第3話




「おい。泉霊。力を貸せ」


 毒が効かないなら、薬ならどうだ。

 過ぎたる薬は、毒にもなるだろう。

 その考えに至った鴆は、馴染みである泉霊を訪れた。

 ぽこぽこと。可愛らしい音を立てながら美味しい水が湧き出て、村の飲料水として重宝される泉の霊、泉霊は巻貝のあるタニシの姿に変化して、ぴょこんと鴆の前に現れた。


「えーやだあ」

「毒殺するぞ」

「え?本気で言ってる?」


 茶化す物言いに殺意が芽吹く。

 踏みつぶしてやろうか。

 本体ではないのだから、やった処で無駄だとわかってはいる。

 毒殺も然り。

 瞬時に浄化されてお終いなのだ。


(我慢だ我慢)


 ふるふると。緑色の羽毛を戦慄かせる鴆を見て、泉霊は溜息をついた。


「さっさと浄化させてもらって、村をおさらばすればいーだろうが。自由になる、狙われもしない。万々歳だろーが」

「黙れ」

「ふん。くだらねー矜持か」

「毒が好物なだけだ。浄化などされてみろ。毒を喰らえば一瞬でもお陀仏だ」

「そりゃあ、笑い種だな。死んだら。けど、考えてみろよ。浄化する力を高めれば、毒も意に介さないぜ」

「っち。貴様に頼ろうとしたのが間違いだった」


 やおら翼を広がては、地に足を付けたまま力強く羽ばたくこと、三度。

 空へと戻って行った鴆の毒を瞬時に浄化しながら、泉霊は短気なやつめと溜息をついた。






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