五 結婚式

「――病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」


「はい。誓います」


 牧師さまの前に白いタキシード姿の彼と並んで立ち、ウェディングドレスを着たわたしは誓いの言葉を述べる。


 あれから約半年……わたしは町の教会で、付き合っていた彼と結婚式を挙げていた。


 わたしの方には親族の出席者がいないため、彼の家族と幾人かの会社の同僚、友人達だけのこじんまりとした式ではあるが、チャペル内には荘厳にして穏やかな空気がゆったりと流れ、なんとも幸せな雰囲気に包まれている。


 ……だが。


 ふと、ベールの下から入口脇の一番後の席に目を向ければ、そこには相変わらず母さんが座っていて、じっとこちらを睨みつけるように見つめている。


 きっとこの先もずっと、母さんはわたしのことをああして監視し続けるのだろう。


 ……まあ、いい。もう諦めた。


 そんなに監視していたければ、いつまでもしているがいい。


 でも、あなたにはそうやって見ていることしかできないのだ。どんなにわたしがあなたの意に反した生き方をしようとも、それに対してどんなに苛立ちを覚えようとも、もうけして手出しをすることはできないのである。


「それでは、誓いのキスを……」


 わたしが母さんの方へ意識を向けている内にも、牧師さまが誓いのキスをわたし達に促してくる。


 彼の手でベールを捲り上げられたわたしは、母さんの方を向いて勝ち誇ったように笑みを浮かべると、あえて見せつけるかの如く誓いのキスをしてみせた。


                      (母さんとの暮らし 了)                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

母さんとの暮らし 平中なごん @HiranakaNagon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ