-語られなかった懺悔-
あの夏のあの日、私たち──いえ、“私”がろくろ首としての異能を喪い、結果的にそのまま胴体と立場を取り替えて、その後の人生を歩むことになりました。
聡美姉様は、それがどうしようもないこと──私の体質によるもので、多くの先祖返りした同族と同様、思春期を過ぎると能力が減衰・消失したからだろう、と推測されていましたが……。
たぶん、それは違います。
私が「元に戻りたくなかったから」、“昇天”──首抜けの技が発揮できなかったんです。
もともと学校などで、周囲にいる子供っぽいクラスメイトに馴染めず、少しでも早く大人になりたいと願っていた私にとって、一時的とは言え聡美姉様の胴体を預かり、その立場も継承したことは、良い意味での「晴天の霹靂」であり、嬉しいサプライズでもありました。
それでも、少なくとも“あの日”アレを目撃するまでは、キチンと時が来たら、姉様に身体を返すつもりはちゃんとありました。
ですが……。
あの時、トイレで変態不審者に襲われ、なすすべもなく窮地に陥っている聡美姉様──いえ、“美里”を見た時、私は強い恐怖と拒否感を感じたのです。
『あんな無力でか弱い幼女の身体や立場になんて戻りたくない』
虚飾を剥ぎ取った本音を吐露するなら、そんなトコロでしょうか。
いえ、数日後の首抜けの実行自体は、少なくとも意図的に手を抜いたつもりはありません。それは誓えます。
ですが──私たちの異能はとても繊細で、心に傷を負っただけでも巧く使えなくなることはザラだと、聡美姉様は言っていました。
だとしたら、あの日、私の目に焼きついた光景──「男に襲われて涙を流しながら怯える幼女」の姿が、私の心を歪ませ、異能を扱う部分をおかしくしてしまった、ということも十分考えられるのではないでしょうか。
この僅かな負い目を隠しながら、私は、せめて“妹”が幸せな人生を歩めるよう、全力を尽くすつもりです。
首替奇譚異聞 -幼女抄- 嵐山之鬼子(KCA) @Arasiyama
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます