クラスチェンジから始まる神獣使いのLv1無双〜追放されて、Lvも下がったまま。絶望してましたが、なぜかステータスの限界突破が止まりません。私の再加入は、力の次元が違うのでやめといた方がいいですよ?〜

SIEN@創作のアナログレーター

第一話 めでたくLv1になった俺

「やった!」


 ――ズズゥンと大きな音を響かせながら横たわる巨体。


 こいつはこのダンジョンのボスで、俺たちのギルドが一番乗りだった。


「最後の一撃は、お前の手柄だ!」

「すごいじゃん!」

「見直したぜ」


 みんなから褒められることがこんなに嬉しいって感じたのは、いつぶりかな。


 俺、”ティム・ターデュラム”は、物語に登場する”英雄”に憧れて田舎から出てきた。


 地道にこつこつ努力してきたんだけど、【獣使い】なんてジョブのせいで自身のステータスはほとんど上がらないし、強いモンスターをつかまえたくても、俺が弱いから見向きもされないしで散々な日々を過ごしていた……


「結構高かったけど、召喚士さんにお願いしてよかった!!」


 だから今日は、リーダーの知り合いの召喚獣を仮従属させて戦ったんだけど、おかげで活躍できた実感がある。


 この契約は一時的なものだから、これが終わったら返さないと……でも、こんなに成果が出るならまたお願いしようかな……


「うっし、じゃぁこのまま神父のとこでステータス更新してもらうぞ」


 あぁ、楽しみだなぁ。


 レベルどのくらい上がってるかなぁ。


 みんながジョブチェンジしていくなか、”最初のジョブだから”と頑なに頑張ってきた甲斐もあり、そろそろ上限である。 


 初めてのジョブだから愛着もあるし、何より動物とか好きなんだよね。


 今は≪Lv87≫だから、さっきのでカンストしてたりして!



 ――神殿にて――



「何かの間違いです!!」


 なんで……なんで俺、”Lv1”!?


「そう言われましても、ここに間違った情報が表示されたことは今までありませんし、これが今のあなたのレベルということになります……」


 神父様が見せてきた古文書に書かれた、無慈悲な数字。


 これに間違いがないこともわかってる……わかってるけど、これじゃぁ……


「――あーあ」


 後ろで控えていたリーダーの声。


 冷たいその声に恐る恐る振り向くと、今まで見たこともないような冷たい目が向けられていた。


「リ……リーダー?」

「雑魚はいらねぇ」


 今……なんて?


「散々世話してきてやったのに、結果がこれか」

「やっぱり、田舎者は田舎者よねぇ」

「邪魔だ、とっとと消えな」


 なにが起きている?


 俺が一体何をした!?



 リーダーに手を伸ばすが、横から伸びてきた杖で弾かれる。


「ちょっと、うちのリーダーに触んないでくれる?」


 こんなのおかしい!


「リーダー!」

「うるせぇ。もうお前のリーダーじゃねぇよ」


 愕然とした。


 長い間一緒に戦ってきたのに、結末がこれ?


「あ、言い忘れてた」


 リーダーが耳元に寄る。


「あの召喚士、俺のバディだから。依頼料は後で山分けさせてもらうよ。」

「え、それって……」

「”倍額支払い”、ごちそーさま」


 ――そういうことか。


 高すぎるとは思ってたんだ。


 請求額が所持金と同じだったという違和感もこれで合点がいくし、そもそもあんな強い召喚獣を、一時的とはいえ俺が従属させられるわけがないんだ。


 きっと従属できた雰囲気を出しつつ、裏で召喚士が操作してたんだな!?


 完全にはめられたぁーー!!



 ――――



 ギルドから捨てられ、俺は一人で街はずれの実家に帰っていた。


 きっとリーダーたちは今頃、三人仲良く酒場で祝賀会でもしてるんだろうな。


「俺は……なんでこんなことに?」


 親に何て説明しよう。


 などと考えながら歩いていたら、思ったよりも早くついてしまった。



「ただいま……」


 ――ゴスッ!!


「帰ったか」

「殴りかかった後に、冷静に語りだすな!!」


 痛む頬を庇いながら苦言を呈す。


 玄関で派手に吹き飛ばされたが、何が悲しくていきなりこんな仕打ちを受けるっていうんだ!?


「話は聞いた。お前、ギルドに捨てられたらしいな」

「な……なんで!?」


 父は元々王様の近衛騎士団に所属していて、武勇伝をよく聞かされていた。


 正義感というよりは、自身のステータスの一つとして思っているようで、王族を救っただの、大戦を鎮めただの語っていたような気がする。


 最近では俺があのギルドに配属になったことで喜んではくれていたのだが、どうやら誰かが情報を伝えたらしい。


 そして父は、今まで見たことがないほどの無表情で睨みつけてくる。


「お前にはがっかりだ。もうここには戻ってこなくていい」

「まってよ、俺また頑張るから!」


 俺の話が途中にも拘らず、父は俺に大きなリュックを放り投げてきた。


 それがあまりにも大きすぎて受け止められず、荷物ごと地面に――ガシャリと崩れ落ちた。


「それをもってさっさと出ていけ!」



 ――バンッ!!



 玄関の戸は激しい音と共に閉められ、目の前が真っ白になるのを感じた。



 ……理不尽だ。



 父はいつもそうだったが、俺の意見なんてはなから聞いちゃいない。


 いつも自分のことばかりで、そのせいで母さんからも逃げられていた。


 俺と二人暮らしで、俺が家事全般こなしていたわけだから、絶対後悔すると思うんだけど、どうせそれすらも聞いちゃくれないだろう。


 「……このあとどうしよう」


 居場所も帰る場所もなくなった。



 ――というか、だんだん腹が立ってきた。



 ――神の墓標――



 日没にはまだ時間があったし、色々とストレスが溜まってきたからとやってきたこの場所は、これまで何度もレベル上げをしてきたレジェンドクラスのダンジョン。



 噂だとこのダンジョンの最下層には、おっそろしく強いモンスターが居て、誰も生きて帰ってきていないんだとか。


「っていうか、何でこうなったんだ?」


 これに関しては、完全に自分が悪い。


 できたのだが、そう、忘れていたのである。


 自分が今、Lv1だということを……



 ちなみに今いるのは、明らかに怪しい巨大なクリスタルがある空洞。


 途中モンスターを探していたら道がわからなくなり、迷い込んだ先で縦穴に落っこちたかと思えば、トラップが発動して床は抜け、あれよあれよという間に気が付けば知らないエリアに到着し、とどめと言わんばかりに結界トラップまで発動して、完全に閉じ込められた……


「――それにしても、レベル低いのって不便なんだなぁ」


 ここまでモンスターに出会わなかったから良かったものの、今の俺が勝てるとは到底思えないし、あまりにも今日一日で色々ありすぎて、絶望する気にもならない。


「そもそも、俺が一体何したんだよ」


 全く心当たりがない。


 むしろみんなのために頑張ってきたはずだ。


「なんか、ますますイライラしてきた……」


 何も悪いことしてないのにギルドから追放され、家からは追い出され、あげくだまされてこんなところに閉じ込められて……


「理不尽だーー!!」

「同感じゃ」


 ……


 ……ん?



 なんだか、重低音のドスが効いた声に共感された気がする。


 しかもすぐそばで。


「なぜわらわはここに封印されねばならんのじゃ」


 声は目の前のクリスタルから聞こえるようだった。


 中には……えっと、何かいる?



 光の加減でさっきまで見えなかったけど、真上に開いた大きな穴から月明りが差してきて、がうっすらと見えてきた。


「ド……”ドラゴン”!?」

「いかにも、世界最強で有名な伝説の古龍エンシェント・ドラゴンじゃ。しかし今はここに封印されている……こうなってしまっては、いかに強いわらわでも手も足も出せん……」

「はぁ、大変なんですね」


感情を込めていないことは気づかれなかった。


「そうじゃ、大変なんじゃ! 大昔に英雄から邪竜と勘違いされ、とばっちりで封印された挙げ句ここのモンスターどもが中途半端に強いじゃろ? おかげで人っ子一人来ない始末。話し相手もいなければ暇つぶしもない。その上わらわは寿命が長いタイプのドラゴンでの。息絶えたくても丈夫すぎで、どうにもならんかったのじゃ。もう頭がおかしくなってしまいそう……いや、もうなっとるわー!!」



 ――よっぽどしんどいんだな。



 何とかしてあげられればいいんだけど……


「ごめん、助けてあげたいけど、俺にはどうしようもないかも」

「何を言っている? そなたは獣使いだろう?」

「そうだけど、ステータス低すぎて、俺に付いてくるモンスターなんて――」



 ――グォォォォォ!!!



 突然、鼓膜を揺さぶる轟音を吐き出すドラゴン。


「なんだよ!!」

「わらわを愚弄するか?」


 このトカゲは何を言っているんだ?


 何を言われているのかわからないけど、でも、もしも俺でいいのなら……

 


 俺はそっとドラゴンに近付く。



「そなた、わらわが怖くないのか?」

「実はちょっと怖い」


 ドラゴンは人に仇なすもので、世界の滅亡を引き起こすと伝えられているモンスターだけど、でも俺はわかった。



 ――さっきこのドラゴンは、泣いていたんだ。



「その……本当に、よいのか?」


 なぜか動揺しているドラゴンだったが、気にせず俺はクリスタルに手を置く。


「いいよ! だから、一緒にここから出よう!!」


 激しい光が辺りを包み込んだ。


 程なくしてクリスタルは粉々に砕け、中から激しい圧が放出される。


 溜まらず目を背けると、聞き慣れない声が語りかけてくる。


「――ありがとう。そなたはこれから、わらわの主人だ」


 先程までの太い声ではなく、今度は可愛らしく透き通った、女の子の声が聞こえてきた。

 

 薄目を開けてみると、砂埃の向こうから歩いてくる一人の少女。


「えっと、どちらさまですか?」

「失礼なやつじゃな。この短時間でわらわを忘れるほど、年は食っておらんだろうに」


 見覚えのない彼女を凝視していると、とある特徴に気が付く。


「耳と尻尾?」


 頭には猫耳のような角。


 そしてしなやかな尻尾が生えた、竜人の女の子がそこに立っていた。


「わらわは、月晶竜げっしょうりゅう・ニアストリッド。気軽に、”ニア”と呼んでくれ」



 ――こうして俺とニアは、運命的な出会いを果たしたのだった。

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