第二話 エンゲージスキル

 無事ニアとの契約を終えた俺だったが、ここから脱出するプランがないことをすっかり忘れていた。


 バカが美少女とつるんだところで、なにも状況変わらないじゃないか!!


 いやまてよ?


 そもそもニアはドラゴンなんだし、俺を背負って地上まで出ることなんて容易いんじゃないか?


 いやだめだ。


 そんなことをしたら町の人に見られて大問題になる。


 かといって俺がこの結界破れるはずもないし、あぁもう一体どうしたら!!


「――そなたはコロコロと表情が変わって面白いのう」

「人生最大の関門に立ち向かっている最中なので、笑うのをやめてください」


 絶望から膝を付いてうなだれると、後ろで彼女がうろたえだした。


「どうしたのじゃ! どこか痛むのか!?」

「放っておいてください……自分の無能さを痛感したのを通り越して、快感になりつつあるので」

「おぬしが変態なのはわかったが、とりあえずわらわに話してみい」


 ホレホレと、何故か楽しそうなニア。


 いや、あなたも俺と同じ状況ですからね!?



 ――――



「ふむ、大体はわかった。つまりはここから出たいんじゃな?」

「他人事の様にしてるけど、ニアは出たくないの?」

「出たくないわけではないが、その気になればいつでも出られるからのう」


 俺の悩みを返してください。


「ドラゴンに戻るのは無しだよ?」

「なぜじゃ!?」


 図星かい!!


「今の時代、ドラゴンは世界を破滅に導いた象徴として伝わってる。もしドラゴンの姿で地上にでたら、大騒ぎになっちゃうよ」

「なるほど、それは確かに厄介じゃな……」

「……本当に厄介だと思ってる?」

「なぜじゃ?」


 いや、じゃぁなぜ胸をはる!?


「すごく楽しそうだから」

「それはそうじゃ。何百年ぶりの外の空気じゃぞ? 楽しくないわけがないじゃろ」


 こんな状況でも笑顔でいられるっていうのは、少しだけうらやましい。


「――ま、そもそもあの姿にはもう戻れぬがな」

「なんで!?」

「おぬしの能力で契約は結んだが、それだけではあの封印を解くまでには至らなかった。じゃから、わらわも力を開放して、内側からも封印の破壊をしてみたのじゃが、どうやらそのせいで能力のほとんどに一時的な制限がかかったようじゃ」

「そんな……ごめん、俺の力が不十分だったせいで……」


 落ち込む俺を引き寄せるニア。


 柔らかなふくらみに包まれたことを理解した瞬間、極限に恥ずかしくなって離れようとしたが、物凄い力で押さえつけられていて身動きが取れない。


「――そなたのせいではない。むしろそなたが居なければ、わらわはこの先もずっと一人じゃった」

「ニア……」


 そうだ。


 彼女は楽しそうなんじゃなくて、嬉しいんだ。


「元気出たかの?」

「おかげさまで」

「男はこうすると喜ぶと、昔何かの文献で見たからの」


 今も昔も、男って変わらないんだな。


「さてと!」


 ニアは俺を開放すると、――ビシッと俺目掛けて指差した。


「それよりそなたは、まだ気が付いていないようじゃな」

「な、なにを?」


『はぁ……』と盛大に大げさなため息をつくニア。


「まったく世話が焼ける。自身のステータス確認してみぃ」


 言われて呆ける俺に、ニアが訝しげな顔をする。


「どうした?」

「いや、確認するっていっても……どうやって?」

「まさかそなた、”鑑定”を持ち合わせておらんのか!?」


 ”鑑定”とは、冒険者登録の際に配布される三つの基本スキル指南書の一つに記されている秘術で、右も左もわからない冒険者には必須のスキルと言ってもいい。


 しかし……しかしだ。


 俺はあろうことか”成長速度アップ”という、ある種の変態しか望まない指南書を選んでしまったため二度と手に入れることができなくなったという現実を悔やんだのは、ごくごく最近のことであった。



 ニアは呆れた表情をしたあと、腰に据えたポーチから何かを取り出した。


「ほれ、これを使うのじゃ」


 渡されたのは一つの腕輪。


 諭されるままに左腕にはめると、突然目の前にスキル使用確認の表示が広がる。



――――――――――


アーティファクトスキル【鑑定】を、使用しますか?


はい/いいえ


――――――――――



 なになになに!?


 なにこれ怖いんですけど!!


「さっさと選択するのじゃ!」

「痛くない?」


 先程よりも深い溜息をつかれる。


 こわごわ”はい”を選択すると、表示されていた映像が変化した。



 ――――――――――


【神獣使いLv1】


 HP(適正A)2400(1900↑)//1000

 SP(適正B)230(230↑)//500


 攻撃力(適正S)640(580↑)/300

 防御力(適正A)510(460↑)//300

 精神力(適正B)280(200↑)/300

 抵抗力(適正S)590(540↑)/300

 器用さ(適正S)720(600↑)/300

 素早さ(適正A)530(460↑)/300

  運 (適正B)310(300↑)/300


 ――――――――――



 …………ん?



なんだろう、見間違いかな?


ステータスが全部”限界突破”してるんだけど。



「すごいじゃろ」

「これは、誰のステータス?」

「そなたのに決まっておるじゃろう!!」



 なんかジョブは”獣使い”から”神獣使い”に変わってるし、数値を見るだけでもツッコミどころ満載なのですが!?


「驚くのはそれだけではないぞ」


 ジョブの名前とステータスの限界突破に気を取られていたが、他にもまだ何かあるのだろうか?



 ニアに促され、更に腕輪の情報を展開していく。


 すると何やら一番下の【スキル一覧】という項目に、赤文字で”new”と書かれている。


 一覧を開いてみると、いつも神父様からもらうステータスカードで見慣れた項目【固有スキル】と【派生スキル】の他に、もう一つ項目が増えていた。


「えっと、【エンゲージスキル】? なんだこれ」


 聞いたことがない項目だが、ここにnewが付いているし、とりあえず開いてみるかと軽い気持ちで確認すると、驚きの事実が――


「どうした? 何か良いことでもあったかの?」


 ニマニマされながら、俺は内容をしっかりと確認する。


「――これってもしかして、ニアのスキル?」




 ―――――≪エンゲージスキル≫―――――


【空間転移】消費SP:50

 任意の場所へ、瞬時に移動することができます。

【飛翔の加護】消費SP:28

 魔力の翼を生成

し、空中を飛ぶことができます。

【ドラゴンブレス】消費SP:80

 別名”竜の息吹”を放出できます。


【常時発動スキル】

 ・状態異常無効

 ・ステータス低減無効

 ・チャーム無効

 ・武器未装備時、攻撃力倍加

 ・詠唱15倍速


 ――――――――――



「今のわらわでは使用が難しいが、そなたなら使いこなすことができるかもしれん」

「驚いた……」


 てか、この【空間転移】があれば、もうここから抜け出したようなものじゃないか?


「あ、ちなみに、空間転移は自分にしか効果ないからの?」

「心を読んだ!?」

「いや、この状況じゃ。普通そう考えるじゃろ」


 びっくりした。


 このスキルの他にも、【思考の透視】的なスキル持ってたらどうしようとか考えてしまった。


 さっき胸に挟まれたときに、一瞬喜んでしまったのがばれるじゃないか!


「――ということで、スキルは増えたが、歩いて出るしかないのは変わりないんじゃがの」


 そういって俺を結界に促す。


 そっと触れてみると、まるで何事もなかったかのように結界が消えていく。


「この結界は状態異常系の結界じゃから、わらわのスキルでもはや無効化じゃ!」



 ――お父さん、お母さん……僕はどうやら、とてもいけないことをしているような気がするほどに強くなってしまったようです。

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