第137話 コーヒーはブラックで
それほど大きくないダイニングテーブルの左右に二脚ずつ椅子があり、早乙女と紫苑、ユミと弥生さんが向かい合わせで座っている。
弥生さんがみんなのマグカップにコーヒーサーバーのコーヒーを注ぐ。コーヒーの良い香りが部屋に漂った。
テーブルの中央にはチョコ菓子のポッキーンが大きめのワイングラスに入れて置かれており、早速、早乙女がそれを頬張っている。
また、そのワイングラスの横には、赤とピンクと白の小さな花をつけたミニカーネーションの小枝がアンティークなウランガラス(薄い緑色、ブラックライトで蛍光発色する)の小瓶に活けられていた。
そして、その小瓶の横には、白い箱が置かれている。
コーヒーを入れ終えた弥生さんは、笑顔で、その箱からイチゴのショートケーキを取り出し、各自の前に置いた。
「何もございませんが、先ずは、おコーヒーとおケーキをお召し上がりください」
「はい、その前に、紫苑が晴れて婚約破棄出来た事を祝して、カンパーイ!」
「「「カンパーイ!!」」」
それぞれ、自分のマグカップを紫苑のマグに合わせる。
「ありがとう、これもみんなのお陰よ!」
「うふふふ、良かったね!」(早乙女)
「護道、みんなの前だから情けない姿を見せないようにと、潔い感じを出してたけどね、ふふふふ」(ユミ)
「なんか、可哀想だったかな?」(紫苑)
「ダメダメダメ!あんなのに同情してはダメ!」(ユミ)
護道については厳しいユミだった。
「苦い!けど、まあ、美味しいですわね、このコーヒー」(弥生)
「弥生さん、お砂糖ありますよ」(紫苑)
「良いのです、大人ですから、わたくし」(弥生)
弥生さんだけ、大人なのでと、ブラックだった。
みんなそれぞれ、ケーキをパクつく。
それぞれが美味しいねとかの感想を呟いた後、ユミが
「弥生、このケーキ、例のお店?」
「はい、流石です、お嬢様、その通りです!」
「そう、でも、ちょっとこれは改善の余地がありそうね」
「えっ?美味しいんだけど?」(早乙女)
「香織、まだまだね、あなたは・・フッ」(ユミ)
ちょっと頬を膨らます早乙女。
「この系統のケーキのキモは、生クリーム。まあ、これは生クリームは良いのよ。そこは合格点。でもね、生クリームが良い店ならこの程度は当然だし、そこまで差がつかないのよ。それに素人には生クリームのホントの良い味なんてわかんないし。でね、こういうケーキのホントのキモは、イチゴなのよね。イチゴをそのまま出すのか、何かコーティングするのか、漬け込むのか、酸っぱい系か、甘い系かとか、いろいろあるわけで、イチゴの味わいが
ユミの解説を遮るように紫苑が弥生さんに質問する。
「このケーキのお店って、どこなんですか、弥生さん?」(紫苑)
「それは・・」
「紫苑、このケーキは売り物じゃないのよ」(ユミ)
「えっ?でも、さっき、お店って」
「お店なんだけど、そのお店はステーキ屋さんなの」
「えっと、サイドメニューの開発中か、オマケ的な何か?」(紫苑)
「そこ、私がアドバイザー契約をしてるお店なのよ」
「えっ?ユミって、高校生でしょ?」
「紫苑、ユミはお嬢様中のお嬢様だからね、私達庶民には分かんない事を昔からしてるのよ」(早乙女)
「そうなんだ。フジグループって、スゴイのね」
「スゴイかどうかは、これからの話を聞いてから思ったら良いわ、紫苑。でもね、フジグループの創業者一族には、あなた達の知らない苦労があるのよ。とくに、次の世代を担う私なんかはね・・」(ユミ)
ユミの顔が一瞬曇った。
「お嬢様!ぐすん!」
弥生がハンカチを取り出して、目にそれを当てながら話し出す。
「お嬢様は幼少の頃から、一族の期待を一身に背負う運命になってしまったんです。幼い時にご両親を亡くされ、頼れる身内は、おじい様だけ。それだけに、お嬢様は幼い頃から英才教育を受けて来られました。ただ、ご両親の愛情を知らずにお育ちになられたこと、この弥生の愛情だけでは亡きご両親には敵いませんので、時々お見せになる寂しいお顔が心配でなりませんでした」
弥生さんは、そう言うと、ハンカチをしまい、カップを鼻の所に近づけて少し回しながらコーヒーの香りを楽しんだ後、少し口に含んだ。
「苦い!」
弥生さんだけ、大人なのでと、ブラックだった。
再び、弥生さんはハンカチを目元へやる。
「そう、苦い想い出もありました。授業参観や運動会、親子教室など、いつもわたくしが参加させて頂きました!」
弥生さん、貴女はいったい、何歳なのってツッコミは、誰もしなかった。
「弥生、大丈夫だから」
「お嬢様、お嬢様はいつもそう言って私を慰めて下さる。わたくしが御慰めしなければならないのに!わたくしはお二人に感謝いたしております。お嬢様と高校で仲良くして頂いて。もちろん、カズきゅんもですが。最近はお嬢様が寂しいお顔をされることが少なくなりましたのは、ひとえに、あなた方のお陰であると、おじい様の
「いえいえ、こちらこそ、親しくして貰って嬉しいです」(紫苑)
「そうですよ、なんか改まっちゃって、弥生さんらしくない」(早乙女)
「弥生、私から話すわ。先ずは、紫苑の妹ちゃん、弥生がおじい様から面倒を見るって了承を貰ってきたわ」
「ありがとう、弥生さん、ユミ!わたし、なんてお礼を言ったら良いのか」(紫苑)
「だから、お礼なんて、もう貰ってるって事を弥生はさっき、言ってたでしょ」
「あっ、でも、そんなこと。弥生さん、ありがとうございます」
「いえいえ、わたくし弥生、お嬢様の秘書兼母親ですので」
「はい、次ね。次は、紫苑、あなた、ちょっと精密検査を受けてもらうから、また入院ね」
「えっ?もうどこも悪くないわよ」
「大丈夫だから、フジグループの最新設備で、脳の検査をもっと徹底的にするからね」(ユミ)
「えっ、どういう意味?」
「この前は主に、身体的な検査というか、内臓系とか、代謝系とか、呼吸器系とか、内分泌系とか、泌尿器系とか、脈管系とか、一般的な脳検査とかだったんだけどね。今度は、いろいろなやり方で脳とかの形態的、機能的な検査や、精神的な検査、テストを行うのよ」
「うんと、どういうワケで?」
「もちろん、あなたの見たシノンという幻視についてよ。そして、そのシノンがあなたを乗っ取ったって話、もうそれは二重人格を疑わすモノに違いないと思ったわ」
「そんなことが・・」
「そうかー!そういう事なのね!」(早乙女)
「でも、もうシノンは居ないから。サヨナラって、私から出てったから」
「そうかー!そういう感じね!」(早乙女)
「紫苑、この際だから、しっかりと最新技術で調べるべきよ。もう、手続きはしてるから。ねっ、弥生!」(ユミ)
「はい、わたくし弥生、お嬢様の御親友の為には、無理をしました」
「そうよ、なかなかアポイントが取れないんだからね、その設備を使うの」(ユミ)
「そ、そう・・ありがとう、いろいろと」(紫苑)
「さて、次は、藤堂の事ね」(ユミ)
「はいはいはい、その前に、お嬢様方、これを召し上がってください!」(弥生)
各自の前に出されたのは、小さめのどら焼き3種。
そして、緑茶を入れた湯飲みがその横に置かれた。
流石は優秀な秘書である弥生さん、素早い。
この子どらが、藤堂への対応を決める決定打となるとは、この時、誰も考えてはいなかった。
※作者の呟き
申し訳ありません。
書いてみると、長くなってしまって(;^_^A
しかし、次の更新は早いのでご安心を!
女子会って、なんでこう、ペチャクチャ喋っちゃうんでしょうね?
まったく、3人でも長かったのに、4人ともなると(笑)
男性読者さんは、女子高生がマックとかで学校帰りに友達とツルんで席をずっと占領してるのは、こういう事だったんですよってことで、彼女達には温かい目を。
あっ、都会では、もうマックは古いかもですが(笑)
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