噂のお化け屋敷

あきれす県

第1話 噂話

歳若い男性が静かに語り出す。


東京都某所に遊園地がある。

この話の主人公は…Aくんとしよう。

Aくんは友人3人と共にその遊園地へと遊びに来ていた、久しぶりの遊園地ということもありAくん達はとにかく楽しんでいた。そして時刻は16時頃になり、友人はお化け屋敷へ行こうと言う。

そのお化け屋敷は、要所要所で生身のスタッフが怪奇の類に変装をし、客に恐怖を提供することが有名なアトラクションであったのだが、友人曰く本物の幽霊が出るなどの噂があった。

Aくん達は半分噂に期待をしつつお化け屋敷へと向かった。

お化け屋敷に入って驚きながらアトラクションを楽しむこと10数分、隅に泣いて蹲っている小学生くらいの女の子がいた。


女の子は短めのボブカットで、白いブラウスに暗めのチェック柄のスカートを履いていた。

親御さんとはぐれちゃったの?と声をかける友人。

そうなのお母さんがいないの。という女の子がいうので、一緒に探そうかと他の友人が言いながら肩に手を置いた。

すると今まで泣いていた女の子がすくっと立ち上がり、振り向きざまにこう言った。


あ、お母さんいた…


そう言いながら振り返った女の子の顔はとてもこの世の者とは思えなかった。

本来、眼球のあるべき場所には目玉など無く真っ黒に窪んでおり、窪みからは大量の血が流れ出ていた。

そんな怪異然とした少女らしきものがAくん達の後方を指差す。

少女の風体の怪異に友人達は、ひっと驚嘆の声をあげる。

4人の中で1番後方にいたAくんは、前方にいる怪異に恐怖を感じながらも自分の後ろから感じる気配と寒気が気になり後ろを振り返った。

すると、振り向いた先に何かがいた。

暗くてよく見えないが、その何かはゆっくりとこちらに近づいていた。

最初は動物かと思った。四足歩行をしていた為だ。

よくやく建物内の明かりの元へその姿を現したとき、それはこの世のものでは無いと知った。

ソレは一見すると白いワンピースを着た長い黒髪の女性なんだが、姿勢がおかしい。

四つん這いでこちらに向かってきている。

そしてよくみると服はボロボロで髪もボサボサ。両の目はどちらもおかしな方向を向いていた。

四つん這いの怪異は、Aくんがその姿を確認したと同時に物凄い速さでこちらに迫ってきた。

Aくんは叫び声をあげながら逃げ出した。

後ろから友人達の阿鼻叫喚が聞こえたが、友人達を気遣う余裕もなかったAくんはそのまま無我夢中で走り続けた。

しばらく全力疾走を続けていたAくんは呼吸が苦しくなり、立ち止まり膝に手を置き肩で呼吸をしていた。


気づくと友人達の声も走る音も聞こえなくなっていた。それに加えて違和感を感じた。

今までとは全く雰囲気が異なる場所にいたのだ。

先程まで、言うなれば廃病院を模していた建物内にいたのだが現在Aくんがいるのは深い霧に覆われたレンガ造りの壁が広がる迷路の様な場所にいた。

お化け屋敷に入る前に見ていた建物の大きさからしても、広さと高さがどうやっても比例しない。広大過ぎるのだ。

自分の身に起きた事に理解が追いつかないAくん。混乱の中で遠くから地鳴りの様な低音が聞こえてきた。

音の出どころを確認しようとするも異常に深い霧により遠くを確認することができない。そしてその音は段々と音量が大きくなっていった。1つ音が鳴る度に地面が震え、それが近づいて来る。その音が足音であることに気づいてしまった。

本能的にAくんは追われていると感じた。全身の毛が逆立ち鳥肌が立つ。頭の中で、逃げろの一言しか浮かばなかった。再度Aくんは走り出した。

向かってきているモノの影も見えないのに真後ろに居るような、絡みついているような気配に恐怖し嘔吐感を覚えつつも、立ち止まることの恐怖を前に無我夢中で脚を動かした。

右から左から重々しく迫る気配の恐怖に、Aくんは既に今何処を進んでいるのかわからなかった。そもそも霧のせいで見通しも悪く、方角なんてものは分かるはずもなかった。

何かに追われている恐怖、何処を走っているのかわからない恐怖、立ち止まることの恐怖。恐怖以外の感情が湧かなかった。

そんないつ終わるのかも分からない永遠に感じた時間も不意に終わりが訪れた。ついに終わりを迎えた。絶望という名の終着点にたどり着いてしまった。

Aくんの前に壁がある左右にもレンガ造りがそびえ立っている。行き止まりだ。

Aくんが行き止まりで立ち往生しようとも巨大な足音は近づいてくる。Aくんの状況など一切介さず近づいてくる。その巨大な何かがそうしたいからと近づいてくる。

新たな道を探し続けていたAくんは、遂にここで死ぬんだと思った。諦めてしまった。まだまだやりたい事はたくさんあるのに、ここで自分は終わるのだと悟ってしまった。どうしようもなく折れてしまった。膝から崩れ落ちた。もう体力も限界だった。両手を地面につけ全身が倒れる手前で留まった。それがAくんにできた最後の抵抗だった。

そして足音はとても近い位置まで迫ってきていた。無意識に顔を上げた。しかし顔を上げても影すら見えなかった。気配をしっかりと感じているのに姿を捉えることができない。深い霧で見通しが悪いのはわかるが、すぐ近くにいると思われるのに何も見えないというのはどうにも奇妙だが、満身創痍のAくんはただただ混乱していた。

突然声が聞こえた。Aくんの心境など意に介さず、自己中心的に、自分の思うままに。


むすぶか、むすばないか選ぶがいい。


何を言っているか理解ができなかった。Aくんに問われているてていることを理解するまでにするまでに時間がかかった。

コミュニケーションできることにも予想外だったが、怪物の声らしき音声が頭の中に直接響いていわゆるテレパシーで会話をするだなんて誰が予想できただろうか。


むすぶか、むすばないか選ぶがいい。

むすべば眷属として生き、むすばねば即座に彼方の芥となるだろう。


再び頭の中に響いた。その交信を最後にAくんは友人たちといたお化け屋敷の建物内と思われる場所にいた。何が起こったのかわからずフラフラと出口に向かって歩いていくAくんがいた。

出口から出ると友人がいた。友人たちはAくんが先に出ていたと思っていたらしく面食らっていた。

Aくんの彷徨っていた時間はその程度の反応になるほどの短い時間だったのかと疑問になり、皆と別れてからの時間を聞いてみたところ10分ほどだと言われた。明らかにおかしい。数時間は経っていた。

意を決し友人に事の顛末を話すべく駆け寄ろうとしたとき、後ろから寒気と怖気を伴う視線を感じた。冷や汗を感じつつゆっくりと振り返りAくんはぎょっとした。後ろにいたのは遊園地のスタッフが数名だったのだが、その全員が紅い目を見開きながらAくんを凝視していた。

Aくんがそれを確認するや否や、時間が止まっているようにこちらを凝視していたスタッフ達は普段の業務へと戻っていった。

Aくんは戸惑いながらも後ずさりながら友人たちへと向かって走り出した。


しっかりと育め


頭の中に静かに声が響いた。瞬間Aくんの意識は途切れた。


ふふふ。恐ろしいことってあるんだね。さて、Aくんはこの後一体どうなるんだろうね。お化け屋敷から霧の深い迷路に居たことや追いかけてくる謎の正体も気になるよね。こんな楽しそ…いや恐ろしいことは是非とも誰かに解決をしてもらおうじゃあないか。そういえば、階段話が好きな子がいたなぁ、その子にこの話したみたらどうなるのか興味が湧いたよ。

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