死にたがり

こんな夢

こんな夢を見た。

「都内の高校に通う男子生徒(17)が商業施設の屋上から転落し、路上を歩いていた女性(19)が巻き添えになる事故がありました。男子生徒は、搬送先の病院で死亡が確認されました。女性は重傷を負い病院で治療を受けているということです。警察は現場の状況から、男子生徒がビルの屋上から自ら飛び降りたとみて捜査を続けています・・・」


「こんな悲しいことが起こってしまうんだな...」

「僕」はまだまだ肌寒い風が吹く中、山手線に乗り込んだ。スマホでこのニュースを見ながら、担当である津川先生のもとへ向かった。その先生は死にたがりだった。

「先生、ご無沙汰しています。お邪魔します。」

「ああ、入りたまえ。」

「先生、このニュース見ました?」

「ん?なんだい?高校生が飛び降りか...なんだか悲しくなるよ。最近、似たようなニュースばかり耳にする。」

「そうですよね。あっ、見てくださいよ!これ!」

「うん?これはまたひどいな。ネットが荒れてるよ...」


迷惑だ!勝手に死ねよ!殺人だ!人殺し!ふざけるな!


ネット上ではこの事故に関して罵詈雑言の嵐だった。とても高校生に向けられるような言葉ではなかった。

さらに、SNSでは男子生徒が飛び降りる瞬間の映像や、生々しい現場の写真も投稿されていた。それらの投稿に、「なんでこんな投稿するんだ!」というコメントもあった。

「あーあ、リプライでけんか始まってるし・・・まるで火に油ですよ。正直、SNSの方が現実よりもグロテスクですよね...」

「ああ。世も末だな。でも、こういう奴らは暇なんだろう。だから日々の憂さ晴らしに使ってるんだろう。」

「そうですよね...あっ、そうだ!不謹慎かもしれないですけど、この事故を小説のテーマにしてはどうです?」

「えっ?なぜだい?」

「先生、以前良いテーマが浮かばないって仰ってたじゃないですか。だったら!」

「うーん、そうか。じゃあ、そうするかな。」


数週間後、津川から編集部に電話があった。

「はい、もしもし。」

「すまん。申し訳ないが、一ヶ月くらい休みをくれないか?」

「どうしてです?何かありました?」

話によると昨日、息子は自分の部屋で睡眠薬を大量に飲んで命を絶ったという。

「そうなんですね...」

「ひとまず休ませてくれ...すまんな。」

しかし、自ら命を絶った理由は全く分からないらしい。

「ただ...いじめの可能性もある。」

「えっ?」

「いや、以前に子供がいじめを受けているという話を聞いていたんだが...何年も前の事だったからてっきり終わった事だと思っていたんだ・・・」

「そうですか...ご子息は確か、お若いんですよね?」

「ああ。まだ中学生なんだ...」

「それはお気の毒ですね...」

「では、また一カ月後にご自宅にお伺いしますね。」

「ああ。すまないね。」

電話を切ろうとすると、電話口から、集中して聞かないと分からないくらい小さな声で「はぁ...」と疲れ切った声が聞こえた。小さな声で「死にたい...」と言っているのもかすかに聞こえた。


一カ月後、津川の自宅へ着くと、なぜかポストの上に「遺作」と書かれたおびただしい数の原稿用紙が置かれていた。

ストーリーは、「最終的に、苦しい学校生活に終わりを告げるために、男子高校生がビルの屋上から飛び降りて命を絶つ」という話だった。原稿用紙の最後には、「ぼんやりとした不安を感じます。作品が完成したので、私も子供が待っているところへ向かいます。すまん。」と遺書が書かれていた。

インターホンを鳴らしても返答がない。もしかして...

「先生?いらっしゃいますか?津川せんせ...!?先生っ!先生っ!」

津川の自宅へ行くと今まさに自宅のベランダから飛び降りる津川の姿があった。

津川は風を纏いながら飛び降りた。下を見ると、路上があたり一面赤く染まっていくのが遠くから見ても分かった。

「これはまずい...助けを呼んで、早く下に行かないと...」

下へ向かおうと体を振り向こうとすると、思ったよりも体を乗り出していたらしく、ベランダから体が投げ出された。

「まずい!このままだと確実に死ぬっ...!」



はぁっ...!はぁ...!はぁ...!はぁ...!なんだか制服が汗で濡れている。地上の車のクラクションの音で起きたみたいだ。

「ああ、なんだ...夢か...。」いつの間にか寝てしまったみたいだ。横になった体を起き上がらせる。そうだ。何回か落ちようと思ったけど、怖くて一度諦めたんだ。だめだだめだ。こんな所で寝てる場合じゃない。夢でも体験したんだ。大丈夫。

「ふぅ...もう、こうするしかないんだ...」


屋上から足を離した時、気付いた。そういえば、この状況って...!

「ああ...津川の書いた話も、あのニュースも全部「僕」のことで、正夢だったんだ...」

「あのニュースは「僕」が死んだ後のことだったのか...」

後悔と恐怖を抱えながら、アスファルトへ静かに落ちて行った。

「ありがとう。さようなら。世界。」

女性とぶつかったところで意識が飛んだ。津川と同じように、路上にあるアスファルトが赤く染まっていった。

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死にたがり @yuu040905

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