第五話―集団

 


 ニーナから必要な事を聞き終えた俺は、ニーナの部屋から、さっきの大広間へと出ていた。


 ――思っていたより短かったな。それにしても、これがここの滞在証か。右手の甲を眺める。顔には出さなかったが、この文字が浮かび上がった時、かなり驚いていた。


 とてつもない熱を感じたけど、本当に焼けた訳じゃなそうだし。

 何がタネになっていたのやら――きっと今後わかることなのだろうけど……色々と知らないといけないことばかりだな。ニーナが言っていたように、あの二人に聞ければ早い話なんだけど……


 とりあえず、ニーナから聞いた宿場にでも向かって下宿先でも探しに行くとするか。

 

――ギルドから外へと出た途端。


「意外と早かったね」

「お疲れ様です」と、声が聞こえてくる。その方向へと目を向けると、そこにはミナトとカナコが立っていた。


「待っててくださってたんですか?」

「まぁね」


 別れ際、歯切れの悪い言葉を聞いた時から何となく予想はついていたけど、まさか本当に待ってくれているとはな。


「ところで、ナギサさんは義勇兵と冒険者、どちらにもなられたのですよね?」

「え? あぁ、はい。お陰様で、今後のことはなんとかなりそうです」

「その事で、ニーナさんのお話だけでは不十分かと思いまして、実談を交えてご説明しようかと思ったんですが」と、そう言ったカナコ。同じ状況だったから察してくれているのだろう。


「本当ですか!? それは助かります」

「いえいえ、私達からもお話がありますから。ナギサさんが私達に尋ねたい事は、もののついでにお答えさせて頂くと思って頂いて大丈夫ですので」


 まぁ、目的がないと流石に待ってたりしないか。


「わかりました。じゃあ、どうしましょう」

「そうだねー、とりあえず、ナギサ君が必要になる物を買いに行こうか、まずはその服と、防具だね。その道中で色々と教えてあげるから安心して。私達の話しはその後で」と、ミナトがそう言うと近くにある武具屋へと向かった。


 ――道中、二人の言葉に甘え。ニーナから聞いた話の中で、あまりにも曖昧になっていた冒険者の話を照らし合わせるようにして聞く。


 すると、どうやら、さっきのギルドの他に職業ギルドというのが存在するらしく、戦士、狩人、盗賊と言った、多種多様の役職に合わせた名前で経営しているらしい。


 そこでは、役職に因んだ、魔物との戦闘の指南を受けることができるのだとか。

 その為、新人冒険者はそのギルドへと加入する事が必須になるらしい。

 何せ、冒険者のクエストと呼ぼれる仕事は、ほとんどが魔物退治ばかりで、義勇兵の任務に至っては、そのクエストで発注される魔物よりも遥かに強いのだと。


 どちらにしても、俺達みたいな素人が生き残るのは難しく、最低限の力をつける必要があるからと、国から考案され設立されたものらしい。国からということもあり、職業ギルドには入団契約をして名簿に在籍する形になるのだとか……これについては、冒険者や義勇兵の名簿確認をスムーズに行うためでもあり、それによって一度に複数のギルドへと在籍する事はできず、自分に合わせた戦闘スタイルによって所属する場所を選ぶ必要がある。と言う話だった。


「ちなみにお二人は?」

「私は戦士で、カナコが神官」

「戦士は何となくわかるんですが、神官?それってどんな役職なんですか?」

「そうですね。詳しくいうと、徒手格闘を基本とした棍を用意た棒術に、魔法は白や緑系統の回復魔法を学べるギルドですね」と、そう淡々と話すカナコの言葉に「魔法――ですか?」と聞き覚えのない単語に首を傾げながら口にした。


「ナギサくんも魔法を忘れちゃった派?」

「――魔法って言うのはですね。体内や大気中にある魔素と呼ばれるエネルギーを操作し、魔素同士を干渉させて、魔法という形として事象に起こす、第六感の力らしいです。私はその魔法というものを学び、大気中の魔素から光源を作ったり、体内の魔素を変換し大気中の魔素に干渉させて、風や植物を操作する魔法が使えるようになりました」


 ――!?それが本当となると超常的な力じゃないのか? おそらくニーナが、身分証を発行する時に使っていた力も魔法と呼ばれるものなのだろう。


 だとすると、ミナトの口ぶりや、それほどの力なのにも関わらずニーナが説明を省いたことからすると、当たり前の力で、知らない方がおかしいほどなのかもしれない。なんにしても、カナコは職業ギルドで学んでると言っていた。だとすると、俺もそこで習うことになるのだろう。だとして、在籍できるのは一箇所だけか。なら、しっかりと考えた方がいいだろうな。


 ――そんなこんなで、専門店街通り、ギルドから少し離れた場所にあったゴミ貯め場みたいな防具店に着いた。それを見た俺はなんとも言えない表情をしていなのだろう。ミナトは俺の様子を伺うと、困った顔をしつつ「良い金物はお金が掛かるからね、私達みたい一介の冒険者はこういう所で買うしかないから……それでも、高いんだけどね」と言いながら、中へと入っていった。


 そこで俺の体に合った服と、小手や脛当、肩で支えて腰に巻くタイプのバックパック選ぶと、購入する為に黒袋に入っていた硬貨を取り出した。すると、カナコはこの国の硬貨価値と物価について話してくれた。


 この国の硬貨は四種類に別れており、鉄、銅、銀、金の順で価値が上がる。鉄から銅は十倍、銅から銀は百倍、銀から金は十倍の価値になるらしい。


 今回ギルドから至急された硬貨は銀貨八枚。


 日常品や、食料品は、鉄や銅貨で買えるものばかりで、市場の多くは銀貨や金貨では扱ってくれないらしい。その為、冒険者としても今後必要になる物価の高い金物でで細かくしに来たんだとか。


 ――支払いを終えると、さっそく身体へと装着させる。


「ん?ここで着るの?」

「体を鎧に馴染ませないと、痛みでいざって時に動けなくなっちゃうので」

「へぇ、そうなんだ。ん?私達が先輩だよね?」なんてミナトの言葉で笑い話しになると、俺は買った服へと着替える為に、部屋の隅の方にあったブースへと入り支度を始めた。


「体に馴染ませる。か……」ミナトに言ったその言葉を、改めて確かめるように口にした。


 先の感覚を思い出す。すると、唐突な恐怖感が押し寄せてきた。残る感覚によって、慣れたような思考や身体の動きとは違い、今を考えてしまう頭は、時より自分ですら理解できないように感じる。


 ニーナとの話の時もそうだが、戦争中だと聞き、今を変えるには命を掛けるしか方法がないと知った。のにも関わらず、冷静に聞き分け、この結果に至った。ミナト達の話からすると、漂流者は皆、似た感覚があるようで、記憶を失う前の自分に関するもの、だという推測をしているらしいけど、もしそうなら記憶を失う前の俺だと言うことになる。


 ……俺の価値基準は命の事でさえ平気で決められる人間なのだろうか? どんな人間性であったにしろ記憶のあった俺は、今の俺からすると過去ですらない別人のように感じている。だが、それでも"この経過する時間の中にいた俺"だとするなら、他人からするとそれは俺で、その過去の時間の中でなにかしていたら、それは俺がやったことなのだ。あまり考えなくない話しだが――今は成り行きに任せるしかないけど、その過去を思い出さないと先を考えられないのも現実。


 ――記憶が無いもどかしい気持ちを持ちつつも、新しい服に着替え支度を終える。


こんなものなのか?


布生地のバックパックや服。この二つは問題ないが、金物はあまり良くはない。重く、厚みがバラバラで、箇所によっては擦れるだけで痛む。


まぁ、良質を求められるような環境じゃないのだけど……そう思いながらも、二人の元へと戻ると、俺を見た二人は驚いたように声にした。


「顔に似合わず筋肉すご、でも似合ってる。カッコイイよ」

「ホントだ……着痩せしていたのですね」


体のラインが出る服だったこともあり、顔からとったイメージと、体つきのギャップからか驚きを隠せない様子だった。そんな中、カナコがまじまじと見つめてくると「うぅ」と固く握り拳を作りながら声を漏らす。


何かの衝動を抑えているようだったが、あんま気にしないでおくか。


 まぁ、この格好も女の子に見間違えられるくらいなのだから、丁度いいと言えばいいのだろうけど……


「武器はもちろん、胴の有無は、入るギルドによって変わるから、どこに入るか決めてからだね……後の物は適当に歩きながら、見て買おっか」と、その場から離れると、商店街から噴水の広場まで足を伸ばし、必要なものを買い揃えた。


「これくらいなら、後は下宿先を見つける事ですかね?」


「そうだね、まぁ、そこも心当たりあるんだけど――その前に私達の話聞いてもらってもいい?」


 ギルドの前で彼女達が言った本題の話しか。


「えぇ、そのつもりでいますから大丈夫ですよ」

「うん、ありがとう、とりあえず、その心当たりの所に向かいながら話すね」と、ミナトが言葉にすると、昼食兼足休めに入っていた噴水広場の店から、宿場へと向かって移動すると、歩きながら話を始めた。


「実はね、私達、一緒に戦ってくれる冒険者のメンバーを探しているの」 と、唐突に切り出された内容、それは俺の意表を突いたものだった。


これを俺にするってことは、勧誘――なのだろうけど……


「メンバーですか?……それを俺にって言うことですよね?」


「うん。その通りなんだけど」


「俺なんかでいいんですか?冒険者のことも今知ったばかりですよ?」


「そこは大丈夫。偉そうに話してたけど、実の所、私達も数日前になったばかりだから……だからこそっ、ところもあるんだよ。それとこの話は、ナギサ君の為じゃなくて、私達のお願いなの」と、ミナトはあくまでも自分達のお願いだと言い、話を続ける。


「今ね。私達の他に、男性二人と女性一人のメンバー、計五人組のパーティーを組んでるんだけど。それがあんまりいい状況じゃなくて……」


 その話に少し思い当たる節がある。


 数日前に冒険者になったばかりの女の子二人。ここに来たばかりの俺でも強引なナンパ似合うくらいの治安だ。男の仲間がいるなら女の子二人だけに買い物をさせるのはどうかと思う。ましてや、カナコは頼まれたと言っていた。漂流者で数日中で気づいた関係性と考えたら、仲間からしか思い浮かばない。なりより男物の靴だ。


「パーティのメンバーと何かあるんですね?」と、俺のその言葉に、カナコは前のめりになって返答する。


「えぇ、そうなんです。もう一人の女性と男性二人は上手くやってるみたいなんですけど。私達二人は他の三人と上手くいってなくて、今ではその三人から厄介視され、雑用みたい事までさせられてまして。その事で色々とお話をしたんですが」


「あまり進呈していないと」


「そういうことですね。皆、同時期に漂流者として流れ着き、生きる為にはパーティを組むしかありませんでした。武器を握ることすら知らなかった素人が、同じ状況の他人と息を合わせてなんて、ストレスを溜めてしまうのも必然だったのだと思います。ましてや、命を預け合いながらの死闘ですからね。――お互いに感じる不満をぶつけ合っているのが現状で。今は共に必要としているから、解散していませんが、何かのきっかけで解散でもしたら、私達も二人だけではやっていけないですから」


「だから、俺なんですね」


 その言葉にミナトは頷き。


「私は、新しい人が来てくれれば、もしかしたら変わるかもしれないともおもってるんだけど」とそう言ったミナトの言葉に「私個人の意見では解散するのがいいと思ってます。あの人達とは人間性が合いません。でも、それには新しく組んでくれる人を見つけないといけません。だから、お互い譲り会える関係の、ついでに言えば男性の手があれば二人よりはいいと思ったのです」と自分の意思としてカナコが言葉を添えた。


「それに俺が当てハマった。ということですね」


「はい。その境遇を利用して漬け込んでいる事には謝ります。でも、これはナギサさんにもいい話だと思いますから」


 ――なるほどね。二人の考えている事は理解出来た。


 確かに、ニーナから聞いていた話では冒険者は五人から六人のパーティーを作ることが基本だと言っていた。だとすると、俺がこの話を断れば、新人の男一人を拾ってくれるパーティーを探さないといけない。


 俺が言えた義理ではないが、命が掛かる場所に御守りをしないと行けない人が居るのはゴメンだと思う。だとすると、新人と組んでくれる人を探すのは、骨が折れそうなのは確かだ。


 だが、独り身の男の場合、どうにでもできる話だったりもする。まぁ"性格上どうにでもできる" と言う話なんだが――そこに二人が気がついてるかは、さておいて。


 そんな俺とは違い、二人の場合は女の子だ。パーティを見つけれたとしても、タチの悪い冒険者に引っかかれば、今よりも悪い環境になる可能性がある。


 それを危惧しているからこそ、ここで仲間に出来そうだった俺を誘うことで、複数パーティと混合したとしても、少数になることはないから立場を守れる上に、悪い男からの護衛役としても扱える。と、そういうことなのだろう。


 けれど、カナコは諸々を含めて利用すると"わざわざ"俺へと告げ、その上で、謝罪も入れた。


俺が利用されていることに、気づく、気づかないにしても、カナコの方から、はっきりと言ってしまえば悪評として捉えられる可能性があるのは確かだ。


誠実さからの発言か、誠実さを利用した腹黒からの発言か。


 だが、それとは関係なく。俺は二人から教わったことから、これからどうしていくかの算段がついていた。それは、二人からパーティに誘われていなかったとしても、どうにでも出来るくらいに、だ。


そう、これは二人から貰ったもので選べるようになったこと。けれど、それに二人は気がついてない。だから勧誘なのだろうし……例え気がついていたとしても、断られるという可能性はある話なのだ。


なのに、わざわざ、ナンパから助け、ギルドまで連れていき、冒険者の話や硬貨、魔法の事まで教えくれた。少なからず、今日一日の時間を俺の為に浪費したと言える。だけど、二人は浪費だなんて思っていなくて、それどころか、俺を按じ"私達からのお願い"と、自分の立場を卑下しないくてもいいようにと、言葉を繕ってパーティにまで誘ってくれた。二人の心からの配慮。


だったら、俺がそう思った、この気持ちの分だけでも、倹約に変えてあげればいいだけの話……だよな。


「わかりました。俺なんかでよければ」

「ホント!あぁ、よかったー」

「でも、こう言った話ってお二人で決めていいんですか?」

「他の三人のことなら大丈夫ですよ。あの方々は楽をすることに目がないので――人が増えることに対しては喜ぶだけでしょうし。まぁ、何かしら言ってくるでしょうけど……なにより、何かあれば、三人で活動すればいいですから」


 カナコさん、表情から本音がただ漏れてますよ。


「だったら、さっき言った心当たりの宿舎の話なんだけど、私達が借りてるところで大丈夫かな? 多分、そのまま、そこを拠点にしてもらうことになると思うけど」

「はい、大丈夫ですよ」

「なら、決まりだね。今なら他の皆もそこに居ると思うから」と、その言葉から俺達は歩くことに専念した。


 ……。…………。

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