第4話 女の子の幽霊(自分なりに考えて付け足しました。蛇足かもしれません)

 夜が明け、ベッドで目を覚まして起き上がった美咲は、目の前の光景に絶句した。

 鬼堂がラグの上で奇妙な形にねじ曲がって、倒れていたからだ。

 昨日、遅くまで二人での酒を飲み交わし、それぞれがこれからの素晴らしい未来に酔いしれ、眠りについたはずなのだが。この状況は? 一体何だ? 美咲は頭をフル回転させる。

 したたかに酔っぱらって、美咲の家にそのまま泊まり、ソファで眠りについたはずの鬼堂は今や、舌をだらりと垂らして死んでいる。どう見ても、死んでいる。

 何だこれは。

 美咲はベッドから降りると、鬼堂の死体を調べた。関節という関節があらぬ方向に曲がり、胴体は絞った雑巾みたいにねじれていた。だから下半身がうつ伏せで、上半身が仰向けだ。壊れた操り人形みたいなポーズ。着衣に乱れがないのが不自然なくらい、滅茶苦茶だった。その表情かおは苦悶というより快楽に近い、気持ち悪さを感じさせる笑みを浮かべている。

 狂った顔だ、と美咲は思った。


 鬼堂をまたいで玄関に向かい、部屋の鍵を掛けたか調べた。古いアパートだが、鍵はちゃんと掛かっている。鬼堂と乾杯する前に、美咲が掛けた。

 もしかして私が酔ってのだろうか? いや、そんなはずは……。そう思いながら振り向くと、ねじ曲がった鬼堂の隣に女の子が立っていた。

 青い目が、こちらを無表情に見ている。柔らかそうな髪が、室内だというのにふわふわと揺れている。


「だ、誰よ、あんた」


 努めて冷静になろうとしたが、声が上ずった。本当に最初は誰だか分らなかったが、美咲の頭の中にじわじわと、この少女の正体の「答え」が浮かび上がってきた。

 まさか、この子は、り……。


 馬鹿な。昨日鬼堂に動画を見せてもらったじゃないか。あの子は鬼堂の家に十年間監禁され、昨日死んだはずだ。こんな、小学生みたいな見た目なわけない。

 いや、その前になぜここにいるの? なんで? なんでなんでなんで。


 は、とした瞬間、女の子は目の前に移動していた。背の高さがだいぶ違うはずなのに、目線が同じだった。

 美咲の体にぞわぞわしたものが一瞬で走り抜け、直感的に殺される、と思った。


「みーさーきーちゃん、もぉーいぃいかぁーい」


 あどけない声で、美咲の顔の真ん前で、陶器のように白い肌の女の子が問うた。


 いいわけないだろ、私はこんなところで理々亜あんたなんかに殺され――

 ドアを開けようと必死に鍵を探る手は、空しく小枝のように折られた。悲鳴を上げる前に舌を抜かれた。

 血を吐き出しながら、美咲は長い長い間、死ぬことも出来ずに、理々亜と



 小学校から連絡が入り、アパートの管理人が美咲の部屋のドアを開けると、そこには誰もいなかった。室内は散らかっていたが、とくに事件性を示すものはなかった。ただ、一匹のウサギだけが元気に跳ね回っていた。


 それ以降、美咲と鬼堂の行方を知る者は、誰もいない。




(了)

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夏休み、行方不明になった理々亜ちゃん ふさふさしっぽ @69903

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