「獣人たちにハーブティーを貰いに行く、残念ながらキミの分はないよ」――吸血種統括である彼女は意地悪だが、同胞の胸の谷間にこういう書置きを残すくらいには優しかった……。
世界最強でありながら、普通の少女のように海で日課の日光浴を楽しみながら、人類が滅んで、新しく生物が誕生した世界を達観して見守っていた。
吸血種統括―――ジェイミーは新世界の神に等しき存在であり、無限の生を生きている。秩序維持のため、そして自分の心の赴くままに、誇り高き竜種の味方をして、天敵の怪鳥を滅ぼしたり、平和を脅かす過激な種族を殲滅する。
彼女はきまぐれでマイペースで、好奇心旺盛で、この新しく生まれ変わった世界を誰よりも楽しんでいる。
読んでいると、『新緑と水色の世界』に入り込んでしまっていたような、優しくも芯のある文章。人の心情はかくあるべしやと思ってしまう心理描写。
一話目はまるで広大なファンタジーゲームのプロローグの音楽のように優しく読者の心に波を寄せ、二話目からは主人公を通して、全能感と達成感を追体験できるような物語になっています。
正直、こんなストーリーは他の人には書けないと断言できるくらい、フラットなのに優しい文章で描かれていて、だからこそ、主人公が求めているものが、彼女自身が語ってもいないのに、分かってしまうほどの臨場感があります。
吸血種統括―――ジェイミーは今の生き物にとって残酷なのに美しい世界で生きてることを楽しんでいる。自分のしたいことができて、誰かのためになにかが出来ることがとてもとても嬉しいのだ。
こんな気持ちを追体験できる作品はこの物語だけです……。
だから、「キミは来ないかい? ボクの近くで、ボクが生きてくこの世界を、ボクと一緒に見て欲しいんだ」、とジェイミーがこれからこの物語を読もうとしている人々に、話しているのだとそんな気がしてならないのです。