3話 作戦アイスクリーム

夏目は言った。まだ間に合うかと。

たしかにその言葉に俺は嬉しさと興奮で胸が踊った。

「でも、どうすればいいのかな?」

こてん、と首を曲げた夏目は、また少し不安そうな瞳で俺を見た。その答えを導き出すようにあまり知識の詰まっていない脳みそを働かせてみる。暑さとは違う汗がたらりと顎をつたった。考え無しな奴だと思われたくはないから苦し紛れに俺は方法を言った。

「出発の日、逃げ出せばいいんじゃない?」

ひくりと引きつった笑顔になってしまったが、夏目を安心させるには十分だったらしい。ただでさえ大きな目を真ん丸にした後、俺の両手を力いっぱい掴んで笑った。

「すごい!それすっごい名案だと思う!」

「そ、そうかな?」

「そうだよ!きっと私が反抗したらパパもママも驚くかもしれない」

瞼を閉じてゆっくり息をする夏目は、きっと上手くいった未来を想像している。しばらくそうした後、目を開いて満足そうに頷いた。

「あと2週間、よろしくね!」

「おう!」

そうと決まれば作戦会議だ。

それぞれ一旦家に帰ったあと、また小学校の前に俺達は集合した。リュックに詰めてきたのは地図と駄菓子を買うお金と水筒とゲーム機。きっと怒られることになるだろう通知表はまだランドセルの中だ。あわよくば母さんが忘れてくれるのを願う。

「夏目はやいな」

「うん。家から結構近いから」

白い帽子を被った夏目は、何だか授業で習った絵画の人みたいだ。綺麗な女の人の絵。


夏目は所謂クオーターというやつだ。じぃちゃんがロシア人で、ばぁちゃんが日本人らしい。いつだったか、クラスの女子達が「すごーい」と話していたのを覚えている。

言われてみれば、目と髪の色は染めてもないのに薄いし、背の順では後ろから2番目。特段その話をした事は無かったけど、すらりとした手足と高い身長は正直羨ましいと思った。


「走ってきたの?」

汗だくになって走ってきた俺にタオルを差し出してくる夏目を見て我に返った。

「そうだ! はいこれ!」

夏目に差し出したのは家の冷蔵庫から取ってきたアイス。パピコみたいなチューブなら溶けないだろうと全速力で走ってきたのだ。

「ちょっと溶けちゃったかもだけど」

ごめん、というより早く夏目は「ありがとう」と嬉しそうに笑った。そのままの笑顔でアイスを口に運ぶ。半分くらい溶けてしまっていたけど、持って来て良かったなと心の中で呟いた。

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真夜中のあさがお @aoi_2021

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