第七話―魔物



 ――森の中は話の通り、人が通り抜けやすいようになっており、人為的に木や草が間引かれていた。そんな中をマコトが皆の先頭に立ち、気配を探りながら慎重に進む。森に入ってからカルトも更に真剣な様子で、コウに至っては背中が口ほどにものを伝え、怯えているは瞭然だった。


 そんな三人を見ていると、ふと武器へと視線が移る。そのことから、職業ギルドの事を思い出した。


 装備によってギルドは変わるって言ってたっけ? となると、聞いた特徴通りなら。


 弓を背負っているマコトは狩人か? 剣を片手に持ったカルトとコウもミナトと同じ戦士になるのだろう。けど――それにしては、ミナトは二人より軽装で剣も遥かに細身なのは、女の子だからなのか? なんにしても、魔物と戦えば分かるか。


 改めて見直すと、目利きを得意としたマコトを先頭にして、近接型のカルトとコウが着き、俺とカナコを挟むように、最後方のミナトになっている。これが役割による担当で、それを生かした隊列がこうなるのだろう。


 ――なるほどな。こういうことを考慮して、役職を考えると、自分にあったギルドを見つけやすそうだな。と、皆を見ながら考えに耽っていると、ふと森の雰囲気に違和感を覚えた。


 新人の狩場になっていると言っても、異物が入ったにしては虫や動物が騒ぐような様子がない、自然のまま。まるで、人が存在することが、さも当たり前のような。


 生き物自体が少ないのか……いや、パッと見てもわかるくらいに痕跡はある。だとすると、先住民でも居るのか? いや、街以外に人が住める場所はないという話だった。だとするなら……?


 得体の知れない森へと入った事を実感した途端、心がざわめきだした。それにより、恐怖心が生まれ、神経は研ぎ澄まされていく。皆が感じてる感覚をやっと実感してきているのだろう。


 何でこんなことになってるんだっけ? 記憶もなく、知らないことばかりで。これからこの森で戦う。俺は一体何をしてるんだろう。と、不安感からか、状況を受け入れたと思い込んでいた感情が、心を掻き乱す。これに囚われちゃあだめだ。俺はそれでも先に進まないと行けない。これが日常に変わるのだから、何を思った所で、俺に選択権はないんだ。胸に手を当てるっと、大きく息を吐いた。


 そんな中、俺はパーティーとは違う所から、生き物の気配を感じる。進む皆を後目に、その場で屈むと、這うような体制になり地面へと耳を当てた。


「ナギサくん?」と、俺のすぐ後ろにいたミナトが驚いたように声に出すと、それに反応した皆は足を止める。


「ん? 何してんの?」

「おい、アンタ」

「少しだけ静かに」


 俺はカルトの言葉を止めるように遮ると、耳へと神経を集中させた。すると、微かな地面の振動と、草葉を踏む足音、枝が折れる音が、複数同時に聞こえてくる。その足音は子供が歩くように軽く、自然の一部のように違和感がなかった。街にいたような人の気配からは程遠い。気配は完全に動物なのだ。


 確認が取れた俺は立ち上がり注意を促すように声にする。


「ここより左前方、十時の方角、数一〇〇先に何か居ます」

「は? そんなん全然せえへんけど? 何言ってんの?」

「……数一〇〇? おい、ミナト」と、カルトはミナトを呼びつける。その言葉にミナトは俺が指摘した方向へと向かって、歩きだすと地面を探りだした。


「……本当だ、新しい痕跡がある。それに微かにだけど何かの気配も」

「嘘やん」

「……なんにしろ、近いなら姿だけでも捉えておく」と、驚愕するマコトを無視するかのように、カルトが言葉にすると、パーティーはその方向へと向かうことになった。


 草木が生い茂った獣道へと入っていくマコト。手に持つ、短刀を使い、枝や草を切り進んでいく。誰でもわかるほどの目新しい痕跡が残っているのを見つけると「ホントや」とマコトが口にした。そこでカルトが静止すると、マコトを呼び止めた。


「とりあえず、ここからはマコト一人で調べてこい」

「え? ウチだけで行くん?」

「ここからは気づかれる訳にもいかねぇからな。気配の消し方とスニーキングについて学んでんだろ?」

「そうかもやけど、まだ皆大差ないやん。わざわざウチがいかんくても」と、渋るマコトにカルトは舌打ちをする。


「お前は何のために――」

「確かにマコトさんじゃなくても大丈夫でしょうね。ここら辺はゴブリンか新人の冒険者しかいませんし、ゴブリンなら見られなければ怖くないですから……私が行ってきますよ」と、カルトが話しをしようとした言葉にカナコが被せるように口を挟んだ。


「って、おい、待て」と、引き留めようとしたカルトの言葉を聞かずに、カナコは様子を見に行った。それに胸をなでおろしたマコト。それを知らずかコウが一言口にした。

「カナコちゃんも勝手だな」

「――コウくんに言われたこと、気にしてるのかも」と、コウの言葉に返すよう、ミナトがボソッとこぼした。


――それから、数分もしないうちにカナコが帰ってくると。


「案の定、ゴブリンでした。数は三体、群れのようですね。様子を伺った感じでは、到着した池で休息をとっていると思われます。縄張りの可能性もあり、分断する確率は低いと思われます。今すぐ移動すれば、鉢合わせをすることなく離れれると思われますが、どうしますか?」と、カナコは報告をすると、見てきたことからの予測を立てた。


「……アンタ、ナギサとか言ったっけ? 他に何か気がついたか?」

「え? そう――ですね。今のところ三体の気配以外、周囲には何も感じません」

「三体くらいなら、ステップアップするいい機会じゃん。俺らゴブリン一匹ならもう余裕って話だし、ミナトちゃんとマコちゃんに、一匹ずつ時間稼いで貰って、そのうちに俺とカルトくんでパパっと一匹づつ片付けたら行けると思うんだよね」

「それは駄目。私たち五人で一体を狩る戦闘しかしたことないのに、急に三体なんて状況が違いすぎるよ。仮に戦ったとして、いつもの三倍以上は係る時間の中で、そのいつもが通用するとは思えない。私も一人だけだと時間稼ぎが出来るとは……せめて二体から経験を積んで」

「何? ミナトは出来へんの? 足止めすればいいだけなんやったら、ウチなら多分、余裕あると思うんやけどなぁ」と、ミナトの言葉にマコトが口をはさむ。


「流石マコちゃん!!」


 俺にはハッキリとしたことはわからないが、コウとマコトはちゃんと考えて言葉にしてるのか? ミナトの言葉を聞いた限りでは、何処からその自信が出てきているのか?そんな俺の危惧を言葉にするように、ミナトが言う。


「これは遊びじゃないんだよ。万が一お考えてちゃんと話しをしよ」と、それにカルトが眉をひそめると。

「なら、尚更だろ。ゴブリン如きで、遊んでる暇なんて俺達にはねぇんだ。万が一を一々考えてたら先なんてすすめやしないだろ。この仕事で生きなきゃいけねぇんだ。それに――義勇兵はこんな甘くねぇだろ」

「それは私だって分かってるつもりだよ。それでも」

「やるぞ」と、反対するミナトの言葉を遮り、カルトは自ら意思を強行させた。


 やる気満々になり、準備を始めるカルト、マコト、コウの三人。


 そんな三人をしり目に「バカばっか」と、小さくこぼしていたミナトは、泣きそうな表情を隠すように明後日の方向を見ながら、握りこんだ拳を震わせていた。

「こうなった以上、俺もできるだけのことはしますから」と、俺は心配してくれていた気持ちを返すように、慰めるようにしてミナトの頭を撫でる。それを見ていたカナコがジトっとした目を向けてくると「ナギサさん、そういうのは私の役目なんで。あとセクハラですからね」と、俺の行為に注意を入れた。

「厳しいですね」


 こうして、三体のゴブリンと戦うことになった。


「細かく作戦を立てよう」と、先の態度と打って変わったミナトの言葉で、念入りに作戦が練られる。内容はコウの案で組まれ、マコトとミナトが二体のゴブリンを挑発をし、注意が二人に向いている内に、カルトとコウが一体づつ倒す。それを繰り返して、三体を仕留める、というのが、主な内容。


 それにミナトが考えた、襲撃方法や陣形を生かし。普段よりも前衛寄りにカナコに位置してもらい。怪我をしても、すぐに回復できるようにと、声か届きやすく全体の状況を見て勧告できるようにしたのが、今回の全案。


 そして、俺はと言えば……隠れる。となった。ミナトにはああ言った手前、情けないことこの上ないが、まぁ武器もないししかないか。そんな俺の心境を察してか、ミナトからは他の敵が来ないか索敵をお願いされた。「期待しているからね」


「よし、いくぞ」と、短いカルトの言葉に、カナコが探ってきた場所へと向かう。そして、その場を三方から囲むように別れ、右にミナト、左にマコト。正面にカルトとコウ、その後方に俺とカナコと陣形を取ると、カナコが棍で木を二回叩くと、その音とともに皆が一斉に駆け出した。


 俺も後に続いて走る。すると、すぐさま草木が開き、広い空間に出る。


 するとその視界、目前に広がる池の前に、子供のような姿に布を羽織った生き物が三体と立っているのを捉えた。それは何かを警戒するようにあたりをキョロキョロを伺っている。先の音に警戒しているのだろうか? そんな中、中の一体が俺達に気が付くと、ニタッと口角をあげると微笑み「ギャェ」と声のような物をあげた。


 森よりも深い黒ずんだような緑色の肌は老人のように皺が目立ち、赤く染まった瞳はギラギラと光って見えてた。その外見を目にした途端、鳥肌が立ち、おぞましいという言葉が頭に浮かぶ。


 すると、それはニタニタとしたまま、俺たちへと向かって走ってくる。


 人間を見ても怯みもせず、敵と判断しても、あの恍惚な表情。きっとあれには知性はなく、恐怖心もないのだろう。何も考えずに敵を殺せる。その事に嫌悪感が湧いた。


 言葉通りだな。と俺は武者震いを起こしながら「魔物」と一言呟いた。


 この時、俺は初めてゴブリンというものを認識した。

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終わりなき英雄譚―異世界の英雄 @akira_765

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