聞いてない音楽を糞呼ばわりする出版社社長の下、新人賞の応募作も読まずに糞呼ばわりし天才を逃す

碧美安紗奈

聞いてない音楽を糞呼ばわりする出版社社長の下、新人賞の応募作も読まずに糞呼ばわりし天才を逃す

 世界に新種の疫病が蔓延するなか、ある国で〝六輪ろくりん〟という世界的なスポーツ大会が開かれようとしていた。


 そんな中。子供のピアノの発表会やら何やらにも病の感染防止のため観客を入れないという対策が取られ、いくらかの国民は不満を抱いていた。


 やがて六輪も原則無観客での開催となったが、この流れにある男が吼えた。


 大手出版社UTIYAMAうちやまの代表取締役社長で、六輪にも組織委参与として関係していた男。冬原柔ふゆはらじゅうである。


「六輪と比べりゃんなクソなピアノの発表会なんてどうでもいいわ。それを一緒にするなんてアホな国民感情だな!」


 後に批判を浴びて冬原氏はこの発言を謝罪したが、〝言い方〟の訂正に留めた。即ち彼の出版に対する考え方は、軒並みこのままだった。


 音楽も芸術、文芸の一部である。

 出版社におけるその態度とはいかなるものか。

 もしかしたら将来の天才がいたかもしれないピアノの発表会を、聞きもせずにクソと決めつける。読んでもいない本をクソと決めつけるも同じである。


 ゴッホは生前一枚しか絵が売れず、宮沢賢治が受け取った原稿料は童話一つで得た5円だけであったという。二人とも死後大々的に評価されたのだ。


 しかしSNS等で多くの才能を見出しやすいこの現代にあって、冬原柔は自社が運営する小説投稿サイト『ヨミカキ』で人気ランキング圏外の作品を同様に、


「ランキング上位と比べりゃんなクソな下位の小説なんてどうでもいいわ。それを一緒にするなんてアホな筆者感情だな!」


 と読みもせずにクソ扱いする方針を打ち出した。


 さて、この頃すでに新人賞で一次選考落ちしながら後にヒット作を生んだ『とある○術の○書目録』、『○法科高校の○等生』などの作者らがいたのだが、冬原柔の方針によって新たな『ヨミカキ』ランキング下位に潜んでいたそうした才能は見逃された。


 後に他の出版社に見出だされて大作家となった元『ヨミカキ』ランキング下位作家は、痛烈に批判したものである。


「きちんと読まれた上で評価された自作品と比べれば、視聴してもいない作品をクソ扱いする出版社UTIYAMA社長冬原柔の評価なんてどうでもいいですね」


 後にこの作者の作品が売れまくる中、UTIYAMA社は冬原柔に反発した作者にその出版を拒否され、出版不況の中潰れるに至るのだった。


 めでたしめでたし。

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