キューを片手に、傾けた瓶。喉を下るのは、あの頃を思いだす淡い味。

ビールが飲みたくなった。久しく会っていない友達に会いたくなったし、ぶざけながら夜を明かしたくなった。


懐かしい想い出が蘇ったり、文章から漂う渋かっこいい雰囲気に酔ったり、でも少しお洒落に決め込んだ雰囲気も残る物語に共感したり。読めば誰もが、そして色んな角度から、この話を味わう事ができると思う素敵な作品です。
読んでいて面白かったのは、同じような場面も、状況によって伝わる雰囲気も、そこから読み解ける感情も、全く違っていたこと。例えばメインの、ビールを飲みながら、友人とビリヤード台を囲む。この行為が、旧い思い出にも、爽やかな記憶にも、そして温かい家庭的なシーンにも、ぴたりと当てはまるのだから、びっくりしてしまう。ひとえに、作者様の力量故でしょう。

私達の生活の中で、確かに出会うようなシーンに沿った物語と、そんな私達に響く言葉が選ばれて書かれていて、すとんと胸に落ちてくる。とても魅力のある文章です。

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