第七者・家族会議

「さぁ着いたぞ、降りろ」


エリナが車を駐車場に止め二人も降りる。三人は階段を上がりエリナがドアノブの取っ手を壁に付ける。すると壁が変形しドアになる。


「これも魔術の一種だから、正直マジックで納得していまうお前を見て少し心配になったぞ」


「変だとは思ったけど師匠がそうだって言うから納得しただけです!」


「では私はこれで」


二人の会話を見て琴音はすぐに引き返そうとするがエリナが戸を開けて入るよう促す。


「せっかく来たんだから入ってけ、それに細かい打ち合わせもしたいしな」


「わかりました」


何も口答えせずただ指示に従う琴音。

三人は部屋に入り、居間のテーブルに腰をかける。


「とりあえず、明日からまた学校だから弥稜は琴音と一緒に登校しろ。さすがに魔術士が付いていれば奴らも襲っては来ないだろう」


「…わかったよ、俺はまだ認めてないからな」


エリナの命令を渋々了承するもしつこく琴音を牽制する弥稜。


「エリナ元神官、提案があります」


そんな彼をよそになんの前触れもなく琴音がエリナに提案を投げかける。


「なんだ、言ってみろ」


彼女の元神官という発言に少々違和感覚えながらもそのまま聴きながす弥稜。


「毎日ここに通うのは効率が悪いのでここに住まさせいただきたいです」


「はあああああああ!?」


弥稜は口をあんぐりと開け飛び上がりそうな勢いでテーブルに両手を叩きつける。その振動でお茶が倒れそうになる。


「それもそうだな、今日中に荷物も持ってきて貰いなさい」


「ありがとうございます」


迷うことなく軽く承諾するエリナに琴音は感謝の気持ちを込めて頭を下げる。


「いやいやいやいやいやいやいや!」


「うるさいぞ弥稜、座りなさい」


顔を左右に高速でシェイクしながら後ずさりする弥稜をエリナが叱る。


「何勝手に了承してるんですか!?」


「人間が一人増えるだけだ、部屋も増やせる。何も問題ないだろう?」


「問題しかありません!仮にも…その、彼女は高校生だぞ!」


「琴音って呼んで」


顔を赤面させながら琴音に指をさして話していると突然、琴音が二人の会話に入って自分の呼び名を提示する。


「お前ちょっと黙ってろ!」


「…」


口を閉じ彼の命令どうり静かになる琴音。


「年頃の男女をひとつ屋根の下で寝るなんて、ダメに決まってるじゃないですか!」


「なんだ?じゃお前は、琴音を襲うのか?」


「な!そんなことするわけないじゃないですか!!」


鼻で笑いながら話すエリナに今にも顔から火が出そうになりながら否定する弥稜。


「じゃあ、問題ない終了」


手を叩き会議を終了を宣言するとエリナはスタスタと台所に向かう。


「この人たちの倫理感おかしくない?」


「琴音って呼んで」


「わかったから!」


その後、三人で夕食を摂ると俺は風呂に入った。


「はぁ〜なんでこんなことに…」


鼻を湯船につかせブクブクと泡を吹く彼の胸元にはオーディンと同じ幾何学模様の黒印がある。


「急に襲われたと思ったらカーチェイスして、神がいるだのなんだの。魔術ってなんだよファンタジーかよ。そしてあいつと一緒に住むとこになったし…明日口止めしとくか」


しばらくして、風呂場の外から激しい物音がするの で引越しが始まったのかと思い、湯船から上がり浴室扉を開けると目の前に血桜がいた。


「おわっ!?」


突然人が現れるとこんなにも狼狽するのだろうか。

慌てふためき、後ろへ下がろうとしたら足を滑らし風呂の地面に後頭部を打った。


「いてて…」


打った箇所を手で押さえていると琴音がタオルを渡してきた。


「風邪を引くから早くこれで体を拭いて」


「何で風呂場にいるんだよ!人が入ってる時は…」


続けて話そうとしたら自分の股間が丸出しになっていることに気がついた。そして彼女がなんの躊躇いもなく自分の肉槍を凝視していることにも。


「ッ!?よこせ!」


慌てて彼女からバスタオルを奪い取ると急いで自分の股間を隠す。


_み、見られた!?。


赤面させて後ろを向いていると琴音が口を開く。


「私は弥稜の護衛役、いつどこでも一緒に居ないといけない」


「ふ、ふざけるな!そんなこと言ったらトイレまで一緒にいることになるだろう!早く出てけ!」


腕を振り回しながらテンパる弥稜に対し琴音は冷静に話す、


「でも排水口から来られたら対処できない」


「え?そんな所から来るの?ってそんなことを聞いてるんじゃない!お前は社会の一般常識として他人の入っている時は近寄らないという事を知らないのか!?」


「?…それはどして?」


「そ、それは普通他人に裸を見られたくないもんなんだよ!お前はなんなんだよ…羞恥心と言うものがないのか?」


しばらく項垂れていると何かを閃いたように琴音は語り出した。


「わかった、恥ずかしくなければいい」


「…は?」


彼女の言葉の意味が理解出来ずフリーズしている彼をよそに彼女は持っていた刀を置くと突然スカートを下ろし出した。


「な、何をしてるんだ!?」


慌てて両目を閉じ後ろも見る黒髪の青年。一瞬だかスカートを奥にある布地が見えてしまった。


「私も裸になれば恥ずかしくない、これでお相子」


「どうしてその結論に至った!?わかったから!今度から風呂場にいてもいいから!頼むからスカートを履いてくれ!」


「そう」


淡白なにべのない返事でスカートを着直す琴音。


「はぁ…風呂でとれた疲れが戻ってきたよ…」


「また入れば?」


「もういい!さっさと上がらせてもらう!」


ドスドスと風呂場から上がり戸棚に置いてある自分のパジャマを取り出す着替えようとするが、琴音がこちらをずっと凝視してくる。


「あの…さすがの俺も恥ずかしいからあっち向いててくんないかな?」


「なぜ?」


「当たり前だ!一体世界中のどこに自分のお着替えシーンを女子高生に見られたいやつがいるんだよ!いたとしてもそんなやつ変態か露出狂だ!」


「…わかった」


首を傾げながらも渋々洗面台の方を向く琴音。


「たっく…なんでいちいち怒鳴らないといけないんだ…」


愚痴をこぼしながら黙々と着替えている自分の姿を鏡越しに見られているとは知らずに彼はパンツをはく。


「んっ?なんだこれ」


下を見ると足元に白い布切れ?が落ちており、それを手に取る。広げてみるとそれは女性用の下着だとすぐにわかった。


「それは私の下着」


「なぜ履いてない!?」


「命令されなかった」


「お前は命令されたことしか出来ないのか!?こんなこと万国共通だ!」


慌てて下着を彼女の顔面に投げつけるがパシッと素早く取られる。


「お前に構ってると頭が痛くなる」


髪を乾かして、パジャマに着替える。早歩きで脱衣室のドアを開けると、何かにぶつかった。


「いってぇ、なんだこれ?ダンボールが山積みになってる」


退けようと思って動かそうとしたがビクともしない。


「もう、何も驚かないぞ。師匠!なんですか!これは!」


「上がったか!手伝ってくれ、人手が足りない」


リビングの方からエリナの声が聞こえるがその方向すらダンボールで埋め尽くされている。


「いや、だから出れないんですって」


「何とかしろ」


「だいたいこのダンボールはなんですか?」


「琴音の荷物だ」


「お前の!?多すぎだろ」


「そんなことない、私の部屋のものを全て持ってきたらこうなった」


「いや、部屋に入る量じゃないぞ!?」


「言ってなかったな、琴音は血桜財閥の長女で御令嬢だぞ」


「ええ!?金持ちだったの!?温室育ちの子がなんで常識をしらないのぉ…」


「普通の家、たまに、総理大臣が来るけど」


「おかしいだろ!その家!どこの一般家庭に総理大臣が来るんだよ!客人としてお招きするレベル超えてんだろ!」


鋭いツッコミを入れるが琴音は不思議そうに首を傾げる。


「弥稜の家には来ないの?」


「来ねーよ!てかさらっと下の名前で読んだな今」


「弥稜とは親しくなりなさいと言われたから」


「なんでも下の名前で呼べば親しくなる訳じゃないぞ!」


弥稜の助言に眉をひそめてまた首を傾げる琴音。常識というよりも人間として何かが欠けている気がする。


「そうなの?」


「とりあえず、ここから出してくれない?」


「自分で出ればいいと思う」


「出来たら初めっから出てるわ」


「わかった、離れて。切る」


「え?今なんて?」


琴音は立てていた日本刀を腰に構えると抜刀し剣先をこちらに向ける。


「琴音さん?なんでそんな物騒なもの護衛対象に向けてんの?ほら閉まってしまって?」


冷や汗をかきながら後ずさりする弥稜だかすぐに行き止まりのダンボールに背中が当たる。顔色一つも変えない彼女を見て悪寒がする。


「もしかしたら当たるかもしれないから」


「ちょっと!ストォップ!」


「はぁ!」


先程まで弥稜の命令を忠実に従っていたのに今は完全に無視され刀を振り下ろされる。


「人の話を聞けぇぇえ!」

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ブラックリスト 九月ゑゐ @qwertyxYz

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