きっと何か超常能力のある世界なら、片隅にいくつかあるだろう光景のひとつ

 不思議な能力が人知れず存在する世界、偶然授かった能力がしかし「あってもなくても同じ」だった人の、戦わない戦いの物語。

 いわゆる「異能」を主軸に据えた現代ファンタジーです。
 何がすごいってもうとにかく綺麗……! 設定、というか能力的なものの解釈から、その光景の細やかな描写まで、もうすべての彩りがキラキラと美しい物語。

 異能という言葉からすぐ想起されるような、個々人に特有の超常能力が登場するお話ですが、でも少なくとも「バトルもの」ではないところが本作最大の特色。

 少なくとも作中に戦闘シーンのような場面はなく、しかしこの物語世界の現実としては、戦闘のようなシビアなお仕事も存在している世界。
 主人公は能力を持つ側の人間でありながら、でも戦闘のような危険な仕事には向かず、つまりはそのちょうど境界にいるかのような立ち位置が魅力的でした。「その世界において、おそらく彼女以外には語りえないもの」を語ってくれる物語、というのは、それだけで素晴らしいものだと思います。

 また主人公のみならず、その兄や彼の連れてきた少女についても。それぞれの立場や抱えたものの違いなど、分厚いドラマの読み応えが嬉しい作品でした。