第5話 遥かな舂

 驚く東堂の様子に、一番驚いていたのは俺だった。

 はたから見れば、目を見開いて驚いている二人、というとてつもなく異様な光景だがそんなことにまで頭が回らなかった。

「な、なんで東堂が吃驚びっくりしてるんだよ」


「だって私、『春一番』なんだもん」


 今度こそ俺は仰天した。

 二人で合わせて吃驚仰天。なるほど、仲の良いカップルだ。

「つまり、お前が春を長続きさせた、と?」

「多分そうだと思う……。本当にごめんなさい。でも、私もそんなつもり無かったんだよ? なんで……」

 東堂の告白カミングアウトに、俺はる一つの考察が頭に思い浮かんだ。しかしこれは――あまりに青くさ過ぎる。

 言うのがはばかられたが、この際羞恥心などは棄ててしまおう。

「東堂、お前さ、俺のこと大好きか?」

「はっ、はぁぁぁっ!? ……急になんてこと聞くの……そりゃ、一応付き合ってるんだから好きに決まって……」

青春その気持ちだよ、原因は多分」

 青春――青い春。

 春への執着、夏が消えた原因はきっとこれだ。

「……じゃあこれからどうなるの……?」

「大丈夫、このままだよ」

「なんでよ……それじゃあ夏は……」

 夏、俺の名前が不覚にも呼ばれる。彼女は二つの意味を込めて言ったのだろう。

 季節の夏はどうなるのか。俺は、どうなるのか。

 答えはシンプルだった。


 二つの夏は、に恋してしまったのだから――。

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夏の獣 詩人 @oro37

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