第3話
三蔵は布団に入っていたが寝付けずにいた。明日は繋ぎでおしまに会うのだ。繋ぎとは文字通り繋ぐのだが薬師問屋に引き込みに入っているおしまに外で会い文や口頭で引き込み先の情報を預り弥吉に伝えるのである。
(最近、おしま姉さんの俺を見る視線が妙に艶がある。熱いものがある。俺は、ずっとおしま姉さんを熱い目で見ていた。それに、、あの身体、ここ最近のおしま姉さんの身体はたまんねぇ。たまんねぇよ)
ここ半年の内におしまは肥えた。腰、尻、ももと肉付きがよくなり丸みをおびた。その丸みが三蔵を誘惑しているのである。おしまは三蔵が自分に向ける熱い視線を見て楽しんでいる。おしま自身も熱い視線を送るのだ。
「おしま姉さん」
思わず声が出た。
(おしま姉さん、ああたまんねぇ。おしま姉さん。おしま)
身体が腹の下が熱くなる気付けば三蔵は己のイチモツを握りしめていた。三蔵はおしまの事を考え寝れずにいたのだ。
トントントンッ!表の戸を叩く音がした。
「誰だい?」
(何て間が悪いんだ)
言いながら三蔵は布団から半身を起こしている。
「清十郎ですよ」
「清十郎さんかぁ。すぐ開けますからね」
灯りを付け戸を開けて清十郎を中に入るように言ったが清十郎は入らなかった。清十郎が三蔵の家を訪ねてくる事はまずない。薬師問屋、奥村嘉兵衛宅への今回の盗みの仕掛けに何かがあったのである。
清十郎は清十郎で違うカタチで薬師問屋、奥村嘉兵衛宅に入りこんでいる。三蔵が用意をした男達が店で因縁をつける。店側が追い払えず困り果てているのを確認して店に入り追い払う。男達は刃物を振り回すが清十郎の敵ではない。ベタな芝居だったが上手くいった。店側は酒と肴で清十郎をもてなし「お侍様さえよければ、いつまでいてもらっても」と部屋を用意した。週に一度は小遣いもでる。清十郎がこのような暮らしを初めて3カ月になる。要するに用心棒として安く雇われたのだ。
「おしまさんからです」
清十郎は文を三蔵に渡した。
「おしま姉さんから、、」
書かれている内容は弥吉に渡された文と変わりはなかったが
一味の中の他の者に頼む事もできたが三蔵、お前さんを見込んで名だしで頼む事にしたのさ。場合によっては命懸けだ。頼んだよ。
この一文が書き足されていた。
「万事心得ました。おしま姉さんによろしくお伝えくだせぇ」
清十郎が帰ると三蔵はもう一度、例の文を見直した。緊張感が走る。おしまの見立て通りに他の一味の引き込みが入り込んだとして、他の一味が血を見ない仕事をする一味なら頭同士の話し合いで収まるだろう。だが、血を見ることを何とも思わない獣達なら、、、まさしく命懸けになる。後をつける事も命懸けになるのだが、最悪の場合は一味同士が殺しあい潰し合う事になる。
三蔵は仕度をして武蔵屋へ向かった。武蔵屋に入ると辰三が待っていた。
「おお、三蔵か。お頭なら自室にいなさるよ」
「辰三の兄ぃ。今回は大変な事になりやがったぁ」
「三蔵、俺はな二代目の盗みに関しては見ざる聞かざる言わざるなのよ。それにな俺は今は堅気だ。お前の兄貴分でもねえのさ。ただの船宿の爺さ。早く若旦那の所へ顔を出しな」
辰三は煙草に火を付けた。三蔵には辰三が少し寂しげに見えた。三蔵は弥吉の部屋へと向かった。
「三蔵です。失礼いたしやす」
「入んな。一杯やりなよ」
三蔵が弥吉の前にすわる。弥吉は椀に酒を入れ三蔵に差し出した。弥吉は茶をすすった。三蔵はグイと酒を飲みほした。弥吉は腕を組み押し黙っている。その弥吉を三蔵は凝視している。しばらくして弥吉は小判の入った包みを三蔵に渡した。
「三蔵、すまねえな。危ない役目だが向こうはまだ俺たちの事は勘づいちゃいねぇはずだ。だが危険な事には変わりはねぇ。この金で上手くやってくれ。また松の野郎を使うんだろ?美味いもんでも食わせてやりな。まずは博打か」
「へぇ、松次郎とは息が合いますもんで何かとやりやすいんでさぁ。今頃はどこぞの中間部屋の賭場にいますよ。では明日、源三の兄ぃの店で」
「三蔵、気をつけてな。松の野郎は脱兎で面倒をみてやってもいいだぜ」
と立ち去ろうとする三蔵に声をかけた。
「お頭、、。ありがてぇ。松次郎に話をしてみますよ。では」
部屋を出ようとする三蔵に
「清十郎さんはどんな様子だったよ」
「いや、中に入るよう言いましたが入らずに帰りましたよ。では」
「そうか」
弥吉は何かを納得したようにうなずいていた。三蔵はうなずく弥吉を見ながら襖を閉めた。笑えるのを耐えながら武蔵屋をあとにした。
逃げる兎と護る刃 玉葱剣士 @honsyonotetu
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