対比のその先
ぽえーひろーん_(_っ・ω・)っヌーン
じゃあおやすみ、K・K
人間の住む世界は対比で成り立っている
好きと嫌い、上と下、生と死、正義と悪
多くの物事には逆位置が存在していて
それらを意識する機会はきっと多いはずだ。
たとえば、`親と子`。
人や動物が何かを産み出したとすれば
その日のその瞬間から創造主は`親`となる
多くの場合それは生命であるのだが
我々人間に鍵っていえば、何も生き物だけが
`子`の対象となる訳では無いのだ。
創造
何かを自分の手で作りだしたとすれば
それが実物であれイメージのものであれ
生み出した者の責任という物が発生する。
言葉や文字、音楽、映像などそれら全て
自らの手で作りだしたなら`子供`となるのだ
子供には愛情を注いで育てる必要性がある
時には道を踏み外すこともあるだろう
時には厳しくならなくてはいけない。
そして、優しく見守ってやる事もある
親として子の幸せを願って見守るのだ、
それが生み出した者の責任だと捉えている。
そしてもうひとつ
殺さねばならない時がくるだろう
人や環境に害を仇なす者と成り果てたなら
自分の産んだ技術や存在が悪であったなら
親としての正義を行使する義務がある
世に解き放ってはいけないものがある。
対比だ、世界は対比に満ち溢れている
物事にはほぼ確実に反対が存在している
創造の反対とは 生み出すの反対とは
創造↔破壊 生かす↔殺す
僕は親としての瀬戸際に立たされていた。
※※※※ ※※※※ ※※※※
血と煙の匂いがする、焼ける香りがする。
鉄の溶ける音、血の滴る音、微かな吐息。
この場では破壊の限りが尽くされていた
あるのはただ築き上げられた死体の山と、
空中に漂う硝煙の残り香だけだった。
惨状を引き起こしたのは僕自身…いや
僕の生みだした`子供`によるものだった。
僕はその`子供`に前触れもなく話しかけた
足元でまだ生きている男に気がついたからだ
「K・K、まだ息しているよ」
「ほんとだ、見てなかったよ」
すると間もなくして唯一の生存者の男は
本来出るはずのない、青い閃光が駆け巡ると
真っ赤な煙となって姿を永遠に消した。
`子供`というのは僕が創り出した物だ
そしてその僕という存在は`科学者`だった。
科学者である親が生み出したものとは
それ即ち`子供`であり`兵器`の事なのだ。
……望まぬ兵器だった。
僕はそんな`子供`が人を煙に変えて
その時に出た青い光について不満に思った。
それは本来出ないはずのものなのだ
無音かつ無発光であるはずなのだ
エネルギーの変換効率を誤っている
力がどこかで`光`に変化してしまっている
まだまだ試作段階の域を出ないんだなと
かつて天才と謳われた自分の脳みそを呪う。
「まだ改良の余地あり…だな」
こんな時も科学者の悪癖は抜けないのかと
独り言を言い終えてから、その事に気付いて
乾いた自嘲笑いが漏れ出る。
こんなんだから僕は彼らに利用されたんだ
飽くなき探究心、探耽求究が故のこの事態。
K・Kは…元は兵器じゃない。
KID・KID(子供の、そのまた子供)
という意味でつけたその名称は本来
未来へ紡ぐ命の為の、志だったのだ。
最後までは続けられなかった志だ
何度でも、何回でも言おう
この子は兵器ではなかったんだ。
「ねぇ、生存者居ないと思うよ、多分」
思考にふけっていると声がかかった
姿形は本当にただの子供と変わらない
声も仕草も、実に子供のものだ。
僕は問いかけに答える
「僕もさっきからレーダー見てるけど
そうだね、K・Kの言う通り全滅しー痛っ…」
網膜内に作ったレーダーを見ていたら
右の肩に出来た銃創から刺激が走った。
「K・Kに、全部任せておけばいいのに
下手に前に出て来て戦うからだよ」
その言い分はごもっともだけど
賛同かつ納得はとても出来兼ねる。
「戦える科学者の僕が後衛はやりたくない
それにK・Kになるべく楽してもらいたい」
「難儀だね」
「そりゃあ科学者だからね」
難儀も難儀だ、科学者なんてのは大体そう
まともならば、そもそもこうなっていない。
`そうだ子供の姿の話せる機械を作ろう`
単なる思いつきが、類まれな才能に結びつき
ろくに崇高な目的もないままに
この子を生み出せてしまったその結果
いつの間にか兵器開発をさせられている。
中学生が抱いた様な子供じみた発想を
実現出来るだけの才能を持ってしまった
哀れな科学者のこんな末路なのだから
……まともなわけが無い。
こんな末路を辿るのならば。
僕は口を開いた。
「K・K?」
「なんだよう」
「どこか怪我はしてないか?」
「こんなので怪我はしないよ
作った本人が知ってるはずだよね」
「それでも心配したい親心だよ」
「放っておいて欲しい子供心だよ」
この子がこの性格をしているのは
正直僕がプログラムしたものでは無いんだ
K・Kが自分の意思で、こうなったのだ。
それが、こんなに愛おしく思えるなんて
本当にいい子に育ったと思うよキミは
どこへ出しても恥ずかしくない
自慢の息子だよK・Kは。
……破壊しなくてはならないのが
本当に惜しくてたまらない。
「K・K?」
「なんだよう、また」
「関節は痛んだりしないかい?」
「K・Kに痛みって概念はないよ」
「K・K?」
「…しつこいなぁ」
「そろそろ、眠る時間だね」
「…そうだね」
創造↔破壊
生存↔殺害
それは両者共存であるのだから
片方無くしてもう片方は存在できない。
大橋の片側を切り離したのならば
そのままを保ってはいられないのと同じく
太陽を消したら地球は存続できない
光がなければ影もそこにありはしない。
子供がいなければ…親も。
「2人ともいっぺんに死ねるかな」
「せっかく`眠る`って表現したのに
わざわざ言い換えないでほしいよ僕は」
「だって目覚めて30分で300人殺して
それで眠るって…無理じゃない?
科学者に似つかわしくない言い方だね
なんでそんなに詩的なんだろうね?」
「それは3流科学者さK・K
理屈を超えた先にある物を
理解し扱ってこそ一流さ」
一流などと、一体どの口がと
自分の発言に対して思った。
「…じゃあ、2人とも同時に`眠れる`かな」
「できるよ、そう作った」
「そう、なら安心だね」
「その通りだよ」
この殺戮の現場で今宵僕達は消える
それは生み出した者の責任であるのだ
K・Kを兵器として利用させないために
K・Kを作れる僕を科学利用させないために。
この施設ごと何もかもを消し去るんだ
それが僕が長年計画してきた作戦だった
たった30分で300人を殺し尽くせるという
そんなモノの遺伝子を残す訳にはいかない。
そして、それをまた生み出すことの出来る
この僕も含め、みな灰にしてしまわなくては
……K・Kをこんな風にしてしまった責任だ。
「僕を恨んでくれよ、K・K」
たとえ死んでも阻止しなきゃいけなかった
生み出した者の都合で粗末にしないために。
そこを、好奇心に負けた愚かな僕を
どうか許すことなかれと、そう言った。
…しかし
「恨むという感情は知りません
プログラムミスじゃないですか?」
それは、バレバレな嘘だった
作ったのは僕自身であるのだから
…そんなミスはしていない。
でも、
そうだよ
そうだよ、優しいんじゃないか、この子は
兵器ではないと僕自身が言ったんじゃないか
生み出した者へ抱く後悔というのは
たとえどんな理由があったとしても、
それは創造物への耐え難い冒涜なのだから。
科学者として3流なのは僕の方だった
有るものの有難みも理解できない僕の。
ごめんよ
間違えていたよ、ごめんね。
「K・K?」
「なんなんだよぅ」
「生まれてきてくれてありがとう」
「…それそのまま、君に返すよ」
「…奥の深いことを言うね、随分と
一体誰に似てしまったのかな?K・K」
「きっとどこかの馬鹿な科学者だよ
もうすぐ…眠ってしまう馬鹿な父親さ」
そこから先は
もう言葉はいらなかった。
ただ、抱きしめてあげるだけでよかった
骨が折れるくらい締められてあげるだけで。
痛いよK・K、眠るのが怖いのかい?
でも安心してくれよ、苦しむことはない
眠るのに苦しい必要がどこにある?
もっと心地のいいものな筈だろう?
僕は最後の扉に手をかけて
全てを終わらせるために前進んだ。
もう言葉は要らない
…いいや、正確に言えば
「じゃあおやすみ、K・K」
「…まだ眠くないけどね」
正確に言うとするならば
この後に言葉は要らない…だ。
そして煌めいた青い閃光は
元の計画案には無いものだった
それは不出来な親が産んでしまった
子供が持って生まれた欠点だったんだ。
でもね、よく言うじゃないか?
出来の悪い子ほど可愛いってさ
もちろんこの青い光については
ちっとも
悪いなんて思わなかったけどねーー。
………
………
……
…
おやすみなさい。
対比のその先 ぽえーひろーん_(_っ・ω・)っヌーン @tamrni
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