第4話
地を潜った先にいる炎霊にも。
岩を割った先にいる金霊にも。
葉を削った先にいる蔓霊にも。
川を掬った先にいる砂霊にも。
悉くすげなく断られた鴆が諦めて自身の毒で梅をどうにかこうにかしようとしたが、どうにもこうにもできず。
やっとの事で了承してくれた油虫も、梅が呼び寄せた天道虫に食べられてしまったので、鴆は結局孤軍奮闘していた。
「おーい、鴆」
「なんだ六十九」
「もー。俺は梅子だってば」
梅子と言っては思い切り膨らませた少年の頬がにっくき敵である梅の実に見えて、鴆はそっぽを向いた。
彼は猟師の六十九代目の子孫である。
猟師の鴆を浄化させるという願いが叶う事はなかったが、鴆を護ってくれと子孫に頼み込んだのだので、彼の一族が鴆を護るように、また、被害を出さないように村の内に囲っていた。
「鴆。毒の生物はおまえだけだって」
「そうか」
そんな事はないだろうと鴆は思ったが、瞬時に考え直す。
今の人間なら毒の生物をすべて駆逐できそうだと思った。
「俺たちがちゃんと見てるって言ったんだけど。王様がだめだって」
「そうか」
「違う星に行けって」
「そうか」
「違う星なら、おまえの好きな毒もいっぱいあるかな。もう。おまえがおまえを食べなくてもよくなるかな」
涙ぐむ梅子に呆れしか生まれない。
(こいつらは本当におかしい)
さっさと殺せばよかったのに、結局こうしてずっと生かし続けていた。
窮屈な世界であっても確かに。
(しかしこのままこの村にい続けてもな)
人間の言う通りにするなど業腹だが、毒の生物がいないのであれば確かにこの星に用はなかった。
(はずだ)
鴆は目を動かして、未だ健在である梅の木を見た。
猟師の願いが叶わなかったように、己の願いもまた。
「などと殊勝な事を云うとでも思ったか?」
鴆は挑発的な笑みを梅に向けてのち、青々と生る梅の実を次から次へと咥えては口の中へと放り込んだのち、頬が膨れるまで実を入れては一気に飲み干した。
これで浄化されれば己の負け。
けれどもしも浄化されなければ己は。
「引き分け、だな」
脂汗が脚から滴った鴆は鋭い目で梅を射抜いて後、地に足を付けたまま、やおら広げていた翼で力強く羽ばたくこと、三度。
村の外へ、そして、星の外まで一直線に飛び上がり、毒の臭いがする方向へと迷いなく飛んで行った。
「多様な毒を喰らって貴様を」
刹那、村を出て行く際に力いっぱい手を振る梅子たちの姿が過った鴆は、ほくそ笑んだのであった。
(2022.3.13)
困難に立ち向かう梅干し 藤泉都理 @fujitori
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