-語られなかった懺悔-

 あの夏のあの日、私たち──いえ、“私”がろくろ首としての異能を喪い、結果的にそのまま胴体と立場を取り替えて、その後の人生を歩むことになりました。


 聡美姉様は、それがどうしようもないこと──私の体質によるもので、多くの先祖返りした同族と同様、思春期を過ぎると能力が減衰・消失したからだろう、と推測されていましたが……。


 たぶん、それは違います。

 私が「元に戻りたくなかったから」、“昇天”──首抜けの技が発揮できなかったんです。


 もともと学校などで、周囲にいる子供っぽいクラスメイトに馴染めず、少しでも早く大人になりたいと願っていた私にとって、一時的とは言え聡美姉様の胴体を預かり、その立場も継承したことは、良い意味での「晴天の霹靂」であり、嬉しいサプライズでもありました。


 それでも、少なくとも“あの日”アレを目撃するまでは、キチンと時が来たら、姉様に身体を返すつもりはちゃんとありました。


 ですが……。

 あの時、トイレで変態不審者に襲われ、なすすべもなく窮地に陥っている聡美姉様──いえ、“美里”を見た時、私は強い恐怖と拒否感を感じたのです。


 『あんな無力でか弱い幼女の身体や立場になんて戻りたくない』


 虚飾を剥ぎ取った本音を吐露するなら、そんなトコロでしょうか。


 いえ、数日後の首抜けの実行自体は、少なくとも意図的に手を抜いたつもりはありません。それは誓えます。


 ですが──私たちの異能はとても繊細で、心に傷を負っただけでも巧く使えなくなることはザラだと、聡美姉様は言っていました。


 だとしたら、あの日、私の目に焼きついた光景──「男に襲われて涙を流しながら怯える幼女」の姿が、私の心を歪ませ、異能を扱う部分をおかしくしてしまった、ということも十分考えられるのではないでしょうか。


 この僅かな負い目を隠しながら、私は、せめて“妹”が幸せな人生を歩めるよう、全力を尽くすつもりです。

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首替奇譚異聞 -幼女抄- 嵐山之鬼子(KCA) @Arasiyama

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