ビデオテープ

ぽにょまる

短編です。


夢から覚める。

君は隣にはいない。どこだろう。

名前を呼んでも反応しない。

隠れてるのか?見つけてやるぞ。

あれ?どこにもいない。君のブーツが一足ない。出かけたんだな。もう昼前だし。ご飯でも買いに行ったのか。探しちゃってちょっと恥ずかしいじゃないか。さっきの夢なんだったっけ。思い出せない。なんかずっと同じ夢を見てるような気がする。気のせいか。牛乳を飲もう。あれ?ない。そうか牛乳を買いに行ってくれたんだな。やっぱりいい女だ。

へへ。帰ってくるまで本の続きでも読むとするか。ん?こんなとこまで読んでないぞ。

「赤青緑...」

ここだここだ。

割と読み進んだな。それにしても遅いな。

もう昼過ぎだってのに。

服でも見てんのか。新しいブーツが欲しいって言ってたもんな。金がないから買えやしないのにな。なんかごめんな。

痛っ。へんなのに小指をぶつけてしまったよ。

なんだこれ。ビデオテープか。

久しぶりに見るか。

懐かしいな。そーいえば行ったな。

君の好きな菜の花畑。なぜかそこで君は泣いていたね。幸せだからって。

可愛いなやっぱり。

次はクリスマスか。ここのホテルすごい安いのに綺麗だったな。

また行きたいな。

うわもうこんな時間だ。少し観入りすぎたな。それにしても何してるんだろ。

遅すぎる。ビデオテープのせいではやく君に会いたいってのに。

ふとカレンダーに目をやった。

今日は6月25日。2012年?

なんで5年前なんだ?

そうだ。そうだった。

5年前のこの日君は亡くなってしまったんだ。

切らした牛乳を買いに行ってそこで事故に遭ったんだ。

全てを思い出した。同時に僕の全てが涙と共に床に溢れた。

見つかるわけがなかったんだ。

君はここにいないんだから。

僕がずっと見ていた夢はこれだったんだ。

夢から覚めなければ思い出すことはなかったのかな。

蛇口を捻ってカルキ混じりの水で喉を潤した。

君の買ってきた牛乳が飲みたいよ。

止まらない涙を拭いながら残り少ないビデオテープを挿し込んだ。

画面に映る君を見ながら今を忘れさせてくれる夢に僕はまた潜る。


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