クソ暑い

デッドコピーたこはち

夏にはアイス

 外に出る。太陽と青空。殺人的日射とアスファルトの照り返し。都市がホットサンド・メーカーとなり、天と地の挟間にあるものすべてを焼き焦がす。大気が燃えている。そよ風が熱風に変わる。

 歩き出す。すでに後悔している。家を出るべきではなかった。見上げれば、天突く入道雲が、痛みを伴うほどの日差しに照らされ、白く輝いている。もし、雲が綿アメだったなら、すでにその形を失っていることだろう。

 そう、甘味。アイスが食べたい。それだけがいまの望み。自宅からコンビニまで歩いて3分。裏道を使えば車を使うよりも早い。

 サンダル越しに、アスファルトの熱が伝わってくる。ノーブランドのプラスチック黒サンダルがアスファルトと共に溶け出し、足を上げるたびに、糸を引いてねばつく姿を幻視する。もはや、この世界はヒトが生きていける場所ではなくなってしまった。

 住宅地を抜けて、畑のあぜ道に入る。そばを流れるドブ川の水がとても涼し気に見える。水面がきらきらと日光を照り返す。ドブの底にこびりついたきったない藻が、ゆらゆらと揺れている。乾いた土のにおいがする。見事なきゅうりの棚。動物の気配はしない。もみ殻を漁っている雀の姿も、列をなして歩いているアリの姿も見かけない。

 また、住宅地に入る。どこかの家から、子どもたちの笑い声が聞こえる。噴き出した汗が、頬を伝って顎から滴り落ちる。限界が近い。辻を右に曲がる。コンビニが見えてくる。

 坂を上る。駐車場に着く。コンビニに入る。

 素晴らしい冷気。生の世界。ビバ、冷房。ありがとう、テクノロジー。他に客の居ない店内をゆっくりと一周してから、アイスのコーナーに向かう。

 より強い冷気。形さまざまの、色とりどりのアイス。

 ジャイアントモナカ? 否。

 シューアイス? 否。

 ゴリゴリくん? 否。 

 宇治金時? イエス。カップのやつ。今日はそんな気分。

 支払いを済ませる。袋は断る。紙スプーンは貰う。コンビニを出る。

 ふたたび、熱気。しかし、手元には冷気。家に帰ってから食おうと思っていたものを、いま食う。

 坂を下る。抹茶と氷。うまし。辻を左に曲がる。静かな住宅地の道を行く。抹茶と氷とあんこ。より、うまし。

 畑のあぜ道に入る。きゅうりの黄色い花が目に映る。小石を蹴飛ばして、歩く。ふいに、より強い風が吹いてくる。熱風。

 また、住宅地に入る。チャリンコに乗ったおっさんとすれ違う。急いでいる様子。麦わら帽子。白T。茶色の革サンダル。小麦色の肌が汗に濡れてテカっている。

 家に着く。紙スプーンを空になった宇治金時のカップに入れて、ポケットの中のカギを掴む。




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