第三話 翼竜

「――やっとでられたぁ!」


 色々と反則級の強さを手に入れたものの、疲労感は軽減されないらしい。


 ダンジョンから無事に出られたことは嬉しいのだが、道中飽きるほどのモンスターに出くわし、はっきり言って暫く戦闘はいいかなってくらいの状態である。


「いやー、久々に暴れたのじゃ」

「流石ドラゴン。人型でも十分な戦闘力」


 俺も大概だが、ニアもなかなかのものだった。


 その拳は岩を砕き、その尾は大地を割く。


 足が……爪が……口が――


「待て待て待て、最後のは使っとらんじゃろ!」

「最後以外は否定しないんだ」

「……まぁ、事実じゃし」


 スキルもそうだが、戦闘そのものに不慣れな俺にとって、ニアの動きは感動ものだった。


 俺もいつか、あんなふうに――


「ティム、聞こえるか?」

「え、なに?」


 ニアが突然真剣な表情に変わり、一点を見据えている。


 そっちの方角は……確か村があったはずだ。


「行ってみよう」


 なんだろう、嫌な予感がする。



 ――辺境の村・トポル――



 案の定というべきか、村は炎に包まれていた。


 既に家屋のいくつかは崩壊していて、怪我人も多数。


 戦火に見舞われた視界の中、今俺が最初にすべきことは――


「お前……雑魚がこんなところで何してる!」

「元リーダー!?」

「てめぇ、次それ言ったら……切るぞ」


 うわぁ、目がマジだよ。


「貴様、我が主人にそのような目を向けるとは。命が惜しくないようじゃな」

「はぁ? お前、女なんかつれてんのか? 目障りだ。今すぐ消えろ!」

「大人しく聞いていれば好き勝手言いおって!」

「まぁまぁ、あぁいう人なんで、気にしない方がいいよ」

「そなたは優しすぎるのじゃ! やはりあいつはわらわが!!」

「だーー!! いいから、無視だ無視!!」


 今すぐ噛みちぎりに行きそうなニアを静止するのは、大変だということが分かった。



 ――ピギャァーーー!!



「なんだ!?」


 耳を劈く、甲高い声に鼓膜を揺さぶられる。


 上を見上げるとそこには大きな翼を広げ、大きな影を落とす何かがいた。


「こいつは――」

「――ワイバーンじゃ!!」


 二本脚の翼竜”ワイバーン”は、体の倍以上もある翼と、たくましい足の鋭い鉤爪が特徴のドラゴン。


 肉食で気性が荒く、危険度はBランク。


 凄腕の王国兵数人が手を組んで、やっと討伐したという話を聞いたことがあるほど凶暴なモンスターだ。


「最近は他のドラゴンと同じく目撃例がなかったから、絶滅危惧種に認定されてたはずなんだけど、この分だといっぱいいそうだなぁ」


 本来群れで行動するワイバーンが何故単体でここにいるのかは気になったが、とりあえず不幸中の幸いということにしておこう。


「――わらわのせいかもしれん」

「どうゆうこと?」

「封印を解いたことで、わらわの存在が明らかになってしまった。ドラゴンは本来、縄張り意識が強い。」

「つまり、ニアの気配につられてやってきたと?」

「恐らくそういうことじゃ」


 まるで気配の主を探すかのようにグルグルと周回しながら、あちこちを焼いて回っている。


 人形になったニアに気づくことなく飛び回り、辺りを無作為に焼き払って回る。


 早めに何とかしないと、被害が広がるばかりだ……



 ――グギャギャギャギャーー!!



「あれ、これ……ばれたんじゃね?」

「……そのようじゃな」


 先程まで反対側を向けていた体を――グルッと翻し、勢いをつけて突進してくる。



 というか……


「なんで俺に来るんだよ!!」


 二人同時に走り出して二手に分かれたのだが、ワイバーンはニアではなく俺まっしぐらだった。


「そなたにはわらわの力の一部が継承されておる。その上もともとのすてーたすも高いから、わらわだと勘違いされたようじゃな!」

「丁寧な説明、痛み入ります!!」



 必死に走るがもちろん振り切れるはずもなく、そしてそのまま――



 ――バクンッ



「ティム!!」


 視界が真っ暗になる瞬間ニアの叫び声が聞こえたが、今はそれどころではない。


「うわぁ、食われたよ」


 一飲みにされ、絶賛胃袋へと移動中。


 ベタベタするし生ぬるいし、そして何より臭い!!


 早いとこここから出ないと、不快三大要素によって思考が崩壊しそうだ。



 ……とはいうものの、どうやって出よう。



 刃物は持ってないし、適当な攻撃呪文も今のところ習得していない。


 真っ先に思いついたのは【空間転移】だったが、ここから抜け出したところで状況は変わらないし、ここは一つ、腹の中にいるのを逆手にとって、一撃必殺と洒落込みたい。



 最近手に入れた中での攻撃方法というと、エンゲージスキルの”ドラゴンブレス”なのだが、こんなところで発動させて平気だろうか?


 密閉された場所で起こる爆発の衝撃は逃げ場がなく、下手したらワイバーンごと俺もはじけそうである。



 とりあえずニアにもらった腕輪の効果で、ドラゴンブレスの性能を確認してみる。



 ―――――【ドラゴンブレス】―――――


 消費SP:80

 別名”竜の息吹”を放出できます。


 威力:1500:火属性

 効果範囲:大

 詠唱時間:15min


 ――――――――――



 スキルの威力は残念ながら折り紙つきのようだけど、俺のステータスは精神力より抵抗力の方がはるかに上。


 精神力でスキルの威力に補正がかけられたところで、抵抗力による魔法防御の方が高いから致命傷にはならないだろうという想像をしてみる。



 ……と、わかっていても、やはり名称が”ドラゴンブレス”だし、はっきり言って怖い!


 けど、臭いとこにいるのはもっといやだ!!



 意を決して、スキルの展開を始める。


 ちなみにこれまたスキルの効果で、こんな超古代魔法にもかかわらず発動まで1分なのだ。


 しかしやはり怖いので念の為――


にて……【ドラゴンブレス】!!」



 迷う暇もなく発動準備は整い、俺の両腕は激しい光に包まれた。


 ワイバーンの体を透けるほどの光が溢れ、そして爆音が響く。


 体内からの脱出と同時に、周囲には肉片が飛び散る。


 獰猛で手が付けられないワイバーンも、内側からの攻撃には弱かったようだ。


「――もう、お嫁にいけない」

「案ずるな! その時はわらわがもらってやる!」


 そりゃどーも。


「バカな!! あのワイバーンを、あいつが倒したっていうのか!?」


 元リーダー……悔しがってるところ悪いけど、今はあなたに気を使っていられません。


「てか、今やった呪文って、古代魔法のドラゴンブレス!? マジ? あいつが?」

「訳分かんねぇ、あいつにそんな力なんかねぇはずだぜ!!」


 いつの間にか三バカが揃っていた。


「俺は信じない……」


 待って……俺は今、臭くて吐きそうなんです!!

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