四 葬送

 数日後、わたしは住んでいるマンションの近くを流れる川の畔に立っていた……。


 土曜の昼下がり、ちょうど近所で都合よく工事をやっていたので、これ幸いとその騒音に紛れるようにして、部屋の真ん中にビニールシートを敷くと母さんの骨をハンマーで粉々に粉砕した。


 長年土の中に埋めてあったため、それほど力を込めずとも意外と簡単に女の腕でも砕くことができた。


 その粉々になった母さんを川に流すため、今、わたしはこの河原にやって来ている。


「さようなら、母さん……今度こそ本当にお別れよ……」


 川辺でわたしはしゃがみ込むと、トートバッグからビニール袋を取り出し、その中に詰まった白い粉を悠々と流れゆく川の流れに撒き散らす。


 もちろん不審がられないよう、周囲に人がいないことを確認しての細心の注意を

払ってである。


 傾きかけた西陽に、キラキラと輝く水面へ落ちた母さんの粉は、すぐに大河の一部となって流れて行ってしまう。


 このまま海に出るのか? それとも河口で砂州の一部とでもなるのか?


 いずれにしろ、これで母さんは跡形もなくわたしの前からいなくなった……これでようやく、わたしは真に母さんの支配から解放されるのだ。


「ふぅ……これでよしと。なんだかすっきりしたわ……」


 だが、胸のつかえが取れた思いで、わたしが立ち上がろうとしたその時だった。


「……っ!?」


 わたしはふと、となりに誰かがいる気配を感じた。


「……母……さん……」


 顔を上げ、そちらへ目を向けると、そこにいたのは今しがた、川の流れの中に消えたはずの母さんだった。


 なんとも恨めしそうな顔をして、じっとわたしのことを見下ろしている。


「そんな……」


 わたしの考えが甘かった……いくら物理的に消滅させようとも、それぐらいのことで母さんのしつこさから逃れることはできないのだ。


「もういい加減にして! もうわたしのことは放っといてよ!」


 わたしは慌てて立ち上がるとそんな言葉を吐き捨てるように浴びせかけ、母さんから逃げるようにしてその場を駆け出した――。

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