第四話 伝説の英雄
「俺は認めんからな!」
常時発動スキル【状態異常無効】のおかげで、すっかり体の匂いとべたつきが消えた俺に投げつけられたその言葉は、もちろん”元リーダー”から発せられた言葉だった。
――てか、スキル便利だな!!
「そもそもだ! てめぇこの間まで雑魚だったろ! そんな奴が……そんな奴が……」
「まぁ、それに関しては俺自身も同感だけどね」
まさか数日のうちに、自分がドラゴンを倒せるようになるなんて……誰が想像できるはずがない。
「てめぇ、仕込みやがったな!?」
「え?」
意味がわからないほどの、突然の言いがかり。
睨みつけられるのには慣れているが、これは想像以上の勘違いをされたみたいだ。
「方法はわからんが、でなきゃてめぇがワイバーンを倒せるはずがない!!」
もっとも過ぎて、反論もできない。
「そう言われても、いろいろあったんですよ」
「嘘をつくな! 俺はだまされないからな!」
説明が面倒くさいし、ステータスを見せた方が早いかもしれない。
俺はギルドブレスの情報を見せるために情報を展開――
「ああああなたこそ、伝説の英雄様じゃ!!」
「へ?」
操作途中に突然後ろの方から崇められて、変な声を出してしまった。
「伝説の英雄様じゃ!」
「英雄様が帰ってきてくれたわ!」
「我らを護ってくださった!」
「伝説の再来だ!」
気が付けば、物凄い人だかりになっていた。
英雄ではないんだけど、こうして人を助けるってのも悪くないなぁ……あ、顔がにやけてきた。
「こいつが……英雄だと?」
そりゃ、そういう反応にもなるわな。
ちなみにこの状況に最も驚いているのは、俺だ。
「こいつ、マジやばいよ。一旦引こう!」
「そうだぜ。このままじゃ俺たちは、こいつより弱いって思われちまうぜ!?」
「おい、お前ら放せ! 俺の話はまだ終わっちゃいない!!」
ズルズルと引きずられながら去っていく元リーダー。
結局ステータスは見せられなかったが、まぁ見せる義理もないし、問題ないだろう。
「騒がしかったのう」
「まったくだ……」
――この後俺たちは、村のみんなに一晩中宴を催してもらった。
田舎を出てからずっと大変な日々だったが、何だか初めて充実した気分を味わえている気がする。
――――
「……ん、なんだ」
宴も静まり返り、広場中央のたき火は細々と燃えている。
気配を消して近寄る気配に気が付いたのは、一通の手紙が置かれた後の事だった。
~夜明け前、愚者の聖域~
懐かしい場所に呼び出された。
といっても、二日前に攻略したばかりのダンジョンだけど。
「この字体は……元リーダーか?」
元リーダーから呼び出された。
理由は”決闘”だそうだ。
「とんだ無礼者じゃ。そなたにあの程度の小物がかなうはずないじゃろうて」
さすがニア。
俺よりも先に気が付き、様子を見ていたようだ。
「まぁ、そう言わずに。折角なんで、付き合ってあげましょうよ」
……とまぁ、すんなり納得したように聞こえるが、俺自身あの人の行動には疑問を抱いている。
何故、俺に固執するんだ?
ギルドは追放されたし、別にもう関わらないだろうから、無視してくれればいいのに。
というか、俺がもう関わりたくない。
――愚者の聖域――
「――中に入って来いってことか?」
ダンジョンへはそう遠くなく、程なくしてたどり着いたのはいいのだが、元リーダーたちの姿はない。
人影の代わりに、入り口には何かが貼ってある。
「客人を迎え入れるにしては不作法じゃな」
「まず客だとは思われてないだろうからな」
明らかに罠。
結界の類だろうか、魔法陣らしきものが描かれたその紙に触れると、俺のスキルによる影響か、勢いよく焼失してしまった。
「あ……まぁいっか」
閉じ込めたかったのか、それともここの通過と同時に何かを発動させたかったのか、結界の効果は分からずじまいだけどまぁいいや。
悩むのはやめて、とりあえず進んであげようじゃぁないか。
「そなた、何やら楽しそうじゃな」
「そう? そんなことはないと思うけど」
いや、そんなことある。
だって、色々とスキルを覚えたし、ステータスも上がっているんだけど、いまいち活用方法がわかってないから、今は一つでも多くのデータが欲しいのだ。
「強いて言うなら、新しいことができるってのが楽しいのかな?」
「人間とはやはり、不思議な生き物じゃな」
笑顔を覗かせているあたり、ニアは人間が嫌いになったわけではないようだ。
あんな場所に封印され、復活したかと思えば元リーダーみたいな人達と関わってしまったので、少しその点が不安だったんだけど、そもそも俺に付いてきてくれている時点で、人間嫌いはありえないか。
――愚者の聖域・中枢部――
「あぁ……なんというか、すごくむなしい」
先日ここを攻略した時は、当然ながら苦戦を強いられたし、金で買った召喚獣に仮契約をして戦っていた。
「それが今ではどうだ。全モンスターが一撃じゃないか!!」
それも素手で一撃必殺なのだから、あの日の苦労は何だったのだろうかという気分にもなるでしょ?
「そなたがたどり着いたジョブの上位覚醒”クラスチェンジ”は、一つのジョブを一途に使い続け、その頂きに達したものがたどり着く。現代では様々なジョブやスキルの究明も進んでいて、自由に選び、選択することができる。その悪影響でジョブを複数持ち、早々にクラスチェンジの条件から外れてしまう者が後を絶たない」
「つまり俺は、獣使い一筋だったのがよかったってこと?」
「一面では複数のジョブを経験した方が万能性があるのだが、初期のジョブを極めたいという変態もいる。そういった者を救済する仕組みとして、神が設定したものなのかもしれんな」
自覚はあるのだけど、いまさりげなく俺を”変態”と呼んだことは無視しておこう。
――さて、そろそろ約束の場所だ。
大きな怪我をさせないように気をつけないとなぁ。
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