終章(或いは幕間)
死は永遠に醒めない眠りだというその真偽を、
最後の蘇生が無理やりだったせいか、王叙鶴の肉体は完全に使い物にならなくなっていた。それでも霊魂は肉体を離れず、どうにか傷を癒そうとする。謝玄幽にできる唯一のことは、生きた霊魂と死んだ肉体を離れさせ、別々に保管することだった。
「……とはいっても、もうこの体に戻れることはありませんが」
謝玄幽は、首から提げた玉飾りを持ち上げて呟いた。
「疲れたでしょう、
飾りの中心に嵌められているのは透明な石だ。石の中では曇天のような色の煙が力なく揺らめいている——これが王叙鶴の霊魂だった。そしてもちろん煙からの返事はない。それでも謝玄幽は話し続けた。
「でも残念ながら、あなたの魂が冥府に渡ることはない。狭いですが、この中で休んでください……喋れる程度に回復したら、次の体に仕込んであげますよ」
そう話す謝玄幽の目は、満足げに細められて糸のようになっている。
彼の目の前には、作られたばかりの墓がある。「英雄王叙鶴之墓」と彫られたその墓の中に眠るのは、王叙鶴の抜け殻だ。愛想のない男だが、旅の供としての相性はばっちりだというのが彼の王叙鶴への評だった。彼の力が必要になったときのために、長剣は埋めずに自身の背中に渡している。それに、彼と一緒にいることで、同業の仲間たちに勝る何かを手に入れられるかもしれない。
「じゃ、行きましょうか」
謝玄幽はそう言うと、くるりと墓に背を向けた。
幽明の英雄譚 故水小辰 @kotako
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