黒騎士と少女、そして柳 4
全身に力が漲るのを感じつつも、同時に体から何かが抜けていく感覚。それが長くはもたないことは直感で分かった。
(二太刀で良い、それだけで全てを終わらせる)
腰を落とし刀を横に構える。周囲は黒い靄で染まり何も見えないが、動けない黒騎士の位置は把握している。
「……参る」
儂は右足を一歩前に踏み出し、左から右へと横薙ぎに刀を振るった。黒い靄の層は多少の抵抗はあるもののあっさりと斬れ、刀を振った横一文字に黒い靄の切れ目が生まれる。
そして刀を振り終えた後、切れ目から見えたのは黒騎士が上下に両断された姿だった。
『アァァアァ……』
黒騎士は呻き声をあげながら、その体は光の粒子となり消失していく。またそれと共に切れ目が広がるように黒い靄が上下に開いていった。
黒騎士は消失しながら残った左手をまるで助けを求めるかのように儂に伸ばしたが——その姿も瞬く間に消え、黒騎士の居た場所には何も残らなかった。
儂はそれを見届けると共に刀を構えなおしつつレティーへと意識を向ける。
すると——
「あぁぁぁぁあ!!」
レティーは叫び声をあげながら両手で左目を押さえ仰け反っていた。
「わ、わたくしの左目があぁぁあっ!!」
(……隙!)
儂はレティーの言葉に違和感を覚えつつも、その明らかな隙をみて反射的に駆け出した。
「ふ……ッ!」
一瞬の間に距離を詰め、レティーの体を斬った——筈だった。
だがレティーの体に刃が当たるとまるで金属を切ったかのような感覚と刃から鈍い音。儂はその体を斬れなかったことを察した。
「人間如きがわたくしに傷を付けれると思うな!」
儂が一度距離をとるとレティーは左手で片目を抑えながら叫ぶ。
「……これではまだ足りぬか」
「貴様ら楽に死ねると思うな!」
レティーが右手を振ると共に巨大な黒い壁が現れ凄まじい速度で儂目掛け迫る。
「押し潰せ!」
儂は上段に刀を両手で構え壁に備え——そして一言呟いた。
「『終良全良・開花』」
上段から振り下ろした刀と黒い壁が衝突し、黒い壁の勢いを削いだ。だがそれでも完全に勢いを無くすには至らず刀が押し退けられそうになるのを感じた。
「五分咲き」
そこで黒い壁と刀の勢いが拮抗した。
「八分咲き」
刀が黒い壁を徐々に押し始めた。
「『終良全良・満開』」
黒い壁にヒビが入り始める。
そして気がつけば、儂は穗のような花を咲かせた枝垂柳に囲まれていた。その風景を見てふと思う。
(桜と比べたら少し地味かのう)
ヒビは大きくなっていき、欠片となって崩れ始める。
「柳の花言葉は確か……ふむ、今の儂にぴったりじゃのう」
黒い壁のヒビは全体に広がり、刀への抵抗が消え失せた。
「我が胸の悲しみ。身をもって感じると良い」
崩れている黒い壁を無理矢理突っ切り、その奥にいるレティーと距離を詰める。
「……っ!?」
目を見開き驚くレティーは隙だらけで、儂は刀が確実に届くと確信した。
そして——すれ違いの一閃。その一撃はレティーの体を斬ったと確信した——だが。
「ぐ……ッ」
斬った瞬間儂の心臓が痛み、刀を最後まで振り切る事ができなかった。
儂はすれ違った直後、その場で両膝をついて立ち膝の状態で刀を杖代りで倒れ込むのを堪えた。
「カハッ……」
背後からレティーの小さな声。それは渾身の一撃で屠る事ができなかった事を意味していた。
だが儂はその事を考えるだけの余裕が無くなっていた。
「ハッ……ハッ……ハッ……」
心臓が苦しい。呼吸が上手くできない。体に力が入らない。
(儂は……何も成し遂げられず、このまま殺されるのか……)
追撃しようにも手足は動かず、呼吸が上手く出来ないせいで意識が朦朧とし始めた。
「ゲホッ……くっ……危なかったわ人間の事を侮り過ぎてたのは認めますわ。でも見たところあなたは息も絶え絶え。やはりジェニスのわたくしが人間に負ける事などあり得ない」
レティーは話を続ける。
「ただ人間如きと言ったのは間違いでしたわ。柳道唯——貴方の名だけは頭の片隅に置いておいてあげます。そして今すぐその苦しみから今解き放ってあげますわ」
レティーが仕掛けようとしているのは分かったものの、儂は倒れないようにするので精一杯で逃げる事など出来なかった。
「では、さようなら」
レティーがそう告げると同時に、聞こえたものは走る足音。
「『
(何をしとる……ここは儂を見捨てて逃げるべきであろうに……全く……あやつ……は——)
体が限界を迎え地面に倒れこむ。倒れながら儂が目にしたものは宙に浮かぶレティーに飛び掛かる灰間の小僧の姿だった——。
兵器創造の領域支配者 飛楽 @hihiraku
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