勉強をしよう
きと
勉強をしよう
「うだー。休憩だー」
「……まださっきの休憩から、十分くらいしかたってないよ?」
友人である
外では、太陽がさんさんと輝いている。中学生である幸子は、外で遊ぶ子供たちの声を聞きながらクーラーの効いた部屋で勉強をしていた。
もうすぐで、期末テスト。幸子も勉強せずに遊んでいたいが、そういうわけにもいかないので、いやいやながらも勉強に
今勉強しているのは、特に苦手な数学。
自分の部屋に数学が得意な友人である千明を
でも、苦手意識があるものは、やはり面白くない。先程から休憩ばかりで、なかなか進んでいなかった。
「だいたい、なんで数学なんて勉強するのさー。大人になって使うのなんて四則演算くらいな気がするんだけど」
「流石に四則演算以外にもいろいろ使うと思うよ。ちなみに、数学を勉強するのは、論理的思考を身につけるためって言われているね」
「へー。流石、千明。物知りだね」
「ありがとう。ほら、勉強再開するよ」
千明に
千明の教え方は上手で、数学が苦手な幸子のために基礎からしっかりと教えてくれた。
時間にして三十分ほどたった後。またしても幸子はテーブルに体を預けて、
「きゅーけーい。千明、いいよね?」
「……ちょっと早いけど、見逃してあげよう」
やったぜ、と喜ぶ幸子を見て千明は苦笑する。そもそも幸子が千明を呼んだはずなのに、やる気がないのは怒ってもいいだろう。だが、千明は幸子と長い付き合いなのだ。幸子の性格などお見通しだ。
中学生にして早くも慈母のような心意気である千明に向かって、幸子は話しかける。
「ねぇ、千明。さっき数学を勉強する理由は教えてもらったけどさ。千明は、そもそも勉強する意味ってなんだと思う?」
それは、子供であれば誰もが思う疑問だった。幸子自身、勉強していて為になったな、と思ったことがないと言えば噓になる。でも、やはり勉強はつまらない。自分の興味のあることだけを勉強していたいと思ってしまう。
千明は、少し上を見上げて、考える。
「勉強するのは、やっぱり大人になるために必要だからじゃないかな。数学の四則演算だけじゃなくて、政治の仕組みとか、漢字の読み書きとか。そういうのは、いずれ生きていくのに必要になるからね」
「うーん、やっぱり。そうなのかなぁ?」
いずれ、幸子がどんな道を選んでどんな大人になるのかは分からない。もしかしたら、学校の勉強など全く関係ない世界へと進むかもしれない。
それでも、きっと幸子は勉強をしなければならないのだろう。
大人として、恥ずかしくないために。
「あ、でも私は、それ以外にも勉強しといた方がいいと思うことがあるよ」
「それって、どんな?」
「知識があると、楽しめることが増えるからだよ」
幸子は、首を
そんな幸子を見て、千明は解説を始めてくれた。
「いろんなことを知っているとね。石一つでもいろんなことに気付けるんだ」
「石一つでも?」
「そう。あ、この石はなんとか岩だなとか。この種類の岩があるってことは、ここは昔、火山の噴火があったのかなとか。もしかしたら、あの山が昔は活火山だったのかなとか。そういう風に世界が広がっていって、どんどん日常が楽しくなるんだよ」
なるほど、と幸子は納得いったようだ。
一見すると、だからなんだというようなことでも。点と点が結ばれれば面白さに繋がる。その面白さに繋がる点こそが、知識なのだ。
例えば、幸子が好きな絵のことでも。この作品の作者には、実は別の画家と仲が良くて影響を受けていると知れば。その作者どうしの絵に何か共通点はないかと、もう一つの楽しみが増えるのだ。
「幸子が、勉強が好きじゃないのは分かるけどさ。もしかしたら、勉強のおかげで何か別の楽しさが見つかるかもしれないよ?」
「……うん。分かった。ありがとうね、千明」
ニッコリと微笑む千明を見て、幸子は少しだけやる気が出てきた。
だが。
「ねぇ、千明、休憩しない?」
「いや、まだ三十分くらいしかたってないよ?」
頭で理解していても心はついてこないのは、勉強でもどうにもならないことだった。
勉強をしよう きと @kito72
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