第五話 裏ボス

「やっと来たか」

「ごめん、お待たせ」


 待ち合わせに遅れた彼女のような笑顔を投げつけてみる。


 ニアから『友達か!!』と突っ込みが来るほどに、気さくな挨拶をしたのだった。


「のこのことやってくるとは、随分と舐められたものだな」


 のこのことやってこれるだけのステータスになってしまったもので……


「戦う前に、俺のステータスを見せたいんだけど――」

「今更そんなものに興味はない。俺がてめぇをぶった切ればいいだけの話だろ」


 うわぁー、殺気がすごい。


 出来れば戦わずに終わらせたいんだけど、そうもいかないのかな……


「主よ、ここはわらわが」

「いや、それはいいよ。加減効かなくても困るし」

「舐めた口を!」


 あ、やばい……彼の逆鱗に触れてしまった。



 ガッキィィィィン――



「――そ、そんなばかな!」


 重い一撃……だと思われるロングソードの斬撃を、たかがダガーで受け止める。


「だから、ステータス見てくださいって。俺も驚いてるんだから」

「ふざけるな! 俺が負けるはずがない!!」


 連続して何度も切り込まれるが、これが恐ろしいほどにすべての動きが見える見える。


 全ての攻撃を紙一重で躱し、最後の一撃に指一本で――つんと後押しする。


 体制を激しく崩したために、回転しながらダンジョンの壁へと叩きつけられる元リーダー。


「このままだと、俺がいじめてるみたいになる……」

「大丈夫じゃ、正当防衛という言葉を知らんのか?」

「いや知ってるけど、その度合いを超えてるし」


 無傷の俺と、傷だらけの元リーダー。


 はたから見たら、明らかに俺が悪役である。


「――くっそ、ふざけやがって」

「はぁ……」


 無言で近付いていくと、警戒して剣を眼前に構えてくる。


 これ以上の戦いは全く無意味。


 俺は静かに腕輪の効果を展開し、ステータスを見せる。


「……そ、そんな馬鹿な!!」



 ――――――――――


【神獣使いLv1】


 HP(適正A)3700(1300↑)//1000

 SP(適正B)490(260↑)//500


 攻撃力(適正S)1250(610↑)/300

 防御力(適正A)890(380↑)//300

 精神力(適正B)420(140↑)/300

 抵抗力(適正S)1080(490↑)/300

 器用さ(適正S)1260(540↑)/300

 素早さ(適正A)820(290↑)/300

  運 (適正B)420(110↑)/300


 ――――――――――



 ――いや、この短時間でまた上がってる!!


 いくつかの数値が四桁いってるし、上昇率って徐々に緩やかになったりはしないの?


 とりあえず上がりすぎで怖いんだけど!!


「こんなの嘘だ、嘘に決まっている!!」

「俺だって信じられませんよ。でも、こういうことです」


 冷静に返答してみたが、少し見ない間にすごいことになっていた。


 というか、スキルも増えてるな。



 ―――――≪ジョブ固有スキル≫―――――


【神の威光】消費SP:――

 常時発動スキル:モンスターの従属率、大幅増加

【心眼】消費SP:40

 自動発動スキル:相手の攻撃を、一定時間見切ることができます。

【逆境】消費SP:100

 相手が強ければ強いほど、次の一撃の威力が増幅されます。


 ――――――――――



 さっき倒したワイバーンのおかげで習熟度でも増えたのかな?


 というか今思ったんだけど、さっき斬撃がゆっくりに見えたのって多分【心眼】の効果だな。


 ますます自分が怖い。


 俺、どうなっちゃうの?



 ――ズズゥゥゥン



 突如遠くから聞こえた、何かが崩れたような音。


 それは俺以外の耳にも届いたようで、二人も意識を集中し始めた。


「今のなんだろう」

「音もそうじゃが、床が下から突き上げられるような振動じゃったな」


 下の階層で、何かが起きているのか?


「とにかく嫌な予感がする。早くここを出て――」



 ――キュオーーーーン!!



 聞いたことのないモンスターの咆哮だ。


 それに伴い揺れが激しさを増し、徐々に近づいてくる。


「やばい、早く立って!!」

「うるせぇ、俺に触るな!!」


 その間もどんどん近付いてくる揺れと轟音。



 ――そして



 すぐ隣の壁が――バゴンッと崩れ、姿を現したのは全身を白い毛が覆った、角の生えた馬。


「――うそだろ」


 このモンスターは知っている。


 雷を操り、近付くものすべてを塵に帰す雷帝。


「なんでこのダンジョンに”麒麟”がいるんだよ!!」

「麒麟じゃと? わらわも名前だけは知っているが、実物を見るのは初めてじゃな」


 驚く俺たちの横で、クツクツと笑う声が聞こえる。


「――上手くいった」



 意味深な呟きを放つ彼……なんかやったな?



 麒麟は俺を真っ直ぐ見据えたまま動かないが、”神速の雷帝”と呼ばれるこのモンスターは、高速で移動することができると文献で読んだ。


 気が付いた時には俺は、灰になっているだろう。


「どうする?」

「どうするていっても」

「無駄だ無駄! みんなここでやられるんだ!!」


 元リーダーが壊れた!


 でもこれはさすがに、真剣にいかないとやばいな。


「ニア、俺に考えがある。可能な限り併せてくれ!」

「わかった!」



 ――と、同時にすかさずスキル発動!!



 一度試してみたかった、【空間転移】からの【心眼】発動!


 麒麟の背後をとったことにより、一瞬だけでも気配を消すことに成功。


 だが本当にわずかな時間しか作れず、すかさず俊足の後ろ蹴りが放たれる。


「あっぶな!!」


【心眼】の効果により躱したその一撃は、俺の後ろにある壁と柱を難なく破壊する。


 スキル発動させたはいいが、いつまで続くかはわからない。


 効果が続いているうちに次の行動をとらないと。


「これでいいのか!?」


 ニアがすかさず麒麟の足元に滑り込む。


 後ろ足が浮いている今なら、まだ次の攻撃に転じることは出来ないだろうということを瞬時に理解する。


「時間稼ぎしかできんぞ!!」

「いや、十分だ!!」


 そう、十分だ。



 先程のスキル同時発動が可能ということが分かれば、もうこっちのものである。


「いっくぞぉ!!」


 俺は間髪入れずに【逆境】の発動、【ドラゴンブレス】の詠唱開始、そして詠唱完了直前に再度【空間転移】で麒麟の頭上へと飛ぶ。


「その陰りを以て、深淵を滅せよ――ドラゴンブレス!!」


 作戦は成功した。


 しかし麒麟だって、ただやられるわけがない。


 足元のニアごと俺の攻撃を無効化し、かつ一撃で俺たちを仕留める方法を取ってきた。



 ――閃雷せんらい――



 麒麟の体が激しく発光し、同時に高出力の電撃が放たれる。


 全ての生命体の体内を駆け抜けるその威力は落雷の比ではなく、この攻撃を受けて立っていられるものは存在しない……そう、今までは。



 ――ゴウッ!!!



 問答無用で、激しい炎が対象を包む。


 ニアは自分の【空間転移】で離れ、効果があったのは目標のみ。


「よっしゃぁ!!」


 確かな手ごたえと共に倒れる麒麟の脇に崩れる俺。


 生きてはいるが、当然無傷ではない。


「ティム! 平気か!?」

「平気じゃないけど生きてるよ」


 ほんと……ついこの間までは想像もしていなかった状況だ。



 てかめっちゃ疲れたんですけど!?

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