第六話―原初の森
――ミナト達が泊まっている宿舎に歩き出してから、数分が経った頃。
「あれは、もしかして」と、唐突にカナコが口にすると、正面の道から男二人、女一の三人組が歩いてきていた。
道の真ん中を堂々と歩く赤毛の男を中心に、その男の右腕へと腕を絡ませて歩く茶髪の女、その逆側を並んで歩く細身の男。
そんな三人がこちらへと視線を向けた瞬間、ハッとした顔をすると「おい、ミナト!」と声を上げ、ミナトを呼び止めていた。
――三人組でミナトの知り合い? だとすると、あれが二人が話していたメンバーか? 宿舎へと向かう道中だし、そうだろうな。と、察した俺は二人の後ろに身を隠し、紹介されるまで様子を伺うことにした。
「カルト君?と、みんなも。お揃いでどうかしたの?」と、ミナトは赤髪の男に対して返すように言葉する。それに、カルトと呼ばれた赤髪の男は、ミナトの問に答えもせず。
「お前達は靴一つ買うのにいつまで掛かってんだ?」と、攻撃的な言葉を口にしていた。すると、カナコは困った顔をすると頬に手をあてて「そうなんですよ〜、誰かさんに頼まれた物のせいで、無駄に時間が掛かってしまって」と、明らかな嫌味を言葉にする。
カナコさん、ここで反撃するんですね。と、そうそう仲の悪さが目立っていた。
「ふーん。で?」と、カルトはカナコが持つ、紙袋へと視線を送る。
「ありませんよ」
「――買ってもねぇのに言われたんじゃあな。無駄に時間使った上に、頼んだこともしてねぇんじゃあ話にもなんねぇ」
「まぁまぁ、それには訳があって。その事で皆に話があるんだけど」と、二人の間を割って入るようにしてミナトが話し出した瞬間、カルトと目が合う。すると、カルトは絡んでいた女性の腕を振りほどき、俺へと近寄ってきた。
「何こいつ、どこから連れてきたんだ?」と、興味津々と言った態度で、俺の顔を覗きながら言っていた。そんな様子のカルトとは裏腹に、振り解かれた女は、ポカンとした表情を浮かべた。そうかと思えば、とてつもなく鋭い目付きで俺を睨んでくる。
そんな二人の反応に困った俺は「えぇっと」と、口に出しながらカナコへと視線を送ると、それに応えるようにカナコが言葉にした。
「カルトさんも、マコトさんも、言っときますけど、その人は男性ですから」
それに対してマコトと呼ばれた女とカルトは同時に声を上げた。
「「はぁ!?」」
ここが使い時だよな。と、こういう時の為と言わんばかりの、胸元がピッチリとした服へと着替えていた俺は、強調するように胸板へと手を当てると言葉にした。
「えぇ、これでも男ですから」
「これで男……」と、カルトはそう呟きながら、後退していく。それに変わって入るようにして細身の男が近寄ってくると、カルト同じく顔を覗き込ようにして言葉にした。
「ひょー、この顔で男? 傑作だね」
「ふふ」と、マコトが細身の男の言葉に合わせるようにして笑っていた。
なるほどな。三人の人柄がなんとなく理解出来てきた。確かに、カナコ達とは気が合わなさそうだ。それにしても、ミナトは第三者が増えれば、何か変わるかもと言っていたが……これは難しい話だな。既に二人からは見下されている様子だし。と、思っていた矢先、カルトが口を開ける。
「で? そいつと話の関係、連れてきたってことはあるんだろ?」
「ここで話しをするの?」
「さっさとしろ、こっちは予定決めて出てきてんだ」
「じゃあ、単刀直入に。この子、ナギサくんをパーティーに入れたいんだけど」
「まぁ、察しだわ。連れてくるっつったらそういうことしかねぇもんな。で、こいつ何できんの? 役に立つならいいんだけど?」
「――いや、俺はまだギルドすら決めてなくて」と、二人の言葉を割るように口にすると、それに対応して、細身の男が声を大にして言った。
「えぇ!? 何、何? ってことは、完全な素人!? 君らは僕達にこの子の御守りまで、頼むってこと?」
「まで? それはどういうことですか? コウさんは怪我しても治療はいらないということですか?」
「そうは言っても、最近僕ら怪我なんてしてないし、後方にいる神官の君が役に立ってないのも事実だろ? それに比べて、敵の前に立って戦ってるのは僕らなんだし、何にもしてない分の謙虚さは持っておいた方がいいじゃないかな? なんなら、僕が教えてあげてもいいんだよ、その謙虚さってやつを」と、コウと呼ばれた少年がそう言うと、カナコ身体を舐めますように視線を這わせ、ニタニタとしだす。それに、カナコは眉をひそめると、ため息をつきながら言葉にした。
「不愉快、貴方が謙虚さを持ってるというのならば、ゴブリンは人を襲ったりしないでしょう」
「はぁ? それ、どういう意味?」
「まぁまぁ、コウ君も、ね」と、口論になりそうな二人をマコトが割って止めると、さり気なくコウの体へと触れる。
「それに――ウチはいいと思うよ。二人がしてくれへんお手伝いをしてくれるんならやけど」マコトはそう言うと、俺へと視線を向けながらニコッと微笑んでいた。食うような視線と、あの表情。まるで下僕ができることを喜ぶような。そんな表情に見えた。
「まぁ、マコちゃんがいうなら、僕もそれでならいいよー」と、コウはマコトの言葉に賛同する。
――なるほどな。三人は三人の立ち位置があるのか。特にマコトやコウはプライドや全能感で、二人を見下してる節が見える。そして、俺のことも立場を確認する道具のようにみえているのだろう。だとしても、これからのことを考えると『ダメですね、解散しましょう』なんて言葉を軽々しくは言るわけもなく。
今のところは話を進めるしかないか。そう決めると、俺は固唾を飲み込み「えぇ、いいですよ」と言葉にニコッと微笑み返した。そんな俺へとミナトは申し訳にそうな表情をしながら言葉にする。
「ナギサくん、ごめんね」
「……ギルドに入ってなくて、非戦闘員……丁度どいい」
「丁度いい? さっきも予定を決めるった言ってたけど、もしかして、これからどこか行くつもりなの?」
「ゴブリン狩りにいく」
「これから!? 今日は休みなんじゃあ!?」
「さっき僕らで決めたことだからねー、それに君らは付いてくるだけなんだからさ、あんまりグチグチ言わないでよね」
「カルトさん、それ本気で言ってるんですか?」
「あぁ、当たり前だ。お前らもわかってるだろ? 冒険者になったがいいが、何もかもが全然足りねぇってこと」と、先を見据えたようなカルトの言葉に、二人は言葉を飲む。カルトのその態度から、何を言っても聞かないと踏んだのだろう。ミナトが折れたように言葉にする。
「……わかった。装備、取ってくる」
考え方はどうにしろ、言い方ってものがあるだろう。指揮を執るなら尚更。と思った矢先。
「さっさと行ってこい」とカルトは二人を急かした。――言葉で変わるろうな人間性なのかは微妙だな。
「ナギサ君には色々と説明するね!」と、ミナトは皆に聞こえるように大きく言葉にすると、俺の腕を掴み、向かっていた宿舎の方向へと歩き出した。
それからすぐにミナトは口を開ける。
「ごめん。話していた内容でわかっただろうけど、あれが私達のパーティーなの。……まさか、いきなりこんな状況になるとは」
「……このまま、合流しないって選択がありますが――どうします?」
カナコさん、早速の本音ですね。
すると、それにミナトも頷き「うん、私もありだと思う。もしかしたら、考え直してくれるかもしれないし」と、カナコの言葉に賛同していた。
「――そう、ですね。仮定としてはありだと思いますが、それだと何も解決しない気もします。関係をどうこうするのは俺には無理そうですが、なんとなくパーティーの状況も理解出来ましたし、ゴブリン? って魔物ですよね? さっそく経験が積めるなら、願ってもない状況といえます」と、思っていたことを口にした。
カナコには悪いがいずれにしても、これから先、魔物との命のやり取りを行うのだ。経験が積めるなら、積める時に積んでおきたい。それに、正直もう少しだけ皆の人となりを知っておきたい。先の話の中、カルトだけは、他の二人と違って見下したような発言はなかった。言葉使いや、人の扱い方が悪いにしても、カルトは彼なりに責任を背負っているようにも感じた。もしかすると、あんな態度なのも、ミナトやカナコに何か思うところがあるのかもしれない。そうだとすると、俺も知っておく必要があることだ。
「男の子だね。わかった。じゃあ、宿舎に向かうね」
「はぁ~、ナギサさんは強い方なんですね」
「誉め言葉として、受け取っておきますね」
なんて話をしながら、進んでいた道なり、その更に先へと進んでいくと、縦に長い建物が並んだ場所につく。ニーナからもらった地図からすると、ここが宿場になるみたいだな。
二人はそこを通り過ぎるように歩き、宿場の最奥にあった階段を上っていく。一〇〇にも到達程の長い段を上りきると、崖に掛かった石橋と、その奥にあった大きな洋館が見える。
「私達の宿舎はあれね」とミナトが洋館を指すと、軽い足取りで石橋を渡っていく。一〇尺ほどの幅があるとはいえ、石橋の造形も古く、蔦や蔓が覆うほどには経年していると見える。
慣れればどうってことはないのだろうか? なれる気かしないが。何とか顔に出さずに渡りきると、二人は洋館の前で立ち止まり「ここでまってて」と言葉に、中へと入っていった。
……。
きっと外装を気にしちゃあ駄目なんだろうな。と、経年劣化により、ボロボロの洋館を見ながら俺は口を噤だ。
それから数分がたった後。ミナト達が宿舎から出てくると、動きやすさを考慮されてか、かなりの軽装になっていた。その姿は街を闊歩していた兵士のようにだった。
腕や、腰周りの鎧だけでも随分と印象が変わるな。なんて思っていると、ミナトが声を出し「それじゃあ、戻ろうか」とカルト達がいた場所へと引き返し、三人と合流を果す。
「遅ぇ。とりあえず、いつも通り南門を抜けた原初の森へと向かう。アンタは今から荷物係な」と一言多いながらも指揮を執るカルト。俺を一瞥すると、その手から二人分のバックパックを渡された。
装着してないのはマコトとコウか。それにしても、軽いな。中身はほとんど入れてないのか? それに腕を通していると、ミナトと目が合い、心配そうにしていた。それに応えるように頷き『大丈夫』と合図を送ると、カルトは地図を広げ戦略について話をする。
狩場、ルート、隊列、陣形。などの話が聞こえてくる。とりあえず、聞いた内容は頭に叩き込むと、カルトは俺に向けて言葉にした。
「とりあえず、道中、アンタは俺らの間に入って着いてくるだけに専念しろ。戦闘時は適当に隠れて、俺達の視野が狭いと感じた時だけ、辺りの警戒と気づいたことに対して勧告しろ」
「俺の言葉でも大丈夫なんですか?」
「従わないにしろ。戦闘時は周りが見えなくなるからな、言葉を聴くだけでも視野角は変わる。まぁ、主にカナコがやるから期待はしないが、念には念を入れておく」
やはりカルトは頭が回らないわけでも、立場を気にしている様子でもないみたいだ。使えるものを使うだけなのだろう。
そんな中、ミナトは手招きで俺を呼ぶと「ナギサくんには細かく話すね。これから向かうのは原初の森と言われている場所で、新人冒険者の狩場になっていることもあって比較的に危険性は低い場所なの。でも、魔物の住処だから、森の中に入ったら常に気を引き締めて、辺りの警戒は怠らないで」
「わかりました」
「向かう際は、最後方に私が着いて、その前にカナコが着くから、私達の間に入るといいよ。魔物が現れたら、カルト君か私が勧告するから、皆が動くと一緒に隠れてね」と言い終えると、パーティーは進み出した。
少し先にあった検問所を通ると、その際、憲兵に手の甲を見せるように利き手を上げていく。俺は見様見真似で憲兵の横を通り過ぎた。
手の甲を見せるように歩くだけでいいのか。
検問所を抜けると、外へと繋ぐ橋が伸びており、その先には人の手が加えられた街道がある。どうやら目的地はその奥にある森で、パーティーはその森へと一直線に進んでいた。
そして、森に入る直前。
「ここから声はできるだけ出さないでね」と、ミナトが俺へと忠告すると、皆は傍らに携えていた武器を手に取る。先頭に着いたマコトが短刀を握り込むと、森の中へと入っていった。
――。
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