幼馴染の聖女を国王に寝取られたので、結婚式でドラゴンの子供を暴れさせます。竜神族こそ至高な世界で乱交したお前が悪い。

影津

幼馴染の聖女を国王に寝取られたので、結婚式でドラゴンの子供を暴れさせます。竜神族こそ至高な世界で乱交したお前が悪い。

「愛してるメリア」


 聖女になったお祝いのキスをしてやる。幼馴染のメリアは俺の髪をかきわけて、もっと求めるように指を伸ばしてくる。俺はそれに答えたい。全て倍で返したい。息が止まるような長いキスをする。


 三十年に一度この国では、十七歳の魔力の高い女性を集めて聖女を選定する。なりたくてもなれるようなものじゃない。人口二万人の大きな国でなれるのはたった一人。


 メリアは俺のドラゴン牧場の取引先の屋敷の令嬢だった。俺がドラゴンの卵を届けに行くと、使用人ではなくメリア本人が必ず顔を出してくれた。幼いころからそんな仲なので、俺は冗談半分にいつも聞いた。


「大人になっても決められた相手のところへ行ったりしないよな?」


「行かないよ。フランツのことが好きだもん。あたし、お父様にもお見合いはしないって今から宣言してるんだから」


 メリアはその約束を十七になるまで守ってくれている。俺は少なくともそう信じていた。そう、彼女が聖女に選ばれた今日までは。


 メリアの唇が、俺の舌から一瞬逃げようとした。気のせいじゃない。ああ、そうか。昨日の密告は本当なんだなと確信する。


 というのも、メリアのお屋敷の使用人の少年ミハエルとも俺は幼馴染で。そいつが昨日のドラゴンの卵の納品のときにこっそり告げ口してくれたんだ。


「メリアお嬢様に婚約の話が来てるぞ。一週間前の話だ。お前どうすんだ? あの女。お前のことずっと裏切ってんぞ? 噂によると国王と逢瀬を重ねて寝てるらしい」


「そんなわけあるかよ。毎日顔合わして、毎日キスしてんのに」


「キスだけだろ? あっちは寝てるんだぞ。お前が自分の身分を気にして夜を共にしないのは分かる。でも、もう見てられない。明日納品のときにメリアお嬢様との時間作ってやるから聞いてみろよ」


「馬鹿、直接聞けるかよ」


 俺はミハエルが嘘をつくとは思えなかったし、メリアのことも信じたかった。


 あー、駄目だ。メリアがはにかんだ。キスをしたら照れ笑いするのが常だが、今日の笑顔は決まりが悪そうだ。メリアの金髪の巻き毛。雪のように白い肌。それらが老けて見える。


 白々しい作り笑い。俺の知らない間に、婚約の話を受諾したのは本当のようだ。


 さっきまでの甘かったキスが泥水を飲んだ後のように生臭く感じる。ドレスの上からのぞく豊満な胸も魅力的に見えなくなってきた。


 いけない。顔に出してはいけない。俺は精一杯取りつくろって、目尻を下げて笑う。身分はこちらが下なのだ。


 仮にメリアの屋敷の使用人ミハエルが通ってもいつものキスだと思われるだろう。だけど見られたら情けなくなりそうだ。俺が馬鹿な奴に見られはしないだろうか。腹の底では叶わぬ恋を回数を重ねて成就させようとしている愚者だと馬鹿にされていないか? 早く帰りたい。俺は馬鹿だ。


「次の納品があるから、もう帰るな」


「あら、今日は早くなくって? あら、使用人が来たわ。紅茶ぐらい、いれさせるわよ?」


 乱れた服を整えたメリアは、中庭をよぎった使用人ミハエルに声をかける。その顔は日光を受けて白々しいほどの笑顔をたたえている。頼む、やめてくれ。この嘘つき女。


 俺のことを愛していないくせに。俺を騙して、よく平気な顔で誰かに話しかけられるな。


「お嬢様。今日もお熱い中でしたね」


「いいから、この人を部屋に案内して。紅茶を運んできてちょうだい」


 何のつもりだろうか。俺を引き留めて何がしたいんだろうか。はらわたがふつふつと煮えくり返るのをミハエルが去るまで必死にこらえる。


「ごめん、今日は次の仕事があるって。さっき言っただろう」


「あっそ。じゃあ、手短に言うわ。あたし国王と結婚するの。招待状、明日にでも送るわ。あんたなら当然来てくれるわよね?」


 ふざけるな。だけど、俺にはまだ、この女を殴る勇気もわかない。もて遊ばれていたことを認めるのが辛い方がまさった。


 できるだけ顔に出さないように努めるのが精いっぱいだった。


「へ、え。そうなんだ。おめでとう」


 俺は俺の言葉を呪った。思ってもいないことを口にした。出さされた。俺はその後どうやって家路に着いたのか記憶がない。びへつらって笑う自分の声だけ覚えている。まるで他人のもののようだ。


 一つしかない小さなドラゴン舎が見えてくる。一匹しかいない雌ドラゴンが俺の不気味な笑い声に驚いて、心配そうに首を伸ばしてくる。それが目に入るとたちまち涙が溢れてきた。明日も明後日も、メリアと顔を合わせないといけない。あいつの顔なんて二度と見たくもないのに! 


 ドラゴンの卵は今頃あいつの食卓の上でスクランブルエッグになっていると思うと虫唾が走る。ドラゴンの卵はただでも高級品だというのに、俺は無精卵にして売っている。


 雄のドラゴンが死んだのは親父の代でだ。残された雌ドラゴン一匹で生計を立てるには無精卵を高級食材として納品する方法しかなかった。国に売ることも考えた。だけど、長年世話してきたこいつを手放すのはとてもできない。まして、小型のドラゴンだ。戦争に駆り出されたら投てきでさえ深手になり得る。俺のドラゴンが傷つくことだけは耐えられない。


「グルルル」


 ほかの人間が聞いたらドラゴンが怒っていると思うだろう。違うんだ。こいつは喉を鳴らして俺の涙を舌でふき取ってくれた。


「……ありがとうリーリ」


 リーリの鱗が朝日を反射してエメラルドグリーンに輝く。太く逞しい両足の間に今日、二個目の卵が挟まれている。両手で抱えなければならないほどの大きな卵だ。一日一個産むのが普通だ。


「まさか。俺のために……」


 単なる偶然だろう。そんなにすぐに産めるわけがない。どこかに納品しにいくという商売人の考え方が浮かんだが。それでも、今日だけは卵を抱きかかえて家に入った。


 ドラゴンの卵を朝食にするのは久しぶりだ。栄養価満点。寿命も比較的伸びる。これをメリアは毎日スクランブルエッグにして食べているのか。同じ味を噛みしめると、喉の奥まで広がる幸福な味で、目から雫が溢れてきた。あの女に食べさせるのはもったいない。だけど、明日も俺はこの卵を納品する――。


 翌日には何の感情も湧かなくなった。味のしないパンを食べて家を出た。ドラゴンの卵はいつもどおり一つ。傷がつかないようにクッションとなる藁と、臭いを消すためのハーブを敷き詰めた箱に入れて配達する。


 メリアの屋敷の前でベルを鳴らすと、さんざん俺を待たせてからメリアがすまし顔で現れた。互いに言葉はない。メリアに卵の入った箱を手渡しする。


「っ重」


 ドラゴンの卵の重さはいつも均一だ。今日に限って重くなることはない。きっと、嫌味の一つでも言いたいのだろう。だけどな。ぼやきたいのはこっちなんだよ。


 代金を受け取ろうと手を差し出すと、硬貨といっしょに便箋も握らされた。


「手渡しの方がいいと思って」


 白い便せんが重く感じる。表に書かれている文字がとどめだった。俺は涙が浮かびそうになる目をぎゅっとすぼめて、はにかむ。


「招待状? 絶対に行くよ」


「あらそう? じゃ、返事はいらないわ」


 手に取った便せんをひったくられる。俺の直筆のサインなんて必要ないということだろう。


「……まだ日時と場所を読んでないんだけど」


「それもそうね。でも、あたしは国王と結婚するのよ。町にでも出れば噂で聞けるかもね」


 そうか。俺には来てほしい。だけど、親友、友人でもなく、遠巻きに祝う町民や野次馬になれと? 握りつぶす招待状がないことが悔しかった。


 

 この国の王は二十歳。世間知らずの馬鹿王。メリアとの婚約の決定打はメリアが聖女になったからだという。そもそも、メリアが聖女に選ばれたことも国王がの策略だった可能性もある。というのは、メリアはお世辞にも魔法が得意とは言えない。国の城壁を守るバリアを張る魔法は使えないし、回復魔法も人並だ。


 聖女の試験に美貌が加点されるならば違ってくるのかもしれないが。国王はメリアの美貌だけで聖女に選定したに違いない。自分の婚約者とするために……。


 結婚式まであと二日。悔しくて涙も出ない。俺の感情が死んでしまった。殺したのはあの女だ! 今日、メリアは不在だった。ドラゴンの卵を使用人ミハエルに納品する。こんなことははじめてだった。熱が出ようが、風邪をひこうが、メリアは俺からドラゴンの卵を受け取ってきたんだ。もう、俺は必要とされていない。


「そうか。結婚式の準備か。あ、国王様がお相手だと、リハーサルもあるのか。ははは……」


 乾いた笑いが出る。ミハエルが俺のことを気づかってくれて、頭から抱えてくれた。同情は必要ない。やめてくれ。


「お前のことは俺が一番見てたから」


「ミハエル?」


 俺はミハエルの腕から逃れた。


「何だ? 嫌か?」


「その、俺、まだ気持ちの整理がついてない」


「いや、俺も悪かった。お前はまだメリア様が好きなんだな?」


 幼馴染が突然俺を突き放したんだ。すぐに割り切れるわけがない。だけど、なにかやり返したいという悪い感情も湧いてくる。自分が恐ろしい。ミハエルが俺の手をつかんだ。温かい。俺という人間は冷たい人間なのかもしれないと思っていたが、互いの温度を感じる。


「でも、メリア様に仕返しがしたいのなら、俺も手伝うから」


「何を言い出すんだ?」


 ミハエルはメリアのことを今まで大切に世話してきたんじゃないのか? 使用人として支えてきたはずだろ?


「ミハエル。お前は自分の身分が低くて執事になれないと嘆いていただろ?」


「俺はメリア様の使用人を続けるうちに、あの方の本性が分かったんだ……。でも、お前がメリア様を好いていることを知っていたから、俺は応援した。メリア様もお前みたいないい奴と交際すれば、竜人族との乱交なんて馬鹿な真似をやめると思って」


 竜人族といえば、貴族よりも上に位置する神的な存在。聖職者と同等の地位を持つ。人とドラゴンのハーフの人のことだ。


「ちょっと待て。メリアは乱交もしているのか?」


 めまいがした。俺が奥手だったばかりに。俺の知らないところで、何人もの男と寝ているのか。そ、そうだよな。社交界は政治的戦略の場。富を得んとする者たちが令嬢を取り巻く場だ。


 そこで意気投合でもすれば、その日のうちに二人で夜を過ごし……。


 想像しただけで虫唾が走る! あの清らかな透き通るような肌がおぞましい。


 俺の触れた後から後から男たちがあの腕を取り肩を抱いて胸に引き寄せて、甘い唇を奪い、肌をはだけさせてやがて……。もう耐えられない!


「国王との婚約が決まった日には。遊びまわれるのもこれが最後だと思ったんだろうな。お前に早く伝えてやれなかったのはお嬢様の目があったからだ」


 ミハエルを責める気にはなれない。悪いのはあいつなんだ。やるせない倦怠感に襲われた。そうか、俺は唯一の男ではなかった。幼馴染って、そう簡単に切れる縁ではないと思っていた。幼馴染ゆえの油断。落とし穴。俺はメリアと、雇われ人と雇い主という関係で毎日顔を合わせてキスをしていたにすぎないのか。だとすると、訴えられたら確実に裁判で負ける。


 ミハエルが俺の目を見ずに目をそらせてくれているのが分かった。こいつなりの優しさだろう。いや、その蒼い瞳を追って俺は吸い寄せられた。


 胸がうずく。締めつけられる。そうか、俺はこいつの好意を今まで無下に扱っていたのだ。メリアのことに夢中だった。だけど、こいつとも俺は幼馴染と言っていい。それどころか、毎日顔を合わせた。メリアとこいつ。俺は本当に好きなのはどちらなのか。


 男同士の恋愛なんてこの国では御法度ごはっとだ。医者に診せられて、下手をすれば医者の監視の下に郊外での隔離生活を強いられるだろう。俺は異常者になる。それどころかミハエルも。ミハエルの方が立場的に辛くないだろうか?


「ミハエル。俺、自分の気持ちがどこに向いているのか分からない。お前、俺のことずっと見守ってくれていたんだな。今まで気づかなかった。いや、気づかないふりをしていた」


 ミハエルが俺の垂れた前髪をかき上げる。


「フランツは何も悪くないよ。フランツは正常だ。女を好きになった。それだけのことだ」


 いや、俺はお前のことを無視し続けた。なんと謝罪しよう。だが、俺よりも早くミハエルが口火を切った。


「騙されたお前をもう見ていられない。お嬢様と国王の結婚式を俺と二人で……」


 耳を疑った。何だ? 何を言ってるんだこいつ。いや、俺の心の奥底の願望をこいつは理解してくれているのか? 


「ぶち壊そう」


 ミハエルの危険な言葉が甘ったるく脳を刺激した。俺はくらくらしながら、かろうじてうなずいた。




 大聖堂で開けれた宣誓の儀。二人は愛を誓う。そこに俺がいない。歯が生えそろう前から仲の良かったあの女が、聖女が国王とキスをする。純白のドレス。まくり上げられたベール。金髪の国王と金髪の聖女。とてもお似合いなことで。


 俺とメリアの使用人ミハエルは、大聖堂の入り口近くを陣取る野次馬の立見席。椅子すら用意されない。メリアの顔は遠くからではよく見えない。笑っている? 頼む。頼むから俺のために泣いてくれ。


「大丈夫か? フランツ」


 キスの瞬間、大聖堂のステンドグラスまで震わせ、沸き起こる拍手。適当に手を叩くミハエルが俺の背をさすった。俺は拍手すらできなかった。拳を握り締めて俯くことしかできない。


「無理に見る必要はないよ。準備はできてる。この後の披露宴は、大聖堂の中庭で行われるんだ」


 そうだ。大聖堂の中庭で行われる昼食会。狙いはそこだ。


「分かってる。でも、見届けてから実行しないと」


 あの場所に俺がいない。彼女とキスする祭壇に俺はいないんだ。煮えくり返る腸。これで、覚悟はできた。ミハエルにやらせるわけにはいかない。俺の復讐だ。


「ドラゴンの卵をいつもどおり納品するだけだ」


 俺は胸を張って言う。


「だけど、今日の卵は有精卵だけどな」


 雄のドラゴンの借り入れに全財産を使い果たした。つまりは、嫁ぐあいつと同じだ。あいつが結婚式の費用を用意するように。俺も費用を投げ打つ。ミハエルは見かねて俺の出費の半分を援助してくれた。おかげで雌ドラゴンのリーリの産んだ卵は黄金色に輝いた。ああ、宿ったんだ。生命が。俺は今日それを献上品として国王に手渡すんだ。


 中庭に移動して食事が運ばれてきた。一般市民は抽選で選ばれた人間だけが参加することができる。幸い運はよかった。長テーブルで見知らぬ男どもと食事をとる。新郎新婦の顔なんて誰も見ちゃいない。食事がただで食べられるから来た不良者のような面子(めんつ)だ。


「祝辞。オーガスト家」


 各、名家が結婚おめでとうの挨拶をする。祝辞で二人を批難するやり方もあった。でも、俺はこの披露宴、縁談そのものをぶち壊しにするんだ。


「それでは、最後になりますが、聖女メリア様の遠いお友達より献上品が届けられています」


 司会者の神父の言葉に、中庭で一番奥の上座に座っているメリアと国王が、二人そろって目をしばたく。


「あら、卵ね」


 呆れたと言った顔が遠くからでも見えた。そして、鼻で笑った鼻息が静寂を切り裂いた。


 メリアと黒王の前のテーブルにドラゴンの黄金の卵が置かれた。


「ゆで卵かしら?」


 メリアの一声に会場に笑いの渦が巻き起こる。ここにきて俺を笑い者にするつもりか? 知る人ぞ知るドラゴン牧場の牧場主は、この中では俺しかいないからな。


「メリア様。割って下さい」


 俺は席を立ち、声を張り上げた。メリアと目が合う。ここで震えたらいけない。怒りも禁止だ。すました顔でメリアがドラゴンの卵にナイフを入れる。ドラゴンの卵を割る専用の大型ナイフだ。中身はゆで卵? 違う。残念。お前はここで終わった。


 めりめりっと会場にも響く卵の割れる音。ナイフが入れられるよりも早い。後は、俺が犯人ではないと証言するだけ。


 黄金の光の中から固い殻を押し上げて青いくちばしが覗く。その口内には獰猛な牙。長い翼が殻を突き破る。


「ワイバーンだ! メリア様聞いて下さい。乱交パーティーの詳細を教えて下さい!」


「はあ? なに、意味の分からないこと言ってるのよ。それに、どうしてゆで卵じゃないのよ! ドラゴンが出てきたあああああああああああああああ」


 青のワイバーンは食卓の上で飛び跳ねる。テーブルクロスを蹴り、コップを倒し、次々に料理の乗った皿を床にぶちまけていく。そうだ。駆けろ!


「きゃあああ、助けて!」


「メリア様! 乱交パーティーの相手が竜人族だというのは本当ですか?」


 会場にどよめきが起こる。竜人族と人が結ばれることは神の儀式になる。ただのお遊びではすまない。女は身ごもるか、相手となった男がのちに性転換をし、卵を産む。竜と人の遺伝子を持った子は本来ならば崇められる存在になる。だが、乱交は別だ。


 意図せず身ごもったならば、ドラゴンの血が人を滅ぼす。竜神族こそが全ての主導権を持つ。たとえ、国王の前であってもだ。もちろん、俺のドラゴンの卵は竜神族とメリアの間にできた卵じゃないんだけど。まあ、偽物。ドラゴン同士の卵。


 とうとうテーブルクロスに火がつく。孵化したばかりのワイバーンは好奇心旺盛で口から火を吐きまくる。さあ、こんな結婚式なんて燃えてなくなってしまえ!


「メリア! 本当なのか?」


 ドラゴンが口から吐いた火を頭を抱えてよけた国王が問いただす。


「ち、違いますよ」


「い、いや、ドラゴンの卵などそうそう手に入るものではない! お前が乱交したから卵が出てきたということではないか!」


「ち、違います! あれは毎日私が食べてたスクランブルエッグ」


 そこまで口にしてメリアが、はっと口をつぐむ。いいぞ、その絶望した顔。たまらない。卵を有精卵にすることは、ほかならぬ俺だけだ。竜神族なんて知ったことじゃない。だけど、メリアは自分に非がある。竜神族と寝ているメリア。少なくとも将来的にこの状況になってもおかしくないよな? ちょっと早まっただけだ。さあ。結婚式はクライマックスだ。


 ドラゴンが中庭に火を点けて回る。飛んでいるので誰も捕まえることができない。ドラゴンを野生に返した。竜神、人。恋愛するのならば、掟を守らないとな。


「じゃ」


 俺はそれだけ言うと会場を後にした。焼け焦げたテーブルクロスの臭いが鼻につく。


「派手にやったね」


 ミハエルが俺の耳元で告げる。その蒼い唇に口を寄せる。俺は本当の自分を愛してくれる人を見つけた。竜神族のミハエル。使用人なんてくだらない職業なんかにつくのをやめていれば、こいつも敬われる対象になれるのに。


「なに? 俺が竜神族だって、みんなにばらせばよかった? これでも人間になれるように努力しているのに」


「ううん。いいよ別に。俺は、ミハエルが人でも、竜神族でも構わない。あいつみたいに乱交なんて馬鹿な真似はしない」


 ミハエルのキス。優しい。温かい。竜神と人との結婚は認められる。でも、男同士は? 


 まあ、しばらくはそんなことを考えない。俺とミハエルは幸せに暮らす。誰かに浮気したりしない。それで充分だろう?

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幼馴染の聖女を国王に寝取られたので、結婚式でドラゴンの子供を暴れさせます。竜神族こそ至高な世界で乱交したお前が悪い。 影津 @getawake

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