第10話:反逆者掃討作戦

「──砲撃開始ッ!!!」

 号令と共に一斉砲撃が開始される。

 最高議長による発言から一週間後のことである。政府からの命令を受けて、国防軍は〈自由解放戦線〉並びに〈夜明けの鐘リバティー・ベル〉の掃討作戦を開始した。

 東京・群馬・埼玉・神奈川の各駐屯地から召集された部隊は小隊単位にして計26部隊──小隊一個につき〈カウタロス〉一機・〈ピグリム〉二機・〈メリッサ〉四機として、累計182機の〈パメロイド〉が、この作戦に編成されていた。

 砲撃目標となった廃棄区画が灼熱地獄へと姿を変えていく中。もうもうと上がる黒煙の中から〈自由解放戦線〉が数機の〈ドギー〉を展開していく。

 その中から白い影が姿を現した。

「──何……!!?」

夜明けの鐘リバティー・ベル……じゃない、あれは……!!!」

 白く塗装されてはいたが。その機体は──〈メリッサ〉であった。確認できただけでも六機が敵勢力に運用されている。

「敵勢力にメリッサが……!!!」

「鹵獲された機体だ……!!!」

 他機体のレーダーは味方かそれ以外かしか認識できないが〈カウタロス〉のレーダーには個機識別機能がある。その為に最前線にいる〈カウタロス〉各機はその白い〈メリッサ〉各機の信号を特定していた。

 六機とも全部、〈夜明けの鐘〉が初めて現れたあの戦闘で撃墜されて、そのまま回収されなかった機体であった。

 確かに何機かは片腕や一部装甲などの足りなかったであろう部位を〈ピグリム〉や〈ドギー〉などの別機体のパーツで補修している様である。片腕がショベルカーのスコップになった機体も一機あった。

「奴らめ、夜明けの鐘リバティー・ベルのおこぼれに集った様だな」

 他の反応を見るに〈夜明けの鐘〉の姿はいない。正式に両者が組んでいるわけではない様だと、国防軍側も認識していた。白くしたのは動物のやる保護色か擬態のつもりであろうか。

「奴が居ないのなら恐るるに足らずだ!!!」

 一人が吠えると共に、周辺一帯を取り囲む形で配置していた部隊は一斉に中心へと進軍を開始した。




『よろしいのでしょうか』

「何がですか?」

 その部隊の後方に、千翼の部隊は待機していた。前回の戦闘から再編されたわけだが引き続き所属している江印永夢もまた当然ここに配置されている。その永夢に千翼は疑問を投げ掛けられていた。

『本作戦はリバティーの掃討も兼ねているのですよね。命令があるとはいえこの配置では』

「我々の部隊は、編成されている中で唯一夜明けの鐘リバティー・ベルとの戦闘経験があります。……一応、ですが」

 実質的な大敗だったが、などと言いたくはなかった為に言いとどまったが。言葉に詰まりかけながらも彼女は続けた。

「故に夜明けの鐘リバティー・ベルとの遭遇までは温存しておくつもりの様です。

それに、兵法を鑑みれば後方から強襲される可能性が十分に考えられます。正直、無いと思いますが」

 陣形は廃棄区画を、東側の一画のみを開けてそれ以外の全方位を囲う様に展開している。

 千翼達が居るのは西側の最西端、逆方向であり同時に文字通りの最後方である。

『陣形の正面から本当に来ると思いますかね』

 そう懸念する永夢。実際後方の警戒の方が正しい意図の様に思えていたのも事実だ。

 そんな彼に千翼は答える。

「勘ですが、来ると思います」

 勘、とはいいつつも。何処か確信している気さえあったと、彼女自身も認識していた。

「ですが。どちらにしろ後ろから来ればこのまま迎撃すれば良いですし、どちらでも大丈夫な様にしておく事が最善かと」

『……そうですね』




 片方が穏やかそうであるのに対して。〈自由解放戦線〉側は当然ながら最悪な状況であった。

『糞がよ、こいつらァァァッ!!!』

 吠えながら機関銃を連射する〈ドギー〉。

 〈メリッサ〉の一機を撃墜するも、別機体から追撃が放たれる。

『何でこうも、お前らはッッ!!! いつもいつも、話を聞こうともしないでッッ!!!』

 鹵獲して運用している〈メリッサ〉の一機も、果敢に〈ピグリム〉へと迫る。

 対物ナイフを胸部へと突き立てる。コクピットは背面側にあるが、動力がある部位であり機能停止に持ち込むことに成功していた。

「…………ッッ!!!」

 同じく〈メリッサ〉に搭乗する小早川は無言であった。それでも彼らと同じかそれ以上の情動を心内に懐き、老体に鞭を打ちどうにか戦っている。

 〈夜明けの鐘〉が居なければ何もできない、などという訳でこそないはずだが。あまりにも戦力差がありすぎる。物資も残りが心許ない。磨り潰されるのも時間の問題だった。

 一機の〈ドギー〉が撃墜された。立て続けにもう一機も失われる。

 〈メリッサ〉も一機が片腕を失い、別の一機が被弾した機関銃を手放した。

『──くっっっそ……ここまで、か……!!?』

「諦めるな……もう少し耐えてくれッッ!!!」

『しかしなぁ!!!』

 通信越しで心が折れかける仲間を鼓舞する。それでもなお状況は変わることがない。

 距離を離せば後方の〈ピグリム〉かは集中砲火を受け、近づきすぎれば多数の〈メリッサ〉に袋叩きにされる。どうにか一機、また一機と葬っていってもまだ何機もいた。

 小早川の〈メリッサ〉が構えている小銃も残弾が尽きた。ナイフがあるが。衰えてきた身体による操縦でそこまでできる自信はもう持ち合わせていなかった。

 万事休すかと思った。だが。

「──来たか……!!!」

 処理落ち寸前のレーダーに映った反応。それに反応する様に回りが動いていくのを認知した時に、彼はそれを察していた。




 それは小早川の最後の残弾が尽きたのと丁度同じタイミングだった。

 一機の〈メリッサ〉に搭乗する国防軍部隊員の一人が画面の端に映った何かを発見した。

 部隊に通信を入れてそれを報告する。

『何か巨大な木箱の様なものが走ってきます』

 木箱ぉ? と怪訝そうな反応がいくつか返ってくる中。その隊員もまた画面越しで見るその姿になんともいえない様子であった。

 高速で移動しながら向かってくるのは、木箱の様なものとしか形容のしようがない存在。遠目の彼らには認識できていないが、箱の下が抜けている為か車輪つきの脚らしき部位が覗いており、どちらかといえば木箱を被っている存在というのが正しかったか。

 その木箱が次の瞬間には内側から膨れ上がる様に弾け飛び、砂埃を立てながら一機の〈パメロイド〉らしき影が走りながら立ち上がった。

『あれは……木箱の中から、何かが……!!?』

 出てきたのそれは、あまりにも異形的なシルエット。

 その時、初めてレーダーの中腹辺りに友軍識別が不能な機体の反応を検知した。

『――作戦中の部隊各員に通達ッ!!! 現れました!!!』

 初めて確認したその姿であったが。報告通りだったその姿を間違えるはずがなかった。


『――夜明けの鐘リバティー・ベルですッッ!!!』


 その報告を最後にその〈メリッサ〉は機能を停止し、隊員の意識もまた本人すら気付かないうちに書き消されてしまった。



『いかにも、私は夜明けの鐘リバティー・ベル

あらゆる圧政者に対して反逆する者である』

 すれ違った〈メリッサ〉を手始めとばかりに吹き飛ばすなり、そう言い放った白い異形の機体。

『日本政府は私が極力犠牲を出さない様に行動し訴えてきたことを完全に無駄にした。そればかりか弾圧をより強め、挙げ句の果てには軍による強制排除に乗り出す始末を取った。

だが、良いだろう。私は貴様らのその意志を尊重する。故に、だ!』

 それが続けた言葉は、反逆の狼煙となる。

『此度、私は君たちを粛清する!』

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トリカゴブレイカーズ。 王叡知舞奈須 @OH-

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