第六話 雷帝の女の子?

 無事……とはいかなかったけど、なんとか麒麟を倒せた。


 痛む体を庇いながら起き上がると、元リーダーは失神してしまったようだ。


「――ふっ、俺の恐ろしさが分かったようだな」


 と、心にもないことを言ってみるが、言った傍から恥ずかしくなってきた。


「そなた、頭でも打ったのか?」

「すみません、ほんの出来心だったんです」



 とまぁ、倒したのはいいんだけど、この麒麟、このままとどめを刺すのは惜しいよな。


「なぁ、今の俺なら、こいつの従属もできるかな?」

「そうじゃのう、わらわと契約した時はわらわの力が大分弱っていたし、何よりお互いの意思による助力が強かったからのう。ステータス的に考えても、半々といったところか?」


 従属契約は今更だが、失敗すると二度と結ぶことができなくなるギャンブル要素がある。


 どんなにステータスが上昇しても確実性がないので、あまり人気の上がらないジョブなのである。


「でもさ俺、新スキルで【神の威光】っていうの取得したみたいなんだけど、これでいけないかな?」


「そのスキルはよく知らんが、ものは試しじゃ。やってみるがよい!」

「あざまーす」


 なんか許可がおりた。


「もしこれで従属契約が無事できたら、俺の夢にかなり近づくなぁ」

「ほう、そなたの夢とな……それは実に興味深い」


 この話はそもそも、俺が初期ジョブを”獣使い”にしたことにも通じるものだ。


「昔、森で迷子になって、野生のモンスターに襲われた時があったんだ。その時、名前も知らない獣使いの人に助けてもらって、四体のモンスターを連れたその姿が今も忘れられないんだ」

「そなたの憧れの先輩……といったところかの?」

「まぁそんなところだよ」


 俺はあの日から、彼の存在を探していた。


 いつかちゃんとお礼をして、色々と話しをしてみたい。


「ではこの契約も、しっかりと成功させないとじゃな」

「だよね!」



 俺は瀕死の麒麟に手を伸ばし、額に添える。



 当時のあの人が連れていたのは、”竜”、”馬”、”鳥”、そして”思念体”のモンスター。


 俺もいつか、あの人みたいにかっこよくなりたいと幼心に感じたあの日の感覚は、今もなお消えない炎のように熱を帯びていた。



 俺の体は仄かに輝きだし、俺の手を伝って麒麟の体も光り出す。



 そして、俺もニアも固唾を飲んで祈った。



 ――≪従属契約・完了≫――



「やった! 契約できたよニア!!」

「すごいじゃないか! 麒麟が仲間になったとなれば、そなたの株も一気に急上昇じゃ!!」


 輝いていた麒麟の体は完全に光に包まれ、徐々に小さくなっていく。


 収束した頃には先程までの姿はそこに無く、何故か小さな少女が横たわっていた。


「えっと、これはどういう……」

「わらわと同じく、人の姿を成したようじゃの」


 俺はてっきり、モンスターのまま仲間になると思ていたけど、こういうケースもあるんだな。


 少ない獣使い仲間が操っていたのはどれもモンスターだったので、まさかこんなことが連続で起こるとは思っていなかった。


「ん――」

「あ、目が覚めた?」


 ぼんやりと開いた瞳は、どこかまだ眠そうな水色の瞳。


「俺のこと分かる?」


 少女に――じっと見つめられるのはあまり慣れていないけど、少し我慢して返事を待つ。


「……にぃに?」

「へ?」


 聞き間違いかな?


「にぃに」

「えっと、兄弟じゃないんだけど」

「そなた、このような幼気な子供にそのようなことを言わせるとは、中々の変た――」

「だー! 俺が言わせたわけじゃないだろ!!」


 何やら理不尽な理由で俺の評価が下がりつつある気がする。


「にぃに?」


 なんで涙目!?


「ほれ、不安がっておるじゃろ! 可哀想に、こっちへ来るのじゃ」

「やー!!」


 半分叫びながら俺にしがみついてきた。


「なんじゃと……」


 手を伸ばしたまま固まるニア。


「振られたな」

「うるさいのじゃ!」


 この子はどうやら、契約した俺のことを慕ってくれているらしい。


 それはいいのだけれど、頼むからニアとの関係をこじらせるようなことは勘弁願いたい。



 ――というか。



「ギルドブレスが反応してる。ステータス上がったかな?」


 情報を展開してみると、”new”の印はステータスではなく、エンゲージスキルについていた。



 ―――――≪エンゲージスキル≫―――――


【高速移動】消費SP:40

 一定時間、自身の移動速度が飛躍的に上がります。

【閃雷】消費SP:120

 別名”神の雷”を放出できます。


【常時発動スキル】

 ・雷属性無効

 ・話術スキル無効

 ・行動力制限無効

 ・雷属性強化

 ・ストロングキラー


 ――――――――――



「では用事も済んだことじゃし、そろそろ帰るかの?」

「んー、そうだなぁ」


 少しだけ、元リーダーのことが気になったが、自分で起こした惨事だし、俺が気を使う必要もないだろう。


 結局、俺が狙われている理由は聞けなかったけど、これだけの事があったんだし、もうちょっかいだしては来ないでしょ。



 俺たちは気絶する彼の横に、そっとお花を添えて、この場を後にした。


 ――いや、死んでないからね!?

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クラスチェンジから始まる神獣使いのLv1無双〜追放されて、Lvも下がったまま。絶望してましたが、なぜかステータスの限界突破が止まりません。私の再加入は、力の次元が違うのでやめといた方がいいですよ?〜 SIEN@創作のアナログレーター @sien-illustactics

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