第138話 子どら

「どうぞ、これは、弥生プロデュースの子どら3種でございます。一つは、十勝産の小豆と純粋白ザラメで作られた王道の子どら。もう一つは、抹茶クリームに小さな餅を幾つか入れた子どら。そしてもう一つは、チーズケーキを真ん中に、その上下を

 100%北海道産生乳で作った生クリームを乗せた子どらの皮で挟んだ子どら。どうですか、お味は?」


「美味しいです、どれも」(紫苑)

「ありがとうございます!」(弥生)

「これ、普通のサイズでもイケちゃうよ!」(早乙女)

「ありがとうございます!」

「弥生、美味しいけど、みんな知ってるヤツなんだよね」(ユミ)

「ありがとうご、えっ、今お嬢様、なんと?」


「だから、美味しいって」


「いや、その後の言葉は?」


「みんな、知ってるヤツ?」


「なぜ、わたくしが考えたモノをみんなが知ってるんですか!」

「いや、弥生、これは製品化されてるから。まあ、でも、食材とかは違うだろうし、別に特許を取ってる訳じゃないだろうし、お店に出しても問題は無いでしょうけど」


「そ、そんなことが起こるのですね!わたくしの考えを盗むなんて、異能力の持ち主が複数ブツブツ・・・・」


 弥生さんが狼狽えてる横で、ユミは言葉を続けた。


「藤堂の事だけど、彼はあなた達がホテルで食事をし、更に部屋へ行ったのを何らかの方法で知った。そして、その部屋を特定できた。これらはどういう訳なのか、そこは不明なんだけど、まあ考えようによっては説明がつくわね。そうよね、弥生?」


「は、はい、お嬢様。やはり異能力でしょうか?」


「うん?まあ、その選択肢もあるっちゃあるのだけど?弥生?」


「は、はい、お嬢様。異能力、それは勇者の組織に伝えられている、古来からの技術らしいのですが、秘中の秘とされていて、フジグループの情報網でもよくわかっておりません」


「・・それ、言っちゃう?」(ユミ)

「はい、お嬢様。子どらの件で、わたくし、閃いたことがあるのです。カズきゅんは、いつも勇者だと主張してましたし、MP勇者候補として育てられて来た経緯があります。もちろん、特殊な修行が為されているでしょうし、多少のテレパシー的な事が出来ても、わたくしは驚きません。それに、お嬢様のお部屋に突然お邪魔された事がありましたが、最初はわたくし、お嬢様がお部屋に連れて来られたのと勘違いをしておりました。後ほど、お嬢様からのお話で、何らかの異能力か、何かの技を使えるのではないかと推測したのです。そして、今、それは何らかの繋がりが出来た時に発現できるのではないかと推測申し上げます。いえ、これはわたくしの推測の域を出ないのですが、つまりは、カズきゅんがお二人の行動を感知できましたのは、カズきゅんとお二人との繋がりがあったから出来たことの様な気が致します。それに、紫苑さんはカズきゅんが来るのを知ってらしたと伺いましたが?」


「シノンはそうだったみたいです。やっと来てくれたって感じだったし」(紫苑)


「つまりはテレパス的な事がお互いに働いていたと?シノンとなった紫苑には、何かの繊細な感覚が発揮できるとか?なるほどね、興味深いわね。まあ、ともかく、それだと、勇者組織MPの訓練の賜物ってことなのかな?それに、護道や会長を簡単に倒しちゃったのもね」(ユミ)


「MPって?」(早乙女)


「そう、そういう組織があるのよ、この日本には。でもね、私が言いたいのは、そんな事じゃないの。最も重要な事は藤堂は勇者じゃないってことがハッキリしたって事なの。弥生の発言ではっきりわかったわ。いい?先ずは、フジグループの情報では、勇者組織MPに勇者が誕生したってわかったのね、それは藤堂ではない人よ」(ユミ)


「えっと、じゃあ、その組織にはそれまで勇者が居なかったの?」(紫苑)

「そうよ、勇者はいつもいる訳じゃないみたい。そして、勇者は組織が育てて作るみたい。MPが藤堂以外の勇者を誕生させたんだから、もう藤堂は勇者じゃないのよ。それに、次の根拠として、あなたであるシノンが勇者じゃないって、なぜか言ってたんでしょ。それは、あなたが藤堂と決別するって意識が働いたのかなって私は思ったわけよ。でもね、もしテレパシー的なモノが働いていたのなら、藤堂自身がもう勇者じゃない事を心の奥ではわかってたのかも。つまり、テレパシーみたいな心の繋がりが紫苑と藤堂に出来て、彼の心の深層に紫苑が触れて、それで勇者じゃないってわかったって思うわけ。弥生の考えた通り、藤堂があなた達の居場所がわかるっていうのは、あなた達の心の中を捉えているっていうか、あなた達の感じてることがわかるから、そこから情報を得たってことでしょうからね。まあ、そういう繋がり、絆が出来てるのよ、私達と藤堂には」(ユミ)


「そうなのかな・・(小声)」(紫苑)

「たしかに、それだと説明がつくわね」(早乙女)


「でしょ、だとしたら、今後の藤堂の勇者発言や聖女発言は、まあ、紫苑が言ってたごっこの延長的な感じってことで、ね!」(ユミ)

「そうね、うふふふふ、温かい目で見ましょうって事で、ね!」(早乙女)


「勇者じゃなくても、藤堂は藤堂よ。勇者とかの肩書なんて関係ないわ。おじい様に、素の藤堂を認めてもらうから!」(ユミ)

「そうね、カズトはカズト。イケメンで賢くて、ちょっとミステリアスで・・」(早乙女)

「わたし、藤堂くんは、むっちゃんは、勇者で良いよ!」(紫苑)

「「えっ?紫苑?」」


「わたし、むっちゃんの聖女で良いから!」(紫苑)


「いや、私もカズトの聖女で良いよ!」(早乙女)

「はい?わたしも藤堂の聖女だから!」(ユミ)


「えっ、わたくしも聖女に混ぜてもらっても?おほほほほ!」(弥生)


 弥生さんがそんな事を言ったので、みんな、顔を見合わせて笑ったのだった。


 その時、ドアがバンと開いて、彼が入って来た。


「「「えっ??」」」


「あれ??部屋、間違えた?」


 藤堂だった。

 弥生さんは、ニヤリと笑った。


 そうなのです、彼女達が居た部屋は、カズトの部屋だったのだ。




 弥生さんのサプライズに、3人の聖女達は顔を赤らめて、居住まいを正した。


「オレ、コーヒーは結構だから、お茶で良いよ」


 お茶を入れるのは、紫苑だった。

 カズトは、弥生さんから席を譲られ、弥生さんは仕事があるからと出て行った。

 カズトの前には、子どら3種が置いてある。


「ありがとう、紫苑。それと、護道の件、大丈夫なのか、いろいろと?」

 紫苑をはじめ、みんなが事の経緯を説明する。

 ただ、カズトが勇者でないとかの話や紫苑がカズトを好きとかの話は無しで。

 そして、紫苑は自分の言動を謝った。

 しかし、そこは、ユミが紫苑は精神が少し病んでいたからだと言ってフォローした。


「良かったな、紫苑。妹ちゃんはもう大丈夫だろう。しかし、弥生さんには参ったなー!オレの了解も無しに、君等を部屋に入れてるんだから」

 カズトは紫苑自身の事については、追及しなかった。


「ちょっと疑問なんだけど、カズト?」

「なんだよ、早乙女?」

「弥生さんとはどういう関係なの?」

「まあ、弥生さんは大家さん的な関係だから、勝手にオレの部屋に来たりするんだよな。まあ、ここを手配してもらったフジグループには感謝してるんだけどね」


 そう言って、カズトはフジグループとの関係を話す。

 ユミと恋人同士になるかどうかとかの話は端折っている。


「ところでさあ、中間(テスト)、みんな頑張ってヤッテル?」

「それは、まあ、少しは?」(早乙女)

「わたし、まだまだ出来てないよ~」(紫苑)

「私は余裕なんだけど」(ユミ)


「じゃあ、ユミ以外は勉強を教えてやっても良いぞ!」

「えっ!助かる~」(早乙女)

「わたし、やっぱり高校生になるとちょっと大変な感じで、が教えてくれるなら頑張れそう!」(紫苑)

「わたしも、やっぱり高校では中学みたいじゃないから、実はちょっと大変だったんだ。藤堂なら上手に教えてくれそうね」(ユミ)


「さっきと違う事言ってるし~」(早乙女)

「あら、聞き間違いよ!」(ユミ)

「うふふふ、じゃあ、みんなでむっちゃんに教えてもらおうよ!」(紫苑)


 こうして、カズトの部屋でテスト勉強をするようになって、みんなはテストを無事に終了したのだった。


 そして、テスト明けの日の朝のホームルーム。


「みんな、こんな時に珍しいのだが、編入生を紹介する。入って来なさい!」


 そう言われて、教室に入って来たのは、とてもとても美人の女子と、とてもとてもイケメンな男子だった。


 みんなが興味津々の顔をしている中、カズトの顔が驚愕の顔に変わった。


 ――――まさか、彼等がこのクラスに来るなんて!



 第一部 了



 ※作者の独り言

 まったくもって、遅れに遅れましたが、ここに一部が終了しました。

 次の第2部は、他の連載を終わらせてからになりますので、それまでご辛抱の程を。

 ここまで、お読みくださった読者の皆様、ありがとうございました!

 何かとマイペースの更新の為、他の企画で書けなかったり、体調とか、モチベーションとかの関係でも途切れ途切れの更新で申し訳なかったと思います。

 次は第二部ですが、相変わらず、詳細とか筋立てすら決めておりません。

 ただ、なんとなく、こんなのを書けたら良いなくらいな感じでは考えています。

 それでは、第2部が始まった時には、またのお越しをお待ち申し上げております。

 出来ましたら、お読みいただいた方、お星様をプチッと頂けましたら嬉しく存じますw

 感謝!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

片想いから始まるファンタジーがあってもいいじゃないか!~~幼馴染をはじめ、誰からも拒絶され病んだオレが勇者となり、苦難を乗り越え世界を守って、マジメに真摯に勇者ハーレムへ突き進む物語 風鈴 @taru_n

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ