人称は「あなた」なのがね……良すぎる。
不遇少年が救われる話が好きな方には特にオススメの一作です。